ウェルビーング

ハッピーでいられる「職場」:「家庭」から学ぶ

自宅でも職場でも、体験の共有が一体感をもたらす。

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Dr. Tracy Brower博士(MM、MCR)

テクノロジーの進展とモバイル化のおかげで、私たちは家で仕事ができるようになった。

そうなると家の要素がオフィスに入ってきても決しておかしくはない。

オフィスから離れて自宅のテレビの前のソファに座って仕事をしているシーンが普通になると、職場にも同様なシーンがあっても決しておかしくはないはずだ。しかし、実際はどうだろう。ソファや大画面モニターを設置している職場ではそのほとんどが利用されていないのが実情だ。何故だろうか。それらの企業は全体像が見えていないからだ。家という建築空間は物理的体験を提供すると同時に情緒的つながりを形成する。快適に座ったり、ゲームをしたりということ以上の意味がそこにはあるのだ。

職場は人が行く場所というよりはそこで何をするかが重要だ。家も同じだ。そこに行く、居る以上の意味、それがそこでの体験だ。最上の職場は思い出をつくり、出来事を記録し、ストーリーを伝える「場」とも言える。David Armstrong著のManaging Storying Aroundでは、組織での従業員経験をより強固にし、価値観を伝達し、組織体を強化したい企業リーダーにはストーリーテリングの重要性を説いている。体験の共有は一体感をもたらすからだ。それは家でも職場でも同じだ。

家族社会学の専門家は、ロシアの文豪レフ・トルストイの代表作の冒頭にある「アンナ・カレーニナの法則」でこう言っている:「幸せの家庭のほとんどは似通っているが、不幸せな家庭はそれぞれの方法で不幸である。」と。全ての家庭が幸せとは限らない、しかし、仕事に連れて行って体験を共有させることが意外と効くのだ。一体感、信頼、安心といったことがそこから生まれるからだ。

食卓のテーブルを片付ける

家庭ではメンバーそれぞれに果たす役割がある。最上の家庭体験とは、それぞれが何をしたいのかを決めるのではなく、当てにされている具体的な役割や自分が何に貢献できるかだ。例えば、私の家では、息子と娘には毎晩夕食後にテーブルの上のものを片付けて綺麗に拭くことを課している。雑用を嫌って誰の番なのかでいつも揉めるのだが、彼らは家の中ではきちんと役割があり、それが自分たちの家庭への貢献であることを心の奥ではきちんと理解しているのだ。仕事もこれと同じだ。高度な成果をもたらす職場では、個々が役割をしっかり認識し、仕事に意義と目的を感じながら努力を重ねている。自分たちの仕事が認められ、評価され、説明責任を果たす時、自分たちの貢献が会社の事業にとっていかに大事かがわかるようになるのだ。

汚れた靴下はあり得ない

私はいつも子供たちに無理強いしていないかとか、果たして親としての役目をきちんと果たしているだろうかと心配になる。食べ終わった食器を食洗機に入れる前に食器を軽く洗ってとか、汚れた靴下はその辺に置かないとかだ。理想的な家庭とはリラックスでき、それぞれがありのままの自分でいられて、課された責任をきちんと果たすことだ。それは職場でも同じだ。問題のある行動によってカタチづくられる企業風土は黙認され、何をどう生み出すかに責任がある職場環境は成果と人材が報酬につながる「場」でもある。

私はかつて、優秀な人材の宝庫がいるクライアントと仕事をしたことがある。彼らは一応に信頼に基づいたチームづくりに長け、エンジニアは華麗な履歴書を持ちながらもどこか無神経だった。つまり、他者への接し方が上手くないのだ。そうすると会社の雰囲気は急速に悪くなるものだ。企業風土を建設的に築こうとする場合、社員同士がどう互いに接し、成果をどう上げるかに責任を持つことが極めて重要になる。汚れた靴下をどこ構わず置いて、他者がそれを拾ってくれると期待することは許されないのだ。

ティーンエイジャーと幼児

子供が幼児とティーンエイジャーに差し掛かった時期に幸せな家庭生活が徐々に変化していくという。子供たちは何事にも挑戦し、その限界を越えようと頑張っている年齢であるからだ。人が何かに挑戦している時、その時が人間として最も成長し、自分の心の声に気づき、自立に向けて歩み出す。成人期に向けての着実な準備でもある。それは職場でも同じだ。

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自宅で仕事ができるようになると働く人にチョイス&コントロールができる環境になる。Steelcaseが実施した従業員のエンゲージメントにおける世界的な意識調査、 (世界のエンゲージメントと職場環境), では、エンゲージメントの高い従業員は仕事でより多くのチョイス&コントロールを持つ傾向があるということだ。人々が働く「場」、働き方(仕事の内容)、働く時間を自由に選択できる職場は正しい方向性を示しているのかもしれない。そこが人間として成長し、意義ある貢献ができる「場」にもなるからだ。

それでも必要な「場」
多分、最も重要なことは家庭では素の自分でいられることだ。何故ならそこは誰もが自分のことをよく分かってくれている場所だからだ。最上の職場もこれと同じだ。ある企業の社員はかつてこう言っていた。オフィスに入るやいなやまるで鎧を着けなければならないような気がすると。まさに最上の職場とは対照的な表現だ。職場がまるで家のような情緒的体験を創造し、社員が安心してありのままの自分でいられる「場」でなければならないのに。

私の娘の大学のボート競技のコーチは、完璧主義のクルーに「完璧を目指すのではなく、最高と思えるぐらいがいいんだよ。」と言うそうだ。仕事で完全に満足することはない。それがさらに自分を前進させ、少しでも今より成長したいというやる気につながるからだ。職場に家の要素を持ち込むことで最高の自分を最大限に引き出すことができるかもしれない。そうすると働く「場」は人間の隠された能力を引き出し、最善を尽くし、前進するよう後押しをする「場」になる。

一日の終わりには家が恋しくなる。そこは自分が安心する居場所、家族のそれぞれの人生に想いを馳せ、温かく見守る場所だからだ。これが職場だとすると最高ではないだろうか。「アンナ・カレーニナの法則」のように最上の職場には同じような特性が見受けられる。社員のやる気を奮い立たせ、情熱を持って仕事に没頭させる。怠惰には成長はない。自分のスキルや才能を発揮することで人間は前進していくものだ。これは家庭でも仕事でも同じだ。会社と社員がお互いの価値を認め、社員同士が切磋琢磨しながら会社に貢献し最善を尽くせる条件を満たす「場」、それが最上の職場だ。


Tracy Brower博士は、働き方、働く人、働く「場」を研究する社会学者であると同時にSteelcaseのApplied Research + Consultingグループを率いる人物。著書には「A Guide for Leaders and Organizations (2014)」がある。IFMA Research&Benchmarking Instituteの役員およびCoda Societiesとミシガン州立大学院数学プログラムの執行アドバイザーでもある。

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