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赤子と風呂水の諺:学びの上にたって判断

「アジャイル」チームのための「リーン」プロセスの5つの方法

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「アジャイル」チームのための「リーン」プロセスの5つの方法

「アジャイル」は新たな仕事プロセスとして注目されている手法で、今やビジネスでこの話題を無視することの方が難しい。生産性の改善、効率性の強化、メンバーの充足感といったことを満たすこの仕事の進め方は、一見万能薬のようにも見えるが実は危険性も隠れている。「赤子を風呂水と一緒に捨てるなかれ」という諺もあるが、大事なものを無用なものと一緒に捨てさってしまうことやこの優れた仕事の進め方が過去のどれよりも好ましいと判断してしまうことだ。「アジャイル」は、仕事の革新的な進め方やどうやったらそれを的確にサポートできるかを考えさせる機会を私たちに与えた。しかし、処理しきれないほどの仕事量を抱える現状の中でそれを実践するのは決して容易なことではない。

人間は過去の歴史から多くを学ぶことができる。 「アジャイル」な環境で働くことは 90年代からの効率重視のリーン方式とはそんなには変わらないのだ。工場から始まったリーン方式は、ホワイトカラーの作業フロー、医療やサービス業まで多くの業種がこの方式を採用し成功を収めた。そして、今、「アジャイル」の登場だ。IT業界に定着した「アジャイル」な仕事環境は、ITのソフトウェア開発を超えていまやあらゆる業種に普及しつつある。

この手法は、製造業やITのみに適用される方法論とは全く違い、全ての業種にとって最も効果的な働き方を教え導いている。下記にそのいくつかを紹介しよう。

顧客フォーカス

定義: リーンにおいて、その中心は顧客にあり、モノの価値は顧客によって定義づけられる。タクトタイムとは顧客の要求ベースで生産される速度でそれよりも早いことが良しとは判断されない。同様に「アジャイル」も顧客の意見が書かれたストーリーカードと顧客サイドの成功を基準に始まっている。プロダクトオーナー(アジャイルの顧客担当者)に求められるものは、いかにチームに深く入りその仕事とつながるかだ。また、ビジネスオーナーやステークホルダーとの橋渡しとしての役割も担う。各スプリントをまとめる報告発表会では、チームはその進捗状況や仕事から生み出された価値が顧客に向けて報告される。

教訓: 顧客ファースト、顧客への埋め込み、顧客中心主義といった揺るぎないテーマがそこには根づいて仕事をする上の教訓になる。昔、私は上司によく言われたものだ。「もし君が消費者のために働いていないとしたら、一体誰のために働いているのか。」


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一度にひとつのことに集中する

定義: 「アジャイル」の特長のひとつは、一度に一つのプロジェクトに取り組むことだ。皆が同じ場所で共に集中しながらスプリントを達成するためにタスクを遂行していかなければならない。「リーン」においては、ワンピースフロー(一個流し)と呼ばれる手法によってバッチング(グループでの処理)がないかを確認し、各ピースがシステム上ひとつづつ流れることで顧客へ届くまでに付加価値が付与されることになるというものだ。「アジャイル」、「リーン」両方はその工程での仕事量を減らし、作業フローを確立するために上手く機能している。

教訓: マルチタスクが定着している現代社会において、多くの課題を前進させたり意思決定をしていくのは極めて困難である。それは誰もが多くのプロジェクトに集中しているからである。一度にひとつのことだけを遂行するという試みはもっと歓迎されるべきでそれが仕事を効果的に進める唯一の方法でもある。

視覚的表示

定義: リーン時代の職場環境は、仕事の見える化や仕事の進捗状況が一目瞭然に把握できるようにカンバンや視覚的表示、ダッシュボードで埋め尽くされている。「アジャイル」は作業認可ボードやカンバンの周りで立ちながらミーティングが行われているという点では同じである。SteelcaseのIT部署のチームが日々行なっているのは、アナログボードの傍での短いミーティング、その後スクラムマスターやプロジェクトマネージャーによるデジタル版での約10分のアップデート報告だ。これによってチームメンバー全員がリアル、バーチャルで情報を共有することができる。

教訓: 仕事の視覚化、見える化をすることで全員が作業内容、進捗状況、達成しなければならない共有工程を確認できる。

継続的な改善

定義: リーンにおいて学んだことは、付加価値を生まない仕事を見つけ無駄を一掃する(顧客にとっての付加価値を生まない仕事を「7つの無駄」として特定)ということだ。移動、在庫、過剰工程など全てのプロセスの50%は無駄であるという推測から始まる。これと同じように「アジャイル」も毎回スプリントが終わる際にフィードバック、学習、改善に焦点を当ててそのプロセスを振り返る。

教訓: 仕事は早いスピードで動いているため、敢えて時間をつくって熟考したり、見直したり、改善が必要な部分を体系的に確認するのは難しい。しかしながら、この学習プロセスなしに真の意味での進捗や成長は望めない。これは直感的にわかるものではない。だから一歩立ち止まって熟考することの重要性を「アジャイル」は教えてくれる。熟考することで状況が改善し、仕事のスピードアップにつながるのだ。

リーダーとチームの能力を高め続ける

最後に、「リーン」、「アジャイル」の中にはリーダーシップとチーム理論のベストなカタチがある。多くの規律や業界、状況の枠を超えて言えることは、リーダーシップとは共有されて生み出された時に初めて最も効果を発揮するということだ。重要なトピックに知識を持つものが影響を与え、意思決定がなされる。複数のスキルを持つチームメンバーたちが敢えて専門性に捉われず、集積した知識を崩してみる。そうするとことがスキルの発展を促したり、仕事をより流動的に動かし、仕事の進め方がより柔軟になる。チームは仕事をコントロールする権限を付与され、互いにフィードバックしあう。そして、リーダーは、ガイドやコーチとしてスキルを持つチームが顧客価値を生み出すために能力を最大限に発揮するよう指導する役割を担う存在になるのだ。

リーンが導入された当時、トヨタとその世界的に有名な生産方式にまつわる話がある。トヨタは例え競合他社であろうと工場を案内し、その工程を見せ、写真やメモを取ることを許していた。ある競合他社が何故こんなにも情報を開放しているのかと尋ねたところ彼らはこう答えたと言う。明日変わるであろう今の工程をライバルに見せたところで何のリスクもないのだと。これこそがまさに顧客フォーカスと継続的改善を念頭に置いて常に向上し続けているチーム力の真髄だ。そして、「アジャイル」と同じ原理を共有するプロセスの力なのだ。

「アジャイル」は今、我れ先にと企業が学習し、実践し、取り組もうとしている最新手法であり、それは過去にも広く知られていた手法でもあった。過去に疑問を呈するのではなく、「赤子と風呂水」の諺のように長年に渡って培ってきた先人たちの学びの上に築かれるべきだろう。


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Dr. Tracy Brower は、社会学者でありながらSteelcaseのApplied Research + Consultingグループを率いる長として働き方、働く「人」や「場」の研究に従事。著書にはBringing Life to Work: A Guide for Leaders and Organizations(2014)がある。IFMA Research&Benchmarking Instituteの理事会メンバー、Coda Societiesやミシガン州立大学の大学院数学プログラムのエグゼクティブアドバイザーとしても活躍している。

SteelcaseのITマネージャーであるTimothy Schipperは、カルヴィンカレッジとミシガン大学で機械工学の学士号と科学の修士号を取得。30年にも及ぶキャリアは広範囲にわたり、ツールデザイナー、エンジニアリング教育員、CADスペシャリスト、シニアプロダクトエンジニア、ITマネージャー、リーンエキスパート、作家、コーチ、コンサルタントの経験を持つ。 オフィスプロセス、IT開発、グローバル製品開発、新規事業構想、政府機関や非営利団体のリーン変革を主導。

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