組織文化 + 人材

アジャイル チームを サポートする 6つの方法

企業の経営幹部たちが数日缶詰になり、ウォールストリートに相当するような事業5ヶ年計画を策定していたのはついこの間の話だ。しかし、今やこの5年という期間はとてつもなく長い。

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世界的な民泊仲介大手オンラインサイト、エア・ビー・アンド・ビー(Airbnb)は、ある人のリビングルームを貸し出すアイデアから、70万人の民泊施設を仲介するまでにたったの3年しかかからなかった。アプリやウェブを利用した配車サービスを提供するウーバー(Uber)は設立から数百万の資金調達にいたるまでに費やした期間は2年だ。事業5カ年計画を未だ採用している企業はあるにしても、今日の多くの企業は、5日間、5週間、5ヶ月計画を策定するのが一般的だろう。イノベーションに向けて、多くの企業は失敗を奨励し、早めに失敗し、迅速にプロトタイプを製作し、継続的に学び、イノベーションサイクルを短くするアジャイルチームの構築に専念している。

「アジャイル」の誕生

「アジャイルとは、新しいアイデアを生成する開発手法の一つです。組織にとっては、新しいアイデアを具現化していく行為ともいえます。しかし、新しいアイデアが生み出させる場所ではないのです。それはアイデアが素早く反復され、改良され、カタチになっていくプロセスなのです。」と強調するのはIDEOのCEOであるTim Brown氏だ。

Merriam-Webster辞書では、「アジャイル」という形容詞を「素早く簡単に余裕を持って行動する能力」と定義している。Brown氏によると、ビジネスの世界ではアジャイルという言葉は名詞として使われることが多く、2001年にソフトウェア開発チームのために制定された12の指針である「アジャイルマニフェスト」のコンセプトを意味する。今日、アジャイルはIT分野だけでなく、さまざまな分野における成功率の増加や新しいアイデアの開発や実践をスピードアップするためのものとして語られることが多い。アジャイルワークの指針は次の通りである。

  • 早期に一貫性のある継続的な成果物を顧客に提供する。
  • 複数のプロジェクトを同時に動かすことに対して、一度に1つのプロジェクトに重点を置く。
  • 迅速で頻繁に行われる対面式のチームミーティングは、立ちながらのことも多く、コミュニケーションをスピードアップさせ、その進捗状況も追跡される。
  • 製品における迅速なフィードバックのために、顧客によるユーザーテストを実施する。

一般的に、アジャイルは、スプリントや立ちながらミーティング、スクラムマスターなどのアクティビティを含むスクラムフレームワークとペアになっている(用語集を参照)。

アジャイルマニフェストの調印者でもあり、「Scrum:The Art of Doing Twice the Work in Half the Time (スクラム: 仕事が4倍速くなる世界標準のチーム戦術)」の共同執筆者の1人であるJeff Sutherland博士は次のように述べている。「製品をより迅速に導入し、それを素早く繰り返すには、短期間で仕事をする小さなチームが必要でした。今日、あなたのスマホのソフトウェアは数週間毎に更新されていますが、実はそれは遅いのです。アマゾンは何千ものスクラムチームを抱え、11.6秒毎に新たな機能を生み出しているのです。」

「アジャイル」という言葉は、2001年以来、IT以外への様々な分野へと拡大していくためにカタチも変容していった(「アジャイルの定義」を参照)。その中で、彼らは製品開発などの詳細なスケジュールやチャートが市場導入への遅延を招いていることに気がついた。製品やサービスを市場に導入する頃にはそれらはすでに時代遅れになっているというわけだ。今日必要とされるのは、製品やサービスを頻繁にテストし、改善し、改良し、最終的に顧客を満足させるモノを創り出し、市場に導入し続けることなのだ。

360 Magazine, Inside Innovation
「アジャイルとは、新しいアイデアを生成する開発手法の一つです。組織にとっては、新しいアイデアを具現化していく行為ともいえます。しかし、新しいアイデアが生み出させる場所ではないのです。それはアイデアが素早く反復され、改良され、カタチになっていくプロセスなのです。」と強調するのはIDEOのCEOであるTim Brown氏だ。

創造プロセスを加速させる

概して、効率重視の企業組織は、直線型プロセスをサポートするように構築されていて、反復し、創造し、変化を受容できる能力には欠けている。企業が組織のデジタル変換をスピードアップするにつれて、データとテクノロジー対応型ソリューションが場所にとらわれない働き方を可能にし、創造プロセスが加速した。そのことでアイデアが増え、市場投入までの時間が大幅に短縮されたのだ。

「アジャイルの本質とは、チームが最終的な結果を改善するために素早いサイクルで学習し、変化に迅速に適応できるようにするというものです。時には、プロジェクトの方向性や優先順位を変えなければならないかもしれないのです。」と言うのはSteelcaseの最高情報責任者(CIO)であるTerry Lenhardt氏だ。

Sutherland博士は著書の中で、仕事を上手にこなしているチームは、スクラムを実践することで生産性を300〜400%向上させていると書いている。そしてこうも語っている。 「変化するか、倒産するかです。アジャイルとは改善のための新プロセスです。それは精密なスイス時計をつくるようなもので、全ての部品が連動して初めて大きなことが起こり始めるということです。」

「アジャイル」な環境

「アジャイル」はさまざまな方法で実践されている。特に初期に「アジャイル」を採用したチームは、それに関連した決まり事や形式に大きな価値を見いだしてはいたが、多くが独自の方法でそれを実践している。そして、面白いことに、チームはそのプロセスを自分たちで管理、コントロールできるように、働く「場」も自由に選択している。

「所有・共有スペースという既存の概念が根本的に変化しているのだと私たちは感じています。オープンレイアウトのスペースを皆で共有しながら、チームはプロジェクトルームを所有するという考え方が既に古いのです。今日の社会が共有するというシェアリングエコノミーになっているように、オフィスの部屋も予約制で、より柔軟な働き方が必要になっているチームはオープンレイアウトのスペースを利用するようになっています。」とLenhardt氏は語る。

アジャイル的働き方には、そのプロセスのさまざまなステップをサポートするための「場」のエコシステムが必要になる。つまり、人々がどこでどう働くかをチョイス&コントロールできる裁量権を持つということだ。 「アジャイル的働き方には、視覚的持続性、継続的学習、迅速な試行が求められ、それに対応したスペースづくりを人々は望んでいるのです。デジタルとアナログ両方の情報、リアルとネット両方でのミーティングも必要です。アジャイル的働き方を実践するには、ユーザー自らがスペースをコントロールできる仕組みづくりも考えなければなりません。仕事での問題解決に向けて何が必要かを知っているのはユーザーである社員であり、企業はスペースを再構成しやすく、より柔軟なものにしていくだけなのです。」と語るのはLenhardt氏だ。

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アジャイルマニフェストの調印者でもあり、「Scrum:The Art of Doing Twice the Work in Half the Time (スクラム: 仕事が4倍速くなる世界標準のチーム戦術)」の共同執筆者の1人であるJeff Sutherland博士は次のように述べている。「製品をより迅速に導入し、それを素早く繰り返すには、短期間で仕事をする小さなチームが必要でした。

「アジャイル」的実験

Steelcaseは、自社のスペースを働く人々の行動プロトタイプとして活用しながら、新しいアイデアを試したり、何が機能し、何が機能しないのかを探ってきた長い歴史を持つ。最近の例では、アジャイル的働き方のコンセプトを自社のスペースで試作しながら、その効果を測定している。こういう活動が、新たな働き方や働く「場」がどうやったらそこで働く人々を最も効果的にサポートするかについての莫大な知識を蓄えることにつながっている。

「私たちは今、仕事の中に組み込まれた学習、リーダーシップモード、コミュニティ形成などに関する新たなインサイトを集積しています。アジャイルは、 スペース自体に変革をもたらすだけでなく、人々の行動パターンや社会規範、実績評価といったものも包括的に変化させるのです。」と語るのはSteelcase Applied Research + Consulting(ARC)のTracy Brower博士だ。

Steelcaseでは、アジャイル的働き方の精神をベースに、アジャイルチームをサポートするためのスペースづくりに向けての特性を下記のように定義している。これらの初期段階での発見では、個人およびグループでのワークモードと同様、その移行期の状況をも考慮している。

01. 縦のスペースを活用して学習をサポート
アナログ/デジタル両方を活用することで、チームはプロジェクトの進捗状況を把握しながら、より広い視野でプロジェクトを俯瞰することができる。

02. 「立ちながらミーティング」がスピードを加速させる
立ちながらミーティングでは、積極的でスピード感があり、次につなげる会議の進め方が可能になる。また、このミーティングスペースを主要なワークエリアから距離を離すことで外部からの邪魔による中断も防げる。

03. 目標に向かって直ちに集中できる
チームメンバーはプロジェクトの目標に向かって、その要件を全て実行していかなければならない。そのためには、チームが進捗状況や知識を持続的に共有・構築しながら、深く集中できる「場」が必要となる。

04. ペアワークとクロストレーニングが遅延防止につながる
2人で肩を並べて作業するペアワークのためのスペースは、チーム内での知識の集積に貢献していく。クロストレーニングとは、メンバーが病欠や休暇中の際にも進捗が遅延しないようにするものだ。

05. 顧客との連携がプロセスを前進させる
ラグビーの試合から着想を得た「スクラム」とは、アジャイル開発手法の一つで、チームが目標を共有しあいながら、開発サイクルを増やし、頻繁に顧客にテストし、フィードバックをもらうなどして、生産性を向上させ、質の高いプロダクトを生み出すプロセスの枠組みのことを指す。「スクラム」は組織横断的チームで行われ、下記の3つの特徴的役割を持つ。

06. チームメンバーが再充電できる「トランジションスペース」
仕事の合間に利用できる「トランジションスペース」とは、コンピュータのプログラミングなどのように深い集中ワークを要する合間にエネルギーを再充電し、元気を回復できるエリアである。それはカフェのようなソーシャルなスペースであったり、休憩スペースや庭園のような自然がある静寂な場所かもしれない。

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「アジャイル」の定義

「アジャイル」について話す前に、まずは自分と自分の会社にとってそれがどういう意味なのかを定義することだ。 「アジャイルを成功させる第一歩は、その定義に関しての企業の考え方や目標を明確にすることです。もちろん、一般的な定義を理解することはアジャイルへの道を成功裡に実践するには不可欠なものです。」とSteelcase Applied Research ConsultingのTracy Brower博士は述べている。

  1. アジャイルソフトウェア開発は、アジャイルソフトウェア宣言によって定義され、「スクラム」や「スプリント」といった特有な枠組みを使用している。
  2. IT関連以外のチームは、「スクラム」や「スプリント」などをアジャイル的働き方の信条として試し、実践している。
  3. アジャイル的働き方戦略としては、モバイルワーク、テレワーク、デスクシェアなどがある。
  4. 「アジャイル」な職場とは、柔軟性があり、変化するビジネスニーズにも俊敏に対応できる環境のことである。理想的な「アジャイル」な職場では、物理的なスペースをコントロールできる裁量権が各チームに与えられている。
  5. 「アジャイル」な企業カルチャーの原則は、柔軟性、適応力、スピードである。そして、上記1-4の項目を満たす必要がある。

StSteelcaseでは、この「アジャイル・ラーニング」を360誌の印刷版、オンライン版の両方で発信し続けます。

アジャイル組織に向けての取り組みにご興味がある方は、是非ARCチームの最新インサイトであるアジャイルチームが知るべき10項目もご覧ください。また、アジャイルの提唱者であるJeff Sutherland博士が何故メールを禁止するかなどを語っている360ポッドキャストの視聴も可能です。steelcase.com/research. アジャイルワークを採用しようと考えているなら、ームにつなぐことも可能です。.


用語集

スクラム
ラグビーの試合から着想を得た「スクラム」とは、アジャイル開発手法の一つで、チームが目標を共有しあいながら、開発サイクルを増やし、頻繁に顧客にテストし、フィードバックをもらうなどして、生産性を向上させ、質の高いプロダクトを生み出すプロセスの枠組みのことを指す。「スクラム」は組織横断的チームで行われ、下記の3つの特徴的役割を持つ。

「スクラムマスター」とは、チームが「スクラム」の枠組みに沿って仕事を遂行し、直面する障壁を排除できるように誘導する人である。

「プロダクトオーナー」とは、積極的にチームに関わり、チームが達成するビジョンと目標を掲げ、製品の定義、優先順位付け、意思決定を行えるようチームを率いていく人である。

「スクラムチーム」とは、実際に仕事をするグループを指し、自分の仕事をどのように達成し、各スプリントの期間中にどのくらい達成できるかを決定する権限を持つ。

スプリント
「スプリント」とは開発の計画、実行の時間枠にあたるもので、その期間中、チームはプロジェクトでのやることリストを列挙し、その中に作業日数(例えば、1週間など)やスプリントを割り当てていく。チームは自らの説明責任を負い、プロジェクト終了後には、進捗状況は視覚的に追跡できる。

「スプリント・レビュー」
各「スプリント」の最後には、顧客を巻き込み、顧客の前で話したり、製品プレゼンを行ったりすることで、チームでより迅速に学習し、顧客からのフィードバックも得る。

立ちながらミーティング
毎日、立ちながらミーティングをすることで、チームは定期的に集い、活動を修正、アップデートすることになる。そして、全員が一緒に前進しようという意識を共有していく。

スピーディーさ
「スクラム」において、スピーディであるということは、各スプリントでどれだけやることリストを完了させたかということである。

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