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思考力を高める:脳科学で競争優位に立つ時代

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思考力を高める:脳科学で競争優位に立つ時代

次から次へと受信ボックスに届く緊急を要するメール。ビデオ会議をやっ ている隣のデスクから自分の名前が上がるのが聞こえてそっちの方向を 見る。上司が自席に来て一週間ずっと打ち込んでいる提案書についての 質問をする。急いで追加情報を入手するためにネットにアクセスして調 べる。気がついたらいつのまにかお昼でランチ休憩をとる。この時点で、 すべき仕事を予定どおりに遂行するのはままならず、まったく集中できて いない状況にいささかいやになる。Facebookに目をやると、今日が大学 時代からの親友の誕生日であることに気づき、彼女宛の73のコメントを 読みながら、電話をかけてみようと思う。電話中もメールをチェック。ふと 午後のミーティングに遅れていることに気づく。そのミーティングはすで に3つ目のミーティング。ストレスを振り切るように、強いエスプレッソを大 きなカップに入れて、ミーティングに参加する。そして、ミーティング中も提 案書に目をやり、作業を続行する。

情報過多が生む貧困

今日、仕事で常に気が散る状況はほとんどの人にとって例 外なく、当たり前のことになっている。この膨大な情報が「注 意力」の貧困をもたらすという名言もあるくらいだ。多くの 人々はこの精神的な戦いの中で毎日仕事をこなしている。 情報が溢れる中、物事を迅速に処理し、インサイトを導きだ し、提案し、決定し、次々と前に進めることが常に私たちに は求められている。その中で頭の中に断片のようにあるも のをなんとか間に合わせで見つけて、無理矢理行動に移し ているのが現状ではないだろうか。

この膨大な情報が「注意力」 の貧困をもたらすという名 言もあるくらいだ。 多くの人々はこの精神的な 戦いの中で毎日仕事をこな している。

そして、その時、仕事がもっとはかどればと思い、もっと集中 して仕事をこなさなければと自分に言い聞かせるのだ。し かし、現実はどうだろう。どんなに懸命に働いても、私たち の脳はそうは動かないのである。人間のより高次レベルの 認知能力というものは他の哺乳動物にはなく、周りの状況 に順応させる能力も生存するために人間の進化の中に埋 め込まれてきたものである。そう考えると今日の働き方が どうもがいても動きがとれない状況にもあるのも当然で ある。気が散るのは極めて自然なことで、脳を訓練するの も人間の生まれもった能力かもしれない。

今日、多くの企業で蔓延しているのがこの「注意力」欠如と いう問題である。「注意力」とは何かを理解せずに多くの人 が環境に適応するために苦労している。いまや脳科学は世 界中 4万箇所以上もの研究室で盛んに行われ、活気溢れる 研究分野として実用化が進んでいる。「注意力」のプロセ スというものも解読され、それを参考に職場で「注意力」 向上をいかにサポートするかの議論も始まっているのだ。

この膨大な研究の成果によって、今、人々が仕事で直面 する多くの課題を解決しているのは頭の中の「脳」 、この 3 ポンド(約1.3キロ)の臓器を賢くすることだということが 徐々に分かってきている。

この現状をうけて、昨年、Steelcaseの研究 員やデザイナーたちが早速動き出した。 脳 科学者や認知科学者たちの発見をさらに 深く掘り下げ、ワーカーの行動や仕事の変 化と関連づける調査を現在行っている。 そ して、そこから導かれたさまざまな発見によ って、環境というものは意図的に設計されて 始めて、有効なツールとなり、ワーカーは自 分自身の「注意力」を上手くコントロールで きるということが分かった。それはワーカー の労働意欲やウェルビーングの向上、創造 性やイノベーションの増大、ビジネス成果の 獲得などさまざまな企業の優位性を生み出 す重要な要素なのだ。

「注意力の需要が高まるにつれ、人間の認知能力を最適 化することがますます重要になってきています。脳科学の様 々な発見を研究することで、人間の脳がいかに身体的、 認 知的、情緒的なウェルビーングをカタチづくるのかを把握 でき、仕事での人間のニーズを深く理解できるようになっ ています。私たちは仕事での思考を高めるために、これら の新たな科学が何を可能にするのかを学んでいる最中 です。 」 とSteelcase のWorkSpace FuturesチームのDonna Flynn氏は語っている。


何故、「注意力」 が 散漫になるのか:

3 分 平均的オフィスワーカーが 気が散って仕事が中断される 頻度 ( 3分)
University of California, Irvine
23 分  気が散った後に 作業に戻るまでの時間 (23分)
University of California, Irvine
204 百万 毎分送信されるメールの数 (2億4百万)
Mashable
8 ワーカーがPC上画面で 開いている平均ウィンドウ数 (8)
「溢れる脳:情報過多と作動メモリーの限界」Torkel Klingberg
30 オフィスワーカーが 1時間毎に受信ボックスを チェックする回数 (30回)
National Center for Biotechnology Information
221 回 イギリスのスマホユーザーが 毎日スマホをチェックする回数 (221回)
Tecmark
4.9 billion 2015年にネットに 接続したデバイス数 (49億)
Gartner
200% 2012年以降、携帯デバイスに 費やす時間の増加率
GlobalWebIndex
49% 作業に応じて仕事をする場所を選ぶ ことができないワーカー比率
STEELCASEウェルビーング研究調査,17カ国のグローバル平均

注意力:これがあなたの「脳」

「注意力」を辞書でひくと、一般的には「あるひとつの事柄 に気持ちを集中させること」と定義されている。しかし、認 知神経科学者は脳の関連部位ごとに「注意力」を分類し、 それをさらに細かく定義している。例えば、スウェーデンで 有名なカロリンスカ研究所の認知神経科学者である Torkel Klingberg博士は「注意力」を「制御型注意力」と「刺 激反応型注意力」の2つのタイプに分類し、前者は意図的 にマインドに注意を向けることで、後者はマインドが無意 識に引き付けられることと定義した。

今日、「注意力」には複数の生物学的メカニズムがあるこ とが分かっている。そして、多くの場合、思考や創造性を担 う脳の最高中枢である前頭前野は実行機能を担い、ヒト が進化する中で開発された最後の部位でヒトをヒトたら しめているのもこの領域だという。人間が何かを選択し、 集中できるのもこの部位のおかげなのだが、脳科学者た ちは「注意力」に関わる部位はこのひとつだけではないと も主張している。

「注意力」とは:

グループの研究員で組織心理学の専門家でもある Beatriz Arantes氏は「注意力を理解するためには脳機能 の複数の側面、つまり脳が処理するコンテンツや身体的 状態、そして環境までも含めて包括的に見る必要がありま す。」と主張している。

覚醒中の心理状態、つまり、どれだけ私たちが活発なの かが重要な要因になるのだ。何故なら「注意力」は常に変 化するからである。例えば、疲れて無気力な場合は「注意 力」を制御することは極めて困難で、非常に興奮している 場合には私たちのマインドは次から次へと飛ぶように変 わるのである。つまり、「注意力」の持続は覚醒中にいかに 極端に走らずに「スイートスポット」を保ち続けるかによる のである。

「注意力」と覚醒に影響するもう一つの主要な脳システム は感情の表出、意欲などの人間の本能的生存や情動に 関与する「大脳辺縁系」の存在である。前頭前野以上に重 要な大脳辺縁系は、感情を管理する脳のいくつの部位を 指し、恐怖や興奮を誘発する刺激に意識を向けさせるの もこの領域である。人間の脳の発達を研究するワシントン 州立大学の発達分子生物学者であるJohn Medina博士は 「人間は退屈なものには意識を向けないのです。」と述べ ている。つまり、人間の脳は予想外のものに自然に反応 し、気が散るようにできているのである。進化という面で も、人間の遺伝子の中にはその生存のために環境の変化 に適合するように周りの音や動き、刺激に気づくという本 能的傾向がまだ残っているといってもよい。

複数のことを同時に こなしている時、人間は 「注意力」を切り替え ながらものごとをこな していることを多くの 脳科学者たちは証明 している。

もちろん、すべての注意散漫が外界からのものとは限ら ない。人間は常に内面の思考や懸念にも気を取られてい る。脳科学者であるMITのTrey Hedden博士やJohn Gabrieli博士は人間の内面や他者の思考によって前頭前 皮質の特定の領域である内側前頭前皮質が活発化する ことで「注意力」が散漫になると結論づけている。内側前 頭前皮質とは脳のデフォルトネットワークの一部位で、 何にも集中していない時に人間はより自然なマインド状 態を保てるというのだ。

また、「注意力」は運動神経の向きにも作用するという。つ まり、感覚的刺激にどれだけ近いかでどれだけ「注意力」 を向けられるかが決まるということだ。例えば、先生の近 くに座っている学生は遠くに座っている学生に比べて、 「注意力」を向けやすい。会話をする際に本能的に身体 を傾け、話している相手の目の高さにあわせる。また、電 話会議中に話している相手が見えないスピーカーフォン を注視しながら話すということなどもこれに関連してい る。

仕事中に「脳」はどう機能しているか

サイエンスコミュニケーション誌面のレポートによると、多 くの人は未だ脳科学を、例えばアルツハイマー病のよう な日常生活に直接的に影響を与える精神疾患や障害の 最終的な治療法の研究のひとつと捉えている。しかし、実 際には病理学への医学的研究として、脳科学は私たちの 健康向上や日常認知機能改善のために多くの発見を見 出してきた。

特に、Steelcaseの研究員たちは脳科学の下記の3つの 主要な発見に着目し、「働く」ことにおける脳機能の重要 な役割を研究しつづけている。

「脳」も疲れる

多くの企業が生産性向上と目標達成のために少なくとも 1日8時間、いやそれ以上、従業員が仕事に持続的に集 中できるようにすることがよいことだと考えている。

しかし、脳科学者はむしろこの俗説に反論している。何故 なら、集中力は限られた資源であり、人間の他の臓器と 同様、人間の脳はエネルギーを消費し、ブドウ糖であるグ ルコースと酸素でエネルギーを生み出している。特に、制 御型注意力は前頭前野を消耗させ、分析、優先順位付 け、立案や批判的思考のような活動はエネルギーを著し く消費させ、エネルギー供給が少なくなると、脳は疲れて しまうというわけだ。

何故なら、人間の脳は非常に多くのエネルギーを消費す るため、人間はこの有限なエネルギーを無駄にしないよ うに時間をかけて生理学的メカニズムを開発してきた。 よって、難しく、関心がないタスクで前頭前野に重い負担 をかけられると注意散漫になる可能性が高くなるという わけだ。これは自動温度調節装置を下げるのと同様のシ ンプルな省エネメカニズムなのである。

「私たちの脳は活動が盛んな時間と休止している時間の サイクルで作動し、エネルギー消費と再生のリズムを繰り 返しています。脳と身体はこのリズムを保ちながら、環境 の変化に素早く対応できるように常にまわりを警戒しつ づけるようにつくられています。」とArantes氏は述べてい る。

脳が疲れているときに集中しようとした 場合は問題が生じ、気が散り、困難なタス クを回避しようとすることから学習効果も 低下し、記憶力も働かず、ミスもおかしが ちになる。過剰ストレスによって感情的に 戦う体制になり、コルチゾールやアドレナ リンなどの分泌量が正常値より大幅に増 える兆候がある。これが進めば、仕事を 効果的にこなすどころではなく、過覚醒 の状態でストレスを受け、苛立ち、罪悪 感、悲観的感情など非生産的な状態を引き起こしかねな い。

「昔から人間の脳は 多くのデータポイント を追跡するようにでき ていないのである。」

Edward M. Hallowell 作家&精神科医

精神科医であり作家でもあるEdward M. Hallowell氏は 「注意力欠如障害」と呼ばれる脳科学現象を定義した人 物として注目されている。彼はこの状態は今日の多動環 境が脳に招いた結果だと主張し、「昔から人間の脳は多 くのデータポイントを追跡するようにはできていないので す。」と述べている。この脳への過剰負担が仕事の成果が 上がらないという主な理由であり、人間は脳が処理でき る以上のことを脳に期待しているのが現状なのだ。

「脳は限られた器の中で機能しているのです。あることに 70%を割いている場合は残りの30%しか作動しないとい うことなのです。」と述べるのはソーク研究所のコンピュー タ系脳科学者、Sergei Gepshtein氏で、脳がいかに視覚 的刺激を処理するかを研究している人物である。

マルチタスクは集中力が続かず、非効率的

常に仕事に追われる近年の傾向によって、人々は仕事を 前へと動かすために様々な人々と頻繁にコラボレーショ ンしながら、複数のプロジェクトを次々とこなしている。そ れらの仕事の多くの場合、情報と相互交流に依存し、会 話の途中でメールを読んだり、会議中にメールに返信し たり、電話中にネットをみたりと「マルチタスク」という一 度に多くのことをこなすことが要求される。

驚くことに、ミシガン大学の脳認知行動研究所などで働 く科学者たちは、マルチタスク作業の間で「注意力」が切 り変わることを実証している。しかし、同大学の学部メン バーで、マルチタスクの世界的研究家であるDavid Meyer氏はウォーキング(身体を使うタスク)や話す(言葉 を使うタスク)など脳が完全に独立したチャンネルを使 用する場合は例外だとしている。そして、今日の職場での 多くの活動は1度に1つの事だけしか扱うことができない 脳内チャンネルの「注意力」という放送時間を奪い合って いるようなものだとも言っている。Meyer氏はこの今日の 「注意力」散漫な状態が数十年前の喫煙が肺に悪いと言 われる前の時期と似ていると言う。多くの人は1日を通し てマルチタスクが精神的過程でどれだけ悪影響を与えて いるかを認識していない。例えば、小さなことで言えば、 意図が伝わらない電子メールであったり、極端に言え ば、運転中にショートメールを打ったことで重大な事故を 引き起こしたりすることもそれに当てはまる。

多くの人は1日を通してマル チタスクが精神的過程でど れだけ悪影響を与えている かを認識していない。

マルチタスクと対照的なのが、 かの有名な心理学者、ミハイチ クセントミハイ博士が提唱した 「フロー」理論である。「フロー」 理論とはその瞬間にしているこ とに完全に没頭し、精力的に集 中することで、この状態が最も 生産的であると一般的に考えられている。「フロー」体験 は偶然に起こるものでもなく、無期限に持続することもな い。よって、いかに「フロー」体験中に達成したいことを吸 収し、没頭するかが伴になる。過覚醒と恐怖に関連する 化学物質を放出するストレスとは異なり、非常に楽しく生 産的に覚醒している状態であり、それは今日の企業の経 営者やワーカーが渇望している状態といえる。

マインドフルネスが「脳」を鍛える

今日の多くのワーカーにとって、「フロー」体験が叫ばれ るほど、マインドの状態をいかにコントロールするかが大 きな課題になってきている。Linda Stone氏はほぼ20年前 に「恒常的関心分散症候群」という言葉を造語にした作 家兼コンサルタントで、それが現在再び脚光を浴びてい る。恒常的関心分散症候群とは一つのことに集中できず、 「注意力」が持続しないことを指している。「誰もがチャン スを探しながら行動し、人間関係を最大限に生かしたい と思っています。誰もが忙しく何かに従事し、必要とされ たいと感じているのが問題でもあるのです。」とStone氏 は述べる。しかしながら、「注意力」モードに支配される と、多くの情報に連続的に注意を払うがゆえに何一つ完 全に達成できず、どうしていいかわからなくなり、満たさ れず、無力であると感じ、あらゆることにつながろうとして も、結局は満足な方法でつながることができないという 状況に陥ってしまう。

おそらく、脳科学研究で最も注目すべきひとつは、神経シ ステムが刺激に応じて変化するという神経可塑性の発見 である。つまり、ヒトは脳細胞を構成するニューロンのネッ トワークをつくり、強化し、統合することで、人生のどの時 点においても自分の脳を変えることができるということ である。これは私たちが一度にあまりにも多くのものを 取り入れようとするがゆえに常に注意散漫に陥る一方で 「脳を鍛える」という前向きな習慣もつくれることを意味 している。

この習慣をつくる最も効果的な方法のひとつに「マイン ドフルネス」という考え方がある。これは、「今」というこ の瞬間に注意を向け続けることからストレス対処法とし てビジネスでも実践されている注目の手法である。その 最も画期的な証拠のひとつがウィスコンシンマディソン 大学ヘルシーマインドセンターの脳イメージと行動を探 るワイズマンラボのディレクターであるR i c h a r d Davidson博士による研究である。彼の研究チームは熱 心に瞑想を実践してきた僧侶の脳を研究し、30,000時 間以上もの瞑想中の脳の視覚野のイメージ映像をデジ タル化し、それが非常に強力なガンマ波を出しているこ とを実証している。実際には、僧侶のガンマ波は大学生 のグループと比べると30倍も強い。それは僧侶たちが 思考を遮るものや周りの刺激に左右されることなく、自 由に集中できるように自己鍛錬している結果だという。

ビジネス界でも 「マインドフルネス」に 注目

2015年1月号のハーバードビジネスレビューの記事でブリ ティッシュコロンビア大学とケムニッツ工科大学の科学者 チームが20以上の研究からデータを集積し、少なくとも脳 の8カ所の異なる領域が「マインドフルネス」や瞑想の実践 によって影響を受けていることを発表した。記事を寄稿し た3人が共通して主張し、ビジネスにとっても非常に興味 深い意見は、自己コントロールに関係している前頭葉の 背後にある領域前帯状皮質への瞑想効果である。また、 瞑想をしたものは自主コントロールのテストで優れた結 果を示し、瞑想しなかった人よりも脳のこの領域がより活 性化しているということだ。そして、瞑想からよい影響を受 ける脳領域のもうひとつが感情や記憶に関連している大 脳辺縁系の一部である海馬である。

恒常的関心分散症は 常に危機感を感じ、 満たされない精神状 態を招く。

明らかに、「マインドフルネス」への取り組みがビジネス界 でも根づき始め、グーグルに代表されるようなシリコンバレ ー企業だけでなく、瞑想を中心とした自己探索の社内研修 を開講している企業は少なくない。医療保険会社エトナは 現在、オフィス内で無料のヨガや瞑想のクラスを提供し、従 業員の健康管理につなげている。ニューヨークのハフィント ンポストでは仮眠ルームやヨガや呼吸法クラスを設け、時 間外ではメールをしないという通達までだしている。この取 り組みにはハフィントンポストの編集長が仕事に追われる 毎日とその重責、睡眠不足によって、実際に自宅で病いに 倒れた経験が生かされている。

もちろん、毎年数千時間を費やすマインドフルネス瞑想 をそのままオフィスで実践することは不可能だが、精神医 学研究ジャーナル誌で発表された研究によると、1日30分 ぐらいの「マインドフルネス」を8週間実践することで脳が 変わることが脳視覚データで検証されている。「マインドフ ルネス」は脳内の神経ネットワークを強化しながら、脳の 脅威検出ネットワークへの感度を低下させるのである。

「マインドフルネスの実践とは心がさまざまなことで揺 れている際にひとつのことに集中するためのスキルを身 につけることです。一切の評価や判断を挟まないようにし て思考を観察するプロセスを踏むことで脳は鍛えられ、 心は落ち着き、安定した精神状態を維持することができ ます。これを実践すればするほど、よい結果を生むことに なります。」とArantes氏は説明している。

知力を最大限に引き出す

脳科学のさまざまな発見とSteelcaseの研究員によ る研究から見出された明らかな結論は、ワーカーが 8時間以上、「注意力」を維持しながら、質的量的な 成果を生み出しながら仕事に従事することは不可 能だということだ。脳は疲れやすく、集中してマルチ タスクしようとすると、その結果は成果を生み出す どころか、ストレスに苛まれることになるのである。 「マインドフルネス」とは脳の機能を強化する実証 済みの方法ですが、既存のオフィスの多くはこの実 践をサポートする「場」として適切にデザインされて いないのが現状だ。

生産性と創造性を高めるための方法は必ずしも長 時間にわたって集中しながら仕事をするということ ではない。それよりも脳への理解をさらに深め、その 限界やいかに仕事中に「注意力」を高め、奮起させる かを学ぶことがまずは重要なのかもしれない。

脳内リズムに あわせる

注意散漫の問題やその解決法は本人の意識とその努力次第である。 現在の習慣を変えることで脳や生活をコントロールすることができる ことは明らかである。脳がどう機能するか、「注意力」の浮き沈みをも っと意識するようになると、脳が何をいつ必要としているかが容易に 分かるようになる。Steelcaseの研究員とデザイナーたちは「脳モー ド」を下記の3タイプに分類し、それぞれがどのような行動や家具の セッティングを必要とするかを特定している:

集中する: 深く何かに集中しなければならない場合、まずは気を散ら す要因を避けなければならない。それが外界からの刺激で あろうと内面的なものであろうと関係はない。「注意力」は 切り替わるたびに、有限な神経回路が作動し、集中力を奪 う大脳辺縁系に働きかけることになる。 その解決法としては、しばらくの間携帯を切ったり、1日の 過ごし方を完全に見直したり、もっと睡眠をとったりなどさ まざまな方法があるが、その道のエキスパートが書籍や雑 誌記事、インタビューやオンラインメディアで、脳をもっと活 性化する行動というような役立つヒントを数多く提供して いるのでそれを参考にするのもいいだろう。(詳細はP30)

再生する+閃く: 自己規制も「注意力」をコントロールするには必要なことだ が、注意散漫を解決するには脳をしっかり休ませ、解放し、自 由にすることが重要である。仕事をする際の空想といえば、 一般的には否定的な意味合いがあるが、空想に耽っている ときは脳は働いていないようで、実は働いているのである。 「神経細胞であるニューロンは人間が既に知っていることに 焦点を当てるのとは対照的に、新たな回路を築いているので す。この事実が私たちの気づきの始まりでした。木を見て森を 見ないという古い諺のように、小さいことに心を奪われて全体 を見通すことができなかったり、シャワーや車を運転している 時に突然浮かぶ「なるほど!」と思う瞬間など、それらが実際 に科学的根拠に基づいていることに実は私たちは無意識に 気づいているのです。問題を解決するための最善の方法は そこから一歩離れてみること。無意識レベルで脳を働かせる ことが問題解決につながることは多いのです。」

活動的になる: 覚醒状態を活性化するには身体を動かすことが一番で ある。学校ではじっと動かずに座っていることがよいこと だと教えられてきたが、それはむしろ集中を妨げている。 多くの研究では、運動することで酸素と新鮮な血液が脳 から送られ、成長ホルモンを放出し、「注意力」を高める ことがすでに実証されている。運動による身体面や精神 面への利点が確立される中、脳科学では運動によって認 知能力も向上することが証明されている。

ハーバード大学の精神医学者のJohn Ratey博士はその 著書、「脳を鍛えるには運動しかないー最新科学でわか った脳細胞の増やし方/原題Spark」の中で、人間は身体 を動かすと脳のための奇跡のタンパク質BDNF(脳由来 神経栄養因子)がつくられ、新たなニューロンを供給する と述べている。 運動をすることのメリットを説いた最近の実証事例は数 多く存在する。Computers in Human Behavior誌で発表 された最近の研究によると、トレッドミルデスクで何かを 読んだ学生はデスクに座っていた学生よりも質問に対す る正解率が34.9パーセントも高いと結論づけた。彼らの 集中力はより高く、脳波検査もその「注意力」と記憶力の 向上を実証していた。

「集中する」

深く集中するには外界や内面からの気が散る要素を排 除することが必要になる。 このライブラリーゾーンはオープンレイアウトによくある 雑音や頻繁に起こる邪魔から逃れるエリアとして設定さ れている。携帯の使用も厳禁で会話も制限されている。 音響的、視覚的、心理的な側面を配慮した間仕切りを使 用し、ユーザーがチョイスできるさまざまなタイプの集中 ワークセッティングを配置する。

media:scape Lounge with Hoodは フード付きラウンジで、外の景観が 見れるように配置され、フードによっ て囲まれることで外部からの刺激も 最小限に抑えることができる。LexiconベンチにDivisioスクリーンを 取り付け、隣との間仕切りにすること で個々の集中ワークをサポートでき る。

集中ワークをサポートする様々なセッティングは音、視 界、光の具合など外界からの刺激を好みや作業内容に あわせて調整できるように工夫されている。

media:scape Lounge with Hoodは昆虫の繭のようなカ タチをしたラウンジで、視界の邪魔を排除し、プライバ シーと心理的に落ち着く空間を提供している。

  1. スクリーンはノイズや外界からの視覚的邪魔を排除
  2. パーソナルテーブルは個人の集中ワークをサポートし、 スペースは一対一での作業にも便利
  3. 外の景観が目に入ることで気分転換を促進

「再生する+閃く」

同僚と出会う「場」、ちょっとしたフードやドリンクを提供 する「場」、そして、行き詰まった時にリフレッシュする 「場」。そこに身を置くだけで新たなアイディアや視点が 生まれる「場」づくりを提案している。

コーヒーを取りに行く、マインドを今に集中させる、同僚とたわいもな い話をする、深呼吸して脳エネルギーを回復させるなど、意図的に人 が交差するように仕掛けられたこのソーシャルゾーンは多彩な活動 を支える。

「活動的になる」

身体を動かすことで脳が刺激されることはすでに実証 済みである。ワーカーがマインドを活性化し、身体の健康 のために1日中動き回るようなセッティングを提供するこ とがここでは重要になる。

立ちながらのブレスト、電話会議の間歩き回るなどは身体を 動かすための仕掛けであり、これらの動作には心身をリフレッ シュさせる効果がある。

  1. このプライベートなリトリート空間は自然素材を使 用することで自分を内省できる体験を促す。
  2. turnstoneのCampfireセッティングは外界からの刺 激量を調節でき、人から離れて着想を得たり、リラッ クスしながら集中するためのお気に入りスポットと して活躍する。また、チームが集うインフォーマルな スペースとして、一人で仕事ができるプライベートな スペースとして利用できる。

  1. Sit2Standは座る、立つ、動くなど様々な姿勢のパ レットを提供しながら、どう働くかのチョイスとコント ロールを可能とする。
  2. 自然光や屋外景観があることでストレスホルモン が抑制され、ワーカーは心を落ち着かせて仕事に没 頭できる。
  3. ホワイトボードに情報やアイデアを表示することで 認知的負荷が低減し、創造的思考を助長する。

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