ハイブリッドワーク

デザインで役員スペースを変える

ハイブリッドワーク時代の幕開けとともに、そのカギを握るリーダーシップ
スタイルと役員スペースの変革が始まろうとしています。

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テレワークとオフィスワークを組み合わせたハイブリッドワークが定着しつつある昨今、多くの企業の経営陣の頭を悩ませているもの、それは選択肢が広がる柔軟な勤務形態を推進しつつ、共同体としてのコミュニティ意識を維持しながらいかに組織の結束力を高めるかという難題です。今、Tik Tokをきっかけに「Quiet Quitting(静かな退職)」という考え方が広がっています。仕事への熱意がなく、必要最低限以上のことはしないという風潮が組織文化の希薄化を招いている現状に対して、経営トップが自らの振る舞いを通して社員を奮い立たせようという動きがあります。

社員のオフィス復帰とハイブリッドワークが本格的に導入され始めると従来のオフィスがいかに機能しないかを実感できます。ハイブリッドワーク導入を成功させるには、そのプロセスで経営陣自らが行動様式のロールモデルとなって組織を率いていく責任を担うことが極めて重要になります。従来の常識を壊し、部下が近づきやすい、話しやすい、親しみやすいといった新たなリーダー像でハイブリッドワーク導入の方向性を自ら指し示すということです。 「オープンで親しみやすいといった企業リーダー像こそが変革の鍵を握っているといえます。かつて、それは社内のジムやカフェテリア、ペットを職場に同伴できるという特典でした。」と語るのはマッキンゼーのワークプレイス戦略 & 変革リーダー、フィル・カーシュナー氏です。

「オープンで親しみやすいといった企業リーダー像こそが変革の鍵を握っているといえます。かつて、それは社内のジムやカフェテリア、ペットを職場に同伴できるという特典でした。」

Phil Kirschnerフィル・カーシュナー
ワークプレイス戦略 & 変革リーダー、マッキンゼー

一方、組織のヒエラルキーをもとに設計された従来のオフィスでは、空間そのものが障壁となっています。経営陣が席を置く役員フロアはあくまでも役員のニーズに重点を置いて設計され、他とは一線を画しています。社員との偶発的な出会いも困難で、このことが組織の柔軟性や透明性を阻む一因にもなっています。変革への第一歩は発想を変えて従来とは根本的に異なるアプローチで役員スペースを設計することです。環境を変えることで意識が変わり、行動様式や組織文化が改善され、「スペース」が有効な戦略ツールとして機能し始めます。

高性能かつ社員との距離を縮めるスペース

社員が求めるリーダー像とは、オープンで親しみやすいこと、そして、経営の透明性が当社の実態意識調査からも明らかになっています。それには経営陣や管理職の意識・行動改革が欠かせませんが、それは時に効率的な組織運営の障害になる場合もあります。

経営層と社員の距離を縮める親しみやすいスペースと組織が直面する日々の難題や危機を乗り切るための高性能なスペース、その両方のバランスを図ること。また、経営メンバー同士はもちろん、組織内の意思疎通を迅速かつスムーズにすること。これらはいずれもリアルとリモート両方のコミュニケーションが混在するハイブリッドワーク環境において、企業が直面している喫緊の課題です。 スチールケースの CEO であるサラ・アームブルスターはこう述べています。

「激変する時代に経営層の意識や行動を改革するには、物理的スペースが果たす役割は極めて大きいと私たちは考えます。当社は経営層が常に率先して新たな働き方を実践しながら社内に浸透させてきた歴史を持ちます。その実験場となる役員スペースは、当社の長年の研究と知見をベースにハイブリッド型役員スペースへの革新的な方向性を提示するものです。」

米ミシガン州グランドラピッズに構えるスチールケース・ラーニング&イノベーションセンター内にある新スペース、「リーダー・コモンズ」。新たな行動様式を促すためのプロトタイプとして、そのコンセプトは日々テスト、評価、改善されています。経営陣の日々のハードなニーズを満たす高度な性能を備え、リアルとリモート両方でのスムーズなコラボレーションを実現しながら、経営陣と社員をつなぐさまざまな仕掛けが散りばめられています。

グローバルデザインディレクターのシェリー・ジョンソンはこう主張します。「従来の役員スペースは、今日社員が望む組織の透明性や社員との距離を近づける環境ではありませんでした。」

ダイナミックに変容し、かつ魅力溢れる都市の近隣地区の設計から着想を得たハイブリッド型スペース。それは「公平性」と「自発的貢献」、「使いやすさ」を主軸にした多種多様な個人/共有スペースで構成されています。

リーダーシップネイバーフッドを構築する

当社が提案するのは「ネイバーフッド」という新たな設計コンセプト。私たちが居住する活力に溢れた都市の近隣地区(ネイバーフッド)のようにオフィスを設計するというものです。「ネイバーフッド」は、個人や組織の成長や繁栄のために共同体としてのコミュニティ意識や一体感を構築すると同時に、組織の価値観を伝え、組織文化を醸成する戦略ツールとして機能します。

「ネイバーフッド」設計にあたって、当社は次の4つの設計基準を設定しています。但し、その表現の独自性や個性は企業毎に異なります。

  • 個 + チーム: 都市の近隣地区に住宅地と公共施設が調和しながら混在しているように、個人とチーム両方の働き方をバランスよくサポートする。
  • 固定から流動へ: 高度なニーズや将来の変化にも迅速に適応できるように、自らレイアウトを容易に変更、再構成できることでスペースを最大限に有効活用する。
  • オープン + プライバシー: 周囲の雑音から離れての1人での集中時間は不可欠。そのために必要な時に即座にプライバシーを確保できる。
  • ネット + リアル: ビデオ通話やウェブ会議はオフィスの新スタンダードに。リアルとリモート両方での公平かつ快適につながる環境を整備する。

「リーダーシップ・ネイバーフッド」のレイアウト

ハイブリッド型役員スペースには、その多様かつ複雑なニーズを満たすための多種多彩かつ魅力溢れる個人・共有スペースが計画的に配置されています。

1. C-スイート*ホームベース
経営陣の見える化と経営メンバー同士や社員との交流を促す「フロントポーチ」を備えた1対1のコラボレーションスペースと集中ワークのためのパーソナルスペース。チェア背後の壁をビデオ通話の個性豊かなバーチャル背景として利用するなどビデオ通話体験を高める工夫がされている。
*CEOなどの経営トップ層

2. アシスタントポッド
経営陣を日々サポートするスタッフ席を近くに設置。可動式家具で配置変更も容易である。

3. ソーシャルハブ
「リーダー・コモンズ」の入口に位置し、人が自然に集い、経営陣とのカジュアルな交流を促すスペース。会議前のウェイティングスポットとしても機能する。

4. コートヤード
中心に位置し、サイズ違いの遮音・吸音タイプのキャスター付き間仕切りを設置。スペースを自在に区切っての対話やコラボレーションが容易で、可動式家具を動かしながら人をつないでいく。

5. フロントポーチ
主要動線の近くに位置するカジュアルなアンシラリースペース。ミーティングの合間や前後のメールチェックなどのタッチダウンスポットとして、また、雑談や来客のおもてなしスポットとしても利用できる。

6. コミュニティミーティングスペース
ハドルルームやアクティブコラボレーションスペース、情報共有型コラボレーションルームなど予約可能なハイブリッド用会議室やミーティングスペース。全社員が利用可能でハイブリッドコラボレーションを強力にサポートする。

7. コミュニケーションキオスク
アナログとデジタル両ツールをスペース全体に組み込み、社員や来客に向けての情報掲示板で社内外への情報発信を強化する。

ハイブリッド型役員スペースの新たなカタチ

C-スイートホームベース
C-スイートスペースは主要動線に面し、プライバシーを確保しながら誰もが気軽に立ち寄れる「場」として再設計されました。集中ワークやビデオ通話の際はポッドの引き戸を閉めるだけ。チェア背後の壁をビデオ通話の個性豊かなバーチャル背景として利用したり、自立型ポッドの周囲には多種多様な補完的スポットを設置するなど、さまざまな工夫を凝らしています。

 

プライベートゾーン テクノロジーと仕事ツールが完備されたコンパクトなスペース。周囲の雑音から離れた1人での集中ワークやビデオ通話にも便利である。
バックポーチ ソファ等で居心地が良くリラックスした空間を演出。PC作業や同僚との簡単なミーティングスポットとして利用できる。

C-スイートホームベース : 選択肢としてのアプローチ
よりオープンな環境を好む経営陣のためのスペース。間仕切りを活用してプライバシーを確保しながらスペースを自分仕様にカスタマイズできます。

バックポーチ ソファ等で居心地が良くリラックスした空間を演出。PC作業や同僚との簡単なミーティングスポットとして利用できる。

ソーシャルハブ
会議の前後を活用して社員との対話を促す多目的カフェスペース。メールチェックや簡単なPC作業などのタッチダウンスポットとしても幅広く利用できます。


リモートリーダースペース
ゆとりある住空間をオフィスに。1人での集中ワークのためのワークテントや自立型遮音ポッド、カジュアルなミーティングのための「フロントポーチ」など、周囲には心地良さを満喫できるバリエーション豊かなスペースが配置されています。

模範となるリーダーシップ

ハイブリッドワークの推進は、経営戦略の視点からも組織を活性化し、生産性を高めるという点でおそらくこれからの企業の最重要課題になります。経営層が率先して模範となる働き方を示し、ハイブリッド型へと役員スペースをシフトさせることで社内に新たな組織文化を浸透させることができます。

オフィスリニューアルの舞台裏

スチールケースのデザインチームは、経営チームとコンサル担当のアプライドリサーチ&コンサルティング(ARC)チームに協力を仰ぎながら、今日のリーダーに不可欠な行動規範とは、組織文化再活性化のために何が必要なのか議論を重ねてきました。ARCチームは、アンケート調査やインタビュー、ワークショップを通して、経営層が抱える課題やハイブリッドワークで浮上した新たなニーズを徹底的に洗い出し、真に機能するスペースのあるべき姿を描き、具現化しました。

スチールケース設計チーム (左から右へ): グローバルクリエイティブデザイン担当、ジョン・ローゼ、インテリアデザイン担当、サラ・アームブルスター、シニアインダストリアルデザイナー、カイ・ユー、グローバルデザインディレクター、シェリー・ジョンソン

1 対 1 インタビューなどの調査プロセスを通して、各幹部のリーダーシップスタイル(1人/他者と共同で働く頻度等)などを特定した結果、最終的に設計チームが導き出したのが「リーダー・コモンズ」というスペース。結果として社員とのコミュニケーションとプライバシーの必要頻度のバランスを図りながらさまざまなスタイルの「場」が生まれました。

グローバルデザインディレクターのシェリー・ジョンソンは、次のように述べています。 「すべての個人用スペースは、仕事のパフォーマンス向上とプライバシー確保の両面から設計されました。完備されたデバイスやツールはほぼどれも同じでありながら、異なるのは個性の表現とプライバシー確保の方法でした。個性を尊重すること、そして、リアルとリモート両方でのスムーズなコミュニケーションを構築することが重要なポイントでした。」

ハイブリッドワークを機能させる

ハイブリッド型役員スペースでも、最新デバイスを駆使しながらリアルとリモート両方でのスムーズかつ快適につながる環境整備は必要不可欠です。その中核となるのがオープンと個室、1対1とグループでの対話のための多種多様なハイブリッドコラボレーション スペースの設置です。

スチールケースは、業界をリードする世界的テック企業と開発段階から協業し、「スペース」と「テクノロジー」が融合する統合型ソリューションの提供を目指しています。個人とチーム、そして、組織のためのより豊かでハイブリッドな働き方と誰にも公平で使いやすいスペースづくりを支援していきます。

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