ウェルビーング

オフィスに「コミュニティ」を

「コミュニティ」が重要な理由

所要時間 10 minutes

人間はコミュニティの一員としてつながりを感じるとき、もっとも力を発揮します。人と人のつながりは、私たちのウェルビーイング、さらには生存そのものに欠かせない要素です。実際、世界保健機関(WHO)は最近、「孤独」を世界的な公衆衛生上の懸念と位置づけ、3年間にわたる国際的な「社会的つながり」委員会を立ち上げました。他者とのつながりの有無が私たちの健康に影響を与えるのは、ごく自然なことです。人類の歴史を振り返っても、人は常に仲間との関係に守られ、支えられ、喜びを見出しながら生きてきました。

Neighbourhood

狩猟採集をしていた時代とは働き方も暮らし方も大きく変わった今でも、コミュニティとのつながりは、個人、チーム、組織の成功に欠かせない要素であることに変わりはありません。オフィスで仲間とのつながりを感じられる人は、仕事に対する士気が高まり、モチベーションや満足度も向上します。実際、米ギャラップ社の調査によると、従業員エンゲージメントが高い組織ではウェルビーイングの改善や離職率の低下に加え、業績が18%向上し、収益性も23%増加するという結果が報告されています。つまり、良好な人間関係を築くことは、ビジネスの成果を高める最良の投資でもあるのです。

企業は、コミュニティを育む環境を整えることで、従業員同士のつながりを強化することができます。コミュニティには大きく2つの側面があります。人が集う「場」と、そこで育まれる「人間関係」です。

Business District

人間関係とそれを育む「場」がコミュニティをカタチづくります。 そして、このコミュニティこそが、急速な変化の中でも人と組織が成長し続けるための原動力になります。一方で、脳科学をベースに組織変革をもたらすコンサル機関、ニューロリーダーシップ・インスティテュートは、「絶え間ない変化の波は「変化疲れ」を引き起こし、生産性の低下、従業員エンゲージメントの喪失、離職率の上昇といった深刻な影響をもたらす」と警鐘を鳴らしています。しかし、変化を受け入れ、適応することができれば、よりやりがいのある仕事やウェルビーイング改善への道筋が見えてきます。そして、その変化の先にはより充実した働き方が待っているのです。

“多くが出社するのは同僚とつながるのが目的です。人間関係の構築は個人にとって良いだけでなく、仕事の満足度、従業員エンゲージメント、生産性、そして、創造性の向上にもつながります。”

コニー・ヌーナン・ハドリー | Connie Noonan HadleyInstitute for Life at Work創設者ハーバード・ビジネス・レビュー寄稿者

今日の働き方を変革する主な要因

4つの大きな変化が、今日の働き方やオフィスでの行動パターンを変えつつあります。働き方に影響を与える要因の中には、時間をかけて少しずつ強まってきたものもあれば、気づかないうちに突然変化をもたらしたものもあります。

画面越しのコミュニケーション

私たちは、対面よりも画面越しでのコラボレーションに多くの時間を費やしています。実に多くの人(約50%)が、会議室に行かずデスクに留まってオンラインで会議に参加しています。わざわざ出社して1人で仕事をする意味はあるのかと考えてしまうのも無理はありません。だからこそ、オフィスは人が集い、つながりを持てる「場」としての役割をさらに果たすことが求められているのです。

AIの急速な拡大
AIは仕事の内容や求められるスキルを大きく変えつつあります。新たな技術がけん引する経済成長期、いわば“スーパーサイクル”によって、イノベーションや生産性向上のチャンスが広がっています。経営層はAIへの投資に積極的で、多くの従業員もすでに日常の業務でAIを活用しています。しかし、その一方で、多くの経営層が「AIを十分に理解できていない」とも認めています。AIは職場において、どんな影響を与えていくでしょうか。

サステナビリティ思考
サステナビリティに関する具体的な目標を掲げる企業は増え続けています。オフィスは、人が集い、学び、イノベーションを加速させる「場」でもあります。企業は、オフィス環境を設計する際にもサステナビリティ目標を念頭に持続可能な空間を実現できる製品やノウハウを持つパートナー企業を選ぼうとしています。

緊急を要するウェルビーイング
メンタルヘルスの問題自体は目新しいものではありませんが、近年、不安や抑うつ、バーンアウトの増加により、よりその緊急性が高まっています。従業員側からも、メンタルヘルスを支援するための具体的な取り組みを期待する声も増えています。研究者やデザイナーは、人が働く「場」が、その日の気分や働き方に大きな影響を与えることを十分理解しています。

多くの企業は、変化や混乱の中で従業員がいきいきと働けるオフィス環境にするにはどうしたらいいか、未だ手探りの状態です。経営層は解決策を模索していますが、中には過去のやり方を繰り返すだけ、あるいは何も手を打たないままの企業もあります。その結果として、オフィスは、5年、10年前とほぼ変わらない姿で、活用されず、十分に機能していないことが少なくありません。例えば、一部のスペースはほとんど使われず、本来の目的に沿っていない、ラウンジエリアは空いたまま、広い会議室には1~2名しか座っていない、ひとりで仕事に集中するためのプライバシー空間、ビデオ会議対応の会議室などを探しても、必要なスペースを見つけられないなどです。

Community-Based Design City Center

現在、多くのオフィスでは「業務内容」と「業務を行う環境」が一致していません。加えて、出社スタイルの多様化が課題をさらに複雑にしています。ハイブリッド勤務を模索している企業もあれば、毎日の出社を求める企業もあります。しかし、今、その出社頻度にかかわらず、限られた対面での時間を最大限に活かせる「より豊かなオフィスづくり」が求められています。

スチールケースのデータ分析によると、オフィス環境の改善に向けた変化は徐々に見られます。間仕切りやポッドなどのプライバシー確保の要素を追加したり、オフィス回帰に向けて新たなチェアを導入したりなどです。しかし、これらは、従業員が真に求めているものの一部にすぎません。多くが「コミュニティ」がもたらす活気や熱量を実感できていないのが現状です。

 

都市計画が示すヒント

オフィスづくりには都市づくりと共通する目的があります。 基本的指針それは、働く人のニーズに応えることで、組織も個人もともに繁栄するということです。逆に、人を中心に据えた意思決定が行われない場合、都市もオフィスも活気や魅力を失ってしまいます。成功した都市計画の原則から得られる教訓は、オフィス設計にも応用できます。これにより、組織は変化により強くなり、成果を上げ、混乱の中でも成長できる環境をつくることが可能になります。

Community-Based Design Neighborhood

現代の都市計画において最も影響力のある思想家の1人が、ジェイン・ジェイコブズ氏です。彼女は20世紀半ばのニューヨークやトロントで活動し、高速道路の拡張や高層ビル建設のための歴史的建造物の破壊や低所得者層を立ち退かせる再開発計画に反対しました。こうした「都市再生」と呼ばれたプロジェクトは、結局は誰も住みたがらない空間を生み出し、最終的には放棄される結果となったのです。

ジェイコブズ氏は、「都市は人のためのものであり、人々の利益に資するものであるべきだ」と主張しました。彼女は、個々人が自分に必要なものを知る知恵を持っていると考え、地域の未来をつくる過程に住民を参加させることで、都市はより良くなると考えたのです。都市が交通や公共インフラを必要とするように、人々が定期的に集まり交流できる社会的インフラも不可欠です。賑わいの中でプライバシーや静けさを確保できる住空間、用途が混在する建物、活気ある歩道、公園、カフェ、図書館など、社会的交流を促進する「場」を重視しました。そうした「場」が人と人のつながりや相互への責任感を育むことを、彼女は観察から見出していたのです。ジェイコブズ氏は、都市を「変化に適応し続ける“生態系”」のような存在
として捉えていました。

ジェイコブズ氏の業績は画期的であり、現代の都市計画に大きな影響を与えています。都市設計者たちは彼女の思想をもとに、柔軟で逆境に強い“レジリエントな都市”を描いてきました。こうした発想はオフィス設計にも応用でき、従業員と組織がともに成長、繁栄できる環境づくりに役立ちます。

“オフィスにおけるコミュニティは、単なる社交
の場ではありません。個人として、そしてプロフェッショナルとして成長するために、信頼関係や支え合う人的ネットワークを築く場所でもあるのです。

ジャッキー・ブラッシー | Jacqui Brassey共同リーダー兼リサーチサイエンスディレクターマッキンゼー・ヘルス・インスティテュート

基本的指針

密度
人がつながれる距離を保ちつつ、過密にならないようにバランスを取る。

多様性
異なる種類のスペースやオフィスレイアウトを組み合わせて混在させる。

近接性
空間を分割し、途中で人が足を止め、交流が生まれる仕掛けを考える。

賑わう街路
カフェや小さな庭など、自然に人が集まる場所をつくり、オープンスペースへの誘導を促す。

多機能スペース
ひとつのエリアに多機能を持たせることで活力と利便性が高まる。

コミュニティ参加型
そこで実際に働く人の知識を活用し、意思決定に参加してもらう。

 

コミュニティ・ベース・デザインとは?

都市計画の原則とスチールケースが長年積み重ねてきた莫大な調査研究結果をもとに生まれた「コミュニティ・ベース・デザイン」。この設計アプローチは、しなやかで持続的に成長できるオフィスづくりを実現します。プロセスは大きく3つのステップ。まず人々のニーズを深く理解すること。次に、多様な空間と働く人の体験をデザインすること。そして、最後に、効果を測定することです。このサイクルを通じて、従業員がいきいきと働ける環境を生み出していきます。

 

コミュニティを構成する基本要素

活気ある都市のように、「コミュニティ・ベース・デザイン」の手法では、多様な用途が共存するゾーニングの中に多彩な空間を設けることを推奨して
います。各ゾーンは、従業員に選択肢とコントロールを与え、柔軟な働き方やウェルビーイングの改善を支援します。より実践的なオフィスデザインの
考え方によって、魅力的かつ使いやすい空間が生まれ、必要に応じて自在にスペースを変更させることも容易です。

コミュニティづくりは、そこで働く人や働き方を理解することから始まります。日々の業務内容によって、必要となる空間が決まります。これこそがコミュニティをカタチづくる基盤です。さらに、それぞれの空間は、多様な働き方を支える多彩な空間から成るゾーンとして集約されることでより効果的に機能します。この5つのゾーンが活気あるコミュニティを支える物理的インフラを形成します。

各ゾーンは主要な業務をサポートするだけでなく、集中、コラボレーション、交流、学習、リフレッシュなど、さまざまな方法で働くための多彩な「場」を提供します。

ワークプレイスのディストリクト(街区)は、都市計画から着想を得ています。活気あるワークプレイスは 5 つのディストリクトで構成されており、さまざまな種類の業務を支えるためにデザインされた多様なスペースから成り立っています。それぞれのディストリクトには主となる機能がありますが、人々が集中、協働、交流、学習、リフレッシュなど、さまざまな方法で働けるよう、幅広い場を提供します。

シティセンター

オフィスコミュニティの核となる「ソーシャルハブ」。人を引き寄せ、対話を促し、人と人の絆と信頼を築く。

ネイバーフッド

人とチームの拠点となる「ホームベース」。個人の集中ワークとチームメンバー同士の絆の両方をサポートし、チーム力を高める。

ビジネス地区

人が集い、共有し、ブレストし、コラボレーションする多種多様な共有スペース。創造性を促し、イノベーションを生み出す。

アーバンパーク

周囲の視線を気にすることなく休息できる「コミュニティ」としての目的地。心を癒し、リフレッシュしながらウェルビーイングを管理できる。

ユニバーシティ地区

個人およびグループでの学習のための共有エリア。体系的な学習とカジュアルな学習の両方をサポートし、学習する組織文化を育む。

 

コミュニティ・ベース・デザインで成果を上げる

コミュニティは、変化や困難な状況に直面したとき、人と人を結びつける「接着剤」の役割を果たします。コミュニティとしての一体感を感じられると、やる気や生産性が高まり、ウェルビーイングの向上やより良い成果の達成につながります。オフィスは、コミュニティを築くためのインフラとして活用できる戦略的資産です。しかし、従来のオフィスは、必ずしも変化する働き方に対応できているわけではありません。

始めるのは簡単です。まずは1つの空間から、あるいはコミュニティ・ベースデザインの原則を適用して、1〜2つのゾーン単位で進めることも可能です。

今日の働き方の変化は、あらゆる規模の組織に影響を与えています。コミュニティ・ベース・デザインは、従業員の新たな行動パターンに合わせて調整可能で、柔軟で価値ある空間を生み出します。大切なのは、最初の一歩を踏み出すことです。

ビフォー&アフター(改善前・後):5つの必須スペース

コミュニティ・ベース・デザインの視点で、十分に活用されていないスペースを再構築することで、従業員はより多くの選択肢と、今日のオフィスでのニーズに合ったより良い体験を得ることができます。本号では、よくある5つの課題と、それらの必須スペースをどう構築できるかを、ビフォー・アフターの事例を交えてご紹介します。

十分に活用されていない会議室
プライバシーに欠けるベンチデスク
機能性に劣るソファエリア
柔軟性に欠ける会議室
典型的なチームスペース

変化をご覧ください


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コミュニティベースドデザインの詳細や導入方法については、お近くのスチールケース担当者または認定ディーラーまでお問い合わせください。

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