デザイン

創造力に富んだAIは余剰なデザイナーを不要にするのか?

AIをデザイナー達の脅威と見るより、寧ろ機会と捉えるべきである。

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Steelcase EMEA & APAC デザインダイレクター Michael Held氏

職場環境における人工知能 (AI)の影響を受けない職業があるだろうか?毎日私達は、それがUberの運転手やアカウンタント、法律専門家であろうと、低いスキルやプロセス型の役割に知的システムやアルゴリズムがもたらすであろうインパクトに関する報告を突き付けられている。しかし、デザインや芸術など、所謂「クリエイティブ」と呼ばれる専門的職業には常に人間味が求められると私達は考える傾向がある。所詮、コンピュータはクリエイティブにはなり得ない-のだろうか?

クリエイティブになるとはどういう事か?

クリエイティビティの定義は何世紀にも渡って変化しており、ルネッサンス期まではクリエイト(創造)する能力は通常神が保持する領域と考えられていた。プラトンはその著書「国家」の中でこう尋ねられた。「画家とは、何かを創るのか?」彼は答えた。「勿論違います。彼はただ模倣しているだけなのです。」更に、クリエイティブが芸術以外の分野に関連付けられるようになり、現在の定義が受け入れられるようになったのは20世紀になってからであった。多くの人は現在クリエイティビティを、新たなアイデアや考え方に基づいて探索し行動する事で、スタジオで行われるのと同様にビジネスにおいても可能な事だと認識している。


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しかしながら、AIとクリエイティビティ及びテクノロジーの統合に関して言えば、多くの懐疑論者がプラトン的な視点を持ち、コンピュータはそれらがプログラムされた事だけを行い、自身で新たなものを生み出すことはできないと主張している。しかし芸術を創造し、小説を執筆し商品をデザインするAI、つまり、例えより優れていなくとも多くの人間と同等の仕事をこなすAIの例と共に、この考えは急速に疑わしくなってきている。まだ幼児期のような段階にあるテクノロジーを鑑みると、いつの日か私達人間を完全に代替する事にならないと誰が言い切れるだろうか?

求められる可能性の獲得と文化的関連性

製品の開発において、アイデアやデザインが成功し利益を生みそうか否かを評価する際に、実行可能性、継続可能性、そして人々から求められる可能性が必要だと私達はよく口にする。実行と継続の可能性については、素材の入手可能性や製造技術、利益率を考慮するとかなり白黒が明確である。しかし通常、より複雑となるのが求められる可能性に関しての領域であり、いかなる論理的な手法を用いても計算したり予測する事はほぼ不可能である。

人々から求められる可能性は、全てが同時発生し、又常に進化し続ける無数の文化のトレンドに影響される。故に私は文化の関連性の理解と、人々の間で求められる可能性を生み出す事には、人間からのインプットがしばしば必要とされる事を主張したい。さもなければユーザーによって採用されるチャンスは随分低いであろう。言い換えれば、コンピューターは小説を書くことができるかもしれないが、もし私達人間がその作品を読み評価しなければ、人間の文化に何ら影響を与える事はないのである。

人間と機械

文化的な関連性と人々から求められる可能性とを創造する複雑さの意味するところは、殆どの場合、デザインそのものには常に人間が関与するにも関わらず、クリエイティブプロセスを拡大する為にAIと協力してその活動を行う事にある。(勿論これは、人間の手助けや認識さえもなく機械がそれら自身で何かを生み出せるパラレル文化には当てはまらないが。)一つのシナリオとして、私達の思考を促進させたり、新たな方向性へと突き動かす手助けをする為に、音声的や視覚的、又その他の種類の刺激を提供する為にテクノロジーを利用する事ができる。コミュニケーション論において「期待違反理論」として知られるコンセプトがあるが、これは前向きな形式としては 問題をこれまでにない方法で見たり、問題のより良い理解の手助けをもする為の新たな考え方の紹介と理解できるもので、未来においてAIによって担われる役割の一つになり得るだろう。

AIをデザイナー達の脅威と見るより、寧ろより良い形で物事をこなしたり、私達の働き方を効率化する機会と捉えるべきである。

知的技術は、他のアプローチや考え方を更に理解したり活用する為に、私達がチームやビジネス、或いは業界全てにおける私達のプロセスをより効率的に記録したり相互に関連付ける事をも可能にする。同時に進行しているプロジェクトやアイデアを結びつける為に、手動で行うのは不可能な方法でAIシステムが背後で常に働き続けている事を想像してみよう。他の人々の失敗や成功から私達はより素早く又総合的に学ぶ事ができ、アイデアやイノベーションの進化の急速なスピードアップを可能にするだろう。

故に、AIをデザイナー達の脅威と見るよりも、寧ろより良い形で物事をこなしたり、私達の働き方を効率化する機会と捉えるべきである。
デザイナーの役割は進化するだろう。そして、今日の私達が想像すら及ばないような多くの新しい役割も生み出される。しかし如何なる変化も段階的で、人間がその実現の不可欠な一部となるものであろう。

挑戦に取り組む

もしAIのデザインプロセスへの組み込みを成功しようとするならば、言うまでもなくそこには、管理されコントロールされるべき数えきれないほどの文化的、倫理的、そして実在的な基本があるだろう。その筆頭がプライバシーである。私達の仕事の仕方を効率的に増強する為、私達の日々の生活における行動や関りの方法をAIはつぶさに監視し記録する必要があるだろう。故に私達は、AIが私達の全ての情報を集め保持する事をどれほど許容できるかについて考えなければならない。更には、万が一ふさわしくない立場の人々の手に私達のデータが渡ったとしたらどうなるであろうか?

もう一つの大きな課題は、文化に立ち返る事になるが、私達の仕事のコミュニティは人工知能の導入によってどのような影響を与えられるかと言う点である。人間として、私達の働く方法は、自身の感情や関係性、情熱や奮闘と肩を並べている。この混合の中にAIが入ってきた時、私達の人間としてのエネルギーに何が起こるだろうか?もしそれがiPodのプレイリストのようになっても、私達の仕事に対するエンゲージメントや喜びは果たして変わらないものだろうか?

私達の目前に工業革命のように偉大な、又はそれ以上大きくなり得る程の大変革が控えている事に疑いの余地はない。それは私達の生産性や働く方法を、そしてクリエイティブになる事の意味を転換すると同時に、その道のりには無数の大きな問題と挑戦を生じさせるだろう。しかし今、当時と同じように、この挑戦は何ら恐れるものではない。それどころか骨の折れる労働や単純作業を機械が担う事で、クリエイティブ思考の必要性は更に大きくなるだろう。そしてそれは、デザイナー達にとって歓迎すべき事にしかなり得ないのだ。


Michael Held氏Michael Held氏はSteelcaseのヨーロッパ、中東及びアジア太平洋地域のデザインダイレクターであり、同社には2014年3月に入社した。前職において彼は、香港及びシンガポールにてPhillips Electronicsのデザインマネジメントダイレクターを務めていた。彼はUniversity of Applied Sciences Darmstadt(ドイツ)にて工業デザインの学位、又University of Art and Design Zurich(スイス)にてデザインカルチャーの特別修士を取得している。


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