ウェルビーング

ウェルビーイングを教育の主軸にする

これからの学習スペースは人間主体へとシフトする。

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「私たちがこの研究を開始した時には、すでに教育現場でのウェルビーイングの実現は世界的なテーマになりつつありました。そして、コロナ禍を機にその課題はより顕在化しました。」と語るのはこの世界的な研究を率いたSteelcaseのワークスペース・フューチャーズのシニアデザインリサーチャーであるアイリーン・ストリックランド氏である。

コロナ禍で社会的ストレス、不安や心配を抱えている学生・生徒や教員は多い。学校教育のあり方や学び方の改革は以前から問われていた。しかし、コロナ禍に実施された多くの実態調査では、その衝撃からの一層深刻な悩みや学習意欲の低下が報告されている。今、社会的孤立や教育のあり方に対して急ピッチでの対策が迫られている。

教育現場でのウェルビーイングを改善する機運が高まるにつれて、学生・生徒や教職員のウェルビーイングはもはや単なる個人的問題ではなくなった。それは学校だけでなく、家庭やさらに大きなコミュニティとも深く関係している問題となった。そして、今日の教育現場のウェルビーイング改善を実現するには、3 つの視点からその対策を講じなければならないことが分かった。「ウェルビーイングを考慮するには、人間関係、コミュニティ、周囲の環境という側面からのより包括的な視点が求められます。個々のウェルビーイングを改善するには集団としての社会が良好でなければなりません。」とストリックランド氏は語る。

新たな好機: 人間中心の学校教育

Student looking to see what to do

「ウェルビーイング(Well-being」という言葉と対比して、現在の学校の状態を表す言葉としてストリックランド氏がよく使う言葉が「イルビーイング(ill-being)」である。この状態は最終的に学校の収益に悪影響を及ぼすことになる。例えば、学生のウェルビーイングの欠如は、学業成績、定着率、卒業率の低下を引き起こし、資金調達とも深く関係してくる。一方、燃え尽き症候群の教員の増加は、欠勤率や医療費、さらには離職率の増加にもつながっていく。つまりは、教育現場でのウェルビーイングは学生・生徒や教員の質のレベルや学習に対する意欲とも直結しているということである。

現在、そのストレス要因や障壁への認識が広まる中、当社は、教育の中心にウェルビーイングを位置づけることを目標に、教育と学習の「場」を再構築することを提案している。その際のテーマは「ウェルビーイングを軸に据えた学校教育」である。そのためには、今日の避けられない変化にも対応できる指導力、目標、スキルや学校構造、人間中心の学校教育に向けての価値観や期待へのシフトが求められる。

その際の物理的スペースの価値も再評価されつつある。ウェルビーイングを実現する上で学ぶ「場」は果たしてどんな役割を持つのだろうか?

「イノベーションと成長を目指す教育現場には改革の余地はたくさんあります。今後の教育と学習のあり方を見直す機会を与えられている今、かつてない方法でウェルビーイングを教育現場の主軸に据える時が来ているのかもしれません。健康で人としての成長を育み、それを維持することは決して容易いことでもありません。しかし、たとえ小さな変化でもそれが大きな結果につながることを信じて変化を起こす行動をとることが重要なのです。」とストリックランド氏は語る。

ウェルビーイングを支える6つの柱

ウェルビーイングとは、主には感情主体で不安やストレスというよりは「気分が良い」満たされた状態を指すことが多い。しかし、当社の研究によると、ウェルビーイングとは、身体的、認知的、感情的要因の集合体として捉えられ、そのどれもが欠かせず相互につながっていることが分かっている。

「ウェルビーイングの定義を広げることで、そのダイナミックかつ幅広い特性を理解できます。広範囲に及ぶ当社の調査により、ウェルビーイングを支える要素として、意義、仲間意識、信頼、マインドフルネス、楽観主義、活力という6つの柱があることが分かりました。」とストリックランドは説明する。

また、これらの6つの柱から、教育現場でのウェルビーイングを実現するにはウェルビーイングを包括的に捉えることがいかに重要かも見てとれる。まずはウェルビーイングに最も寄与する スペースには専用タイプと組み込みタイプの2つがある。専用タイプとは、フィットネス センター、マインドフルネス ルーム、カウンセリング センターなどウェルビーイングを目的として設置された部屋またはフロア全体を指す。一方、組み込みタイプは、建物のいたるところに配置できる。例えば、教室、共有スペース、図書館、カフェ、学生会館、教職員用ラウンジなどである。広いスペースの中の一部のエリアを仕切ったりゾーニングすることで、スペースを有効活用しながら学生・生徒や教職員のウェルビーイング改善を促すというものである。

student looking at her cellphone while seated on a Node chair

再構築に向けてのスペース設計

これらの6つの柱を考慮することでウェルビーイング向上をサポートする学習スペースの再構築が可能になる:

1) 意義 – 目的を見出すこと。まずは内省し、自分がより大きな何かにつながっていると感じること。

なぜ重要か : ポジティブな目的意識が感謝、自信、楽観主義、健全な行動につながるため。

学習環境を通して何ができるか:

  • 個人および共同体としての一体感を創出できる。
    例: 学生・生徒がスペースの中の要素を自由に動かせるようにする。
  • 謙虚な気持ちになれる。
    例:自然を環境の中に取り込む。世界中の人や場所とネットでつながる環境をサポートする。

2) 仲間意識 – グループの一員としてありのままの自分が受け入れられ、評価されること。

なぜ重要か : 仲間意識を感じる人ほど健康で、喜び、好奇心、自信、幸福感、熱意が高いため。

学習環境を通して何ができるか:

  • 皆が視界に入り、対話ができるスペースを提供する。
    例: フォーマルおよびインフォーマルな学習スペースの中にディスカッション エリアを配置する。アイデアや創造ワークを視覚化する。学生の情報や学校の歴史などを表示する掲示板を設置する。
  • 人と人がつながるコミュニティを形成する。
    例: 学校のマスコット、ロゴや色を視覚化し展示する。自発的な会話を促すような環境を創出する。
  • 居心地の良い包括的なスペースを創出する。
    例: 植物、自然光、外景など自然の要素をデザインの一部として屋内に取り込む。地域の特性や歴史などを視覚化する。多様性や包容性、独自性などより包括的視点から環境をデザインする。

3) 本来感 – 本当の自分を知り、隠さずに自己表現すること。

rendering of a classroom with Steelcase Elbrook Collaborative Table, Shortcut Chairs and stools, Orangebox Away from the Desk, Clipper Screen

なぜ重要か: 自分は何者かという自己同一性は、まどうことなく目的に向かって突き進めるため学業や人生においてより良い結果をもたらすことになる。一方で自己否定型は学習へのモチベーションも低く、達成感がない。

学習環境を通して何ができるか:

  • 選択する力と自分のことは自分で決定する力を養う。
    例: 柔軟な可動式家具を組み込む。さまざまな学習と指導方法を可能にするセッティングを配置する。
  • 多様性と自己表現を受容する。
    例: 可動式ホワイトボードや実践学習のためのスペースなど自己表現のためのさまざまなツールやメディアを配置する。
  • 価値観を育む。
    例: 学生・生徒や教員を称える方法を組み入れる。

4) マインドフルネス – 今というこの瞬間、自分や他者、周りの世界に意識を向け、大切にする。

rendering of a hub with Steelcase Regard Lounge, Orangebox Avi Seating, Orangebox Away From The Desk, Steelcase Series 2 Chair, Coalesse Lagunitas Lounge, Steelcase Surround Lounge, Steelcase Elbrook Personal Tables

なぜ重要か :「学習のための奇跡のスキル」とも言われているマインドフルネスのテクニックは、学習を阻害する要因となるストレス、不安、抑うつ、身体的苦痛などを減少させながら、注意力、自尊心、自己や他者への思いやりや認知機能などを高めることができるため。

学習環境を通して何ができるか:

  • 豊かな感覚を身につけられる。
    例: 自然要素を環境の中に取り入れる。どこにどう座るかを個人が選択、コントロールできるようにする。
  • 小休止と活力回復を可能にする。
    例: 学生・生徒や教員が落ち着いて集中力を取り戻すことができるスペースを設置する。
  • 多様性を受容する。
    例: 学生・生徒と教員がオープンかつ安全に交流できる快適なコミュニケーションエリアを設置する。問題やアイデアの多様な視点を視覚化できるようにする。

5) 楽観主義 – 忍耐、希望、成長に根ざしたポジティブな考え方を育むこと。

なぜ重要か: 希望や粘り強さを高め、結果として学業成績を向上させ、その後の人生においてより満足いく結果をもたらすため。

学習環境を通して何ができるか:

  • 挑戦と努力を奨励する。
    例: 学生・生徒の多様化に対応して異なる学習スタイルを可能にするスペースを創出する(内向型と外向型、内省的で自発的に成長する人など)。
  • 学習プロセスを可視化する。
    例: アナログとデジタル両方のホワイトボードを使用して、学習の進捗状況を可視化する。学習環境に透明性を取り入れる。

6) 活力 – 心身ともに健康で活動的であること。

rendering of a napping room with Coalesse Lagunitas Lounge, Campfire Skate Table, Elbrook Personal Table, Alight Ottoman,Orangebox Away From The Desk, West Elm Work Bell

なぜ重要か: 十分な睡眠、栄養、運動、ストレス管理を習慣化することは、脳機能を向上させ、集中力を高め、ストレスを減らし、高い学業成果をもたらすため。

学習環境を通して何ができるか:

  • 健康かつ安全な環境を設計する。
    例: 適切な対人距離、清掃・衛生、換気を徹底させる。バランスのとれた食事のチョイスと楽しみながら身体を動かす機会を提供する。屋外スペースを活用する。
  • 身体を動かすよう促す。
    例: 座る/立つの姿勢を変えられるよう仕掛ける。さまざまな活動のための多彩なスペースを配置する。
  • 小休止をサポートする。
    例: 必要なときに学生・生徒や教員が快適に休息できる「場」を設置する。

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