デザイン

ハイブリッドオフィスの 効果を検証する

ハイブリッドコラボレーションスペースのプロトタイプを試し、学んだこと

所要時間 7分

ウェブカメラの位置が高すぎる、映像が暗い、ウェブ会議のスペースが狭すぎる、周囲の雑音が気になる、リモート参加の場合、人を詰め込んだような会議室での映像に不快感を感じたなど、ウェブ会議にまつわる悩みは決して少なくありません。

しかし、それには理由があります。

働き方が急変する中、働く人の行動パターンも大きく変化。今、企業はそれに対応できるオフィス変革を迫られています。米ミシガン州グランドラピッズのSteelcase本社キャンパスでは、日常的に定着したハイブリッドコラボレーションスペースの検証が本格的に始動しています。オフィススペースの何が機能し、機能しないかを把握する最善の方法は、実際の条件で試し、検証することです。それに向けて研究リサーチ、設計、IT、エンジニアリングの各部門がテックパートナー企業であるMicrosoft、Zoom、Logitech と密に連携し、ハイブリッドワークに向けての12のプロトタイプスペースを構築し、検証しました。スペースにはウェブ会議用関連ソリューションのPoly 製品や業務用音響機器の BiAmp のカスタムビルドソリューションも含まれています。

前提としてのデータ

世界11カ国、 約5,000 人の企業の従業員を対象にした当社の最新オフィス環境実態調査によると、従業員が現在/これからのオフィスに望んでいる機能の上位2項目の中のひとつがハイブリッドコラボレーションのためのスペースでした。

同オフィス環境実態レポートは、64% がハイブリッドコラボレーション用スペース、62% がひとりでのビデオ通話用スペースと報告しています。

働き方が多様化し、ハイブリッドワークが定着しつつある中で、従来のままのオフィススペースはもはや機能しないのがデータからも明らかです。会議室やオープンなコラボレーションスペースに関しても調査対象者の3分の1以上の人が現オフィスのコラボレーションスペースに何らかの不満を抱いています。

その不満やストレスの原因はITインフラや機器の不具合だけでなく、周囲の雑音や空間、集中できる場所がない等も挙げられています。

特に会議室など個室での「ハイブリッドコラボレーション」では下記のような問題が起こりがちです:

47% – スペースが狭すぎる
37% – スペースが心地よくない
28% – 騒がしい
27% – 視覚的プライバシーが不十分
19% – スペースの予約が困難
15% – 映像上の問題がある
14% – 音響上の問題がある

Steelcaseでは日常的に最新型のハイブリッドコラボレーションITツールが使用されています。

試す + 調べる

本社キャンパスに構築したプロトタイプスペースでは、同調査で判明したさまざまなグローバルレベルでの問題点や課題が検証されました。12のプロトタイプは、単一目的のための個室型スペースから、ハイブリッドコラボレーションのための広めの会議室またはオープンなミーティングスペースまでその種類は広範囲に及びました。ユーザーインタビューやQRコードを介しての簡単なフィードバックを通してデータは集積され、各スペースの利用状況が詳細に記録されました。

その後、各プロトタイプは3 つの主要な設計目標をベースにさらに評価されました: 公平性(対面とリモート両方の環境格差をなくす)、自発的貢献(仕事に積極的に参加し、集中させる)、手軽さ(リアルとネット両方でシームレスにつながりながら仕事をこなせる)。


Keith Bujak Portrait

キース・ブジャック博士、Steelcase 主任研究員

ハイブリッドコラボレーションのパイロットプロジェクトを率いたリサーチチームの主任研究員であるキース・ブジャック博士(Keith Bujak, Ph.D.)はこう述べています。 「プロジェクトを通して設計、施設、ITの各チームが密接に連携することがいかに重要かを学びました。今後も新たなアイデアが自社スペースで繰り返しテストされていきます。」

試行されたプロトタイプ3選:

1 対 1 の個室型ミーティング スペース

Prototyping the Future of Work
「バーチャル・キオスク」は、LogitechのMeetUpバー(カメラとスピーカーシステム、タップタッチコントローラー)を備えた1人用ハイブリッドコラボレーションスペース。瞬時にビデオ通話が楽々とできる環境を創出しています。

利用状況: ビデオ通話の使いやすさが高評価を獲得。当スペースは 2021 年にLogitechのMeetUpバーとTapタッチコントローラーが装備され、新たにハイブリッドコラボレーションスペースとして設置。画面との距離を縮め、画面上の人物がまるで窓の向こう側にいるかのようにディスプレイのサイズに細心の注意を払った。オープンな中に固定席のあるチームスペースに設置したことでプライバシーを要する1人でのビデオ通話(15 ~ 30 分の短時間) で頻繁に利用された。

高評価: 顔を明るくする正面からの柔らかな照明、ドアを閉められる個室ブースは周囲の雑音を軽減できる、ガラスドアはプライバシーを確保しつつ周囲の様子もわかるなど高評価を得た。また、座る・立つ両方の姿勢での会議が可能で、背後に配置したホワイトボードがより活発な会議を促した。

今後の課題: スペース内の家具を動かしたり、座ったり立ったりといったよりダイナミックで柔軟な利用方法をもっと啓蒙すべきである。照明の位置を高めにすることがより効果的であるとしつつも、顔に影ができて表情が暗くなるという問題があった。

個室型チーム用コラボレーションスタジオ

Prototyping the Future of Work
ハイブリッド コラボレーション用に特別に設計された「マイクロソフト・チームスタジオ(Microsoft Teams Studio)」。Microsoft Surface Hub 2S モニター、可動式テーブル、チェア、カートで構成され、スペースを自在に再構成できるなど高度な柔軟性があります。

利用状況: 主にプレゼン用に複数の可動式テーブル、チェア、ディスプレイ、カメラ、ホワイトボードから構成。プレゼンやブレストなど何かを生み出す生成型ワークが要になるチームでのハイブリッドコラボレーションを念頭に設計された。機能していると感じる人もいれば、少し挑戦的であると感じる人が混在している。

高評価: 大型コラボレーションデバイスを含むマルチディスプレイを設置し、1画面はリモート参加者、別画面をコンテンツ表示にすることで会議をよりスムーズに運べた。また、スペース予約システムでデバイスの種類や参加人数に合った最適なスペースを効率的に予約できた。

今後の課題: 「バーチャル・キオスク」ほどの直感性のある使用感はない。ホワイトボードのコンテンツや部屋の様子をリモート参加者にクリアに見えるように、2画面の位置やカメラの効果的な活用法などのトレーニングを提供すべきである。ディスプレイや家具などのベストな配置に関してはさらなる検証を必要とする。チーム特定のニーズや用途に合わせてスペースを調整しながら仕事を遂行できるため、スペースを専有しながらプロジェクトをこなすチームには最適と判断した。

オープン型コラボレーションスペース

Prototyping the Future of Work
「スタッフ・ラウンジ」では、オープンな空間でのコラボレーションを果たして快適に遂行できるかが検証されました。

利用状況: 「スタッフ・ラウンジ」では、まるでリビングルームにでもいるようなリラックスした雰囲気でカジュアルな対話の機会が増えた。オープンな空間でのコラボレーションの重要性が再認識された。

高評価: カジュアルな姿勢とリラックスした雰囲気の中でリモートでの対話がより活発になった。スペースの両サイドにマイクとスピーカーを配置することでクリアな音声でストレスなく会議が遂行できた。少人数でのカジュアルな会話でより効果を発揮し、サイドテーブルでのPC操作による集中ワークも支障がなかった。

今後の課題: オープンな中での周囲の雑音が懸念事項のひとつ。特にリモート参加者はどこまで自分の声が届いているかが分からないため、共有する情報に不安を抱くことが多い。対応策としては吸音パネルを増設したり、セッティング自体を静かな場所へ移動することも検討すべきである。また、外光や照明で溢れる空間は明るいが画面にグレアが発生しやすく、カメラ写りが悪く、見えにくくなりがちである。

プロトタイプから得た学び

ブジャック博士は、ハイブリッドオフィスの構築を考えている企業にとって最も鍵となるポイントは、「人間味」のある働く体験を設計の主軸に置くことであると主張しています。

「会話の順番の取り方、ボディランゲージから読み取れる本音、対面コミュニケーションの際の微妙な感情の伝えやすさなど、人間同士の直接的な触れ合いを念頭にすること、また、家具や空間、テクノロジーを活用して空間をいかにクリエイティブに創り上げていくかを考えるべきです。出社とリモートというハイブリッドワークはますます定着していきます。ハイブリッドオフィスを人間味溢れる体験として構築すること。そのことで組織力やチーム力は強化されていきます。」とブジャック博士は言います。

「学ぶことをやめたら、成長は終わる」

当社では、上記を含む多くのプロトタイプを設計し、検証し、学び、それを反復することでさらなる改良を重ね続けています。そして、ミシガン州の本社に続いて、ニューヨーク、パリ、ロサンゼルス、トロントの新スペースの進化へとつながっていきます。変化し続けるテクノロジーや職場でのニーズに合った働く「場」の変革はいまや不可欠です。当社は、テック業界のリーダーである Microsoft、Zoom、Logitech、Crestron との協業を通して、スペースとテクノロジーのシームレスな融合のさらなる実現を目指していきます。

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