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サーキュラー・エコノミー:新たな地平を開く「循環型経済」

私たちが目指す未来は、予想よりずっと早く到来するかもしれない。「循環型」が、ビジネスモデルの拡大と変革を起こすきっかけとなる。

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Angela Nahikian / Steelcase グローバルサステナビリティ ディレクター

産業革命以来、人間は一方向型経済モデルを築き上げてきた。そのベースにあるのは無限に顧客が存在し、新たなモノを際限なく所有するという考え方である。その経済成長を支える無尽蔵の資源があるというのが前提だ。しかし、現実にはどうだろう。そう単純な話でもないし、この考え方はもはや正しくはない。

従来の「つくる、つかう、すてる」という一方向型経済は廃れつつある。業界の成長率は低下し、資材供給は制限され、市場は大きく変動しつつある。企業や消費者は、所有と廃棄ではなく、利便性やカスタマイズ、そして、性能を選ぶようになっている。

増加傾向にある起業家精神溢れるスタートアップ企業は、大企業やグローバル企業と同様、サーキュラー・エコノミー(CE)モデルで事業の成長や革新的な価値創造を目指している。

もし、企業が追い求めてやまない事業成長と社会的、環境的利益の両方が実現できるとしたらどうだろうか?

エレン・マッカーサー財団とそのパートナー企業であるマッキンゼー・アンド・カンパニーが実施した初期の試算では、 サーキュラー・エコノミー モデルを採用すると、2030年までに欧州に1.8兆ユーロの純経済的利益をもたらすこと、つまり現行の一方向型モデルによる利益の倍となることが示された。同様に多くの企業や経済界は、サーキュラー・エコノミーモデルによって2倍から6倍の潜在的な増収益があると予測した。

しかし、実際のところ、サーキュラー・エコノミー(循環型経済)とは何なのだろうか? サーキュラー・エコノミー(CE)とは、デザインによって復元と再生が可能、つまり、 経済成長 を資源消費と切り離すための方法だと説明されている。CEのビジネスモデルの多くが、製品がサービスを最適化するために設計されるような製品/サービスのハイブリッド化と表現されている。例えば、輸送サービス対自動車、照明提供サービス対照明設備という具合だ。

この新しいビジネスモデルでは製品の役割は大きく異なる。ゴミとして廃棄されないように設計段階から製品を再度分解、組み立て、部品を収集できるように設計するということだ。製品は、CEモデルのエンジンとなって企業価値や利益、様々な社会的メリットを生む機会を創出する。

これだけ多くの推進力がありながら、現況は何故一向に改善されないのだろうか?

持続可能なCEの原則を継続的かつ革新的な方法で成果を生み出し続ける量産モデルへと昇華させるのは決して容易なことではない。それは複雑なシステム設計においても多くの課題があり反復での学び直しや新たなスキルの獲得が必要とされる。

105年にも及ぶ歴史を持つSteelcaseは、表面的にはオフィス家具のデザインと製造、職場環境、教育やヘルスケア環境のデザインを事業とする企業だと考えられがちだ。しかし、その事業の本質は「人」に関わるということだ。同社の目標は、顧客との協働や社内外での調査研究を通して人間に秘められた能力を最大限に引き出すことにある。

振り返れば、同社は20年以上もの間、 持続可能なCEモデルを目指す道のりを歩んできた。創業当初は、製造の最適化や循環型製品というイノベーションを目指していた。そして、現在、「循環型」を、ビジネスモデルの拡大と変革を起こすチャンスだと捉え、この10年間はその模索と試作づくりで試行錯誤を繰り返してきた。それが現在の同社のCEモデルへとつながっている。

  • Steelcaseイベント体験:事業の一環として短期間での刺激的なイベントまたはワークスペースを必要とする企業とパートナーを組む。
  • エコ・サービスと製品使用後プログラムのフェーズ2:顧客サイドの活用されていない家具資産を転換する等の支援をする。
  • スマート+コネクトスペース :職場環境にテクノロジーを組み込むことで顧客がスペースの効率的な有効活用方法を理解し、変化に対して意義ある意思決定ができるようにする。

上記の様にCEモデルの実践を積みながらも学びが尽きることはない。時に複雑さを伴うがそのワクワクさせる新たな発見が日々の学びへと導いている。

以下は今までに当社が培った知見になる。 全ての内容があらゆる業界や状況に当てはまるとは限らないがCEモデルを構築する際の貴重なヒントになるだろう。

長期的なコミットメントであることを認識すること。 CE関連での機会は企業に変革を促すことになる。他のビジネスチャンスと同様、CEモデルを成功させるにはそれに適した知識とスキルの習得、システム構築へ向けての謙虚さと粘り強い取り組みが必要になる。その完全なる実現には10年以上かかることもある。特にある程度の規模の場合には長期的視点での戦略立案や長期的なコミットメントが不可欠だ。

起業家精神をもって取り組む。 CEビジネスモデルへの取り組みはベンチャー事業のようなものでそこには起業家精神が求められる。内部投資家を探す中でCEモデル推進の活動が企業のイノベーション構造や意思決定プロセスとうまく噛み合わないと感じることもあるだろう。その場合には企業内の改革推進グループと顕密な関係を築くことだ。たとえ進むべき道が明確に見えなくても一起業家として、そのアイデアを前進させていかなければならない。リスクを恐れてはならない。粘り強くテストや試行を繰り返すこと。そして、結果を周囲と共有し、問いかけをなるべく多くすることを心がけよう。

デザイン思考を重視する。 CEに向けてのデザインは、一生で出会う中でもおそらく最大の課題かもしれない。CEと製品の構築を成功させるには、システム上でのデザイン思考が鍵になる。自分の中のデザイン原則と前提をまずは疑ってみること。そうすると見えない未来の潜在的な消費者ニーズや現状打破への道を見出す機会に出会うかもしれない。

今あるものから宝を見つける。 新しいビジネスモデルを構築するには、一から全てを作り直さなくてはならないと考えていないだろうか。新たなスキルや強みは求められるだろうがすでに持っているものを組み直すだけで大きな成果を上げることも出来る。CEの観点から言うと、既存ビジネスや強みを整理することで少ない投資と人材のみで規模は小さいが潜在的な可能性を発見できたりする。

行程表を作成する。 既存ビジネスの硬直化が新発想を生む弊害になるとよく言われる。行程表は社内だけに限らず、循環に向けて方向転換できる計画を立てることができる。有能な外部コンサルタントと連携して、計画策定のプロセスを進めるのも有効だ。彼らは、多くのステークホルダーと関わり、意図を明確にし、能力のギャップを特定しながら計画を共創できるようにサポートするだろう。行程表が完成したら、進行中の既存の取り組みとの連携を探ってみよう。計画を前進させるようであれば工程の変更も前向きに検討しよう。この場合、「アジリティ」が強い味方になる。

イノベーターの視点を取り入れる。 他の新しいベンチャーと同様、他者にヘルプを求めるのではなく、投資家を探すことが重要になる。量産試作を行い、早い段階で成功事例を提示する道を探ろう。CE戦略がいかに利益を生むかが分かれば、個人投資家も増えてくるはずだ。外部に酷評をする人や志をともにする仲間を探し、彼らから積極的に学ぼう。Steelcaseにとって、エレン・マッカーサー財団はベスト・プラクティスを共有できるメンバーから構成される最上の団体で、変化を促す人材や新たなパートナーシップにつながる機会を提供している。

テクノロジー進展が社会を一変させた。 今日の分析機能の向上や膨大な情報へのアクセスによって、CEは実現可能なビジネスモデルになった。新たに登場したこれらの潜在力を通して得た知見によって、そのビジネスモデルの優位性はさらに広まり意味ある価値を高めることになるだろう。では、テクノロジーは、御社の事業をいかに成長させ、イノベーションへと向かわせるのだろうか?

その中でもおそらく最も重要と思われる項目は。。

  • – 文化を考慮する。 自社の企業文化は何に価値を置き、新たなアイデアにどう反応し、どう育てるかを理解する。その企業文化に早い段階から何度も熟考することが成功率を向上させる。
  • – 学ぶための脱学習(Unlearn)。 脱学習によって学ぶ余地をつくろう。機会を捉えるにはどんな思い込みや障壁が邪魔になっているかをきちんと把握しよう。
  • – 共感に価値を置く。 質問をし、その答えに注意深く耳を傾けることで理解はより深くなる。そうすることで信頼感はより強固になり、達成したい変化への他者の理解も強くなる。共感認識に時間をかけるとコンセプトはより明確になり、人を動かし、最終的により良い成果につながる。

新たな地平を開く

大企業に代表される経済界は、まだ遠く、おぼろげではっきりしないサーキュラー・エコノミーを前進させている。実際のところ、私たちは壮大な実験の真っ最中にあると言ってもいい。企業の創業年数や規模の大小に関わらず、あらゆる企業が従来の「つくる、つかう、すてる」モデルとは対照的な新たなビジネスモデルの価値を顧客に向けて構築、発信しつつある。

これらの企業は、バリューチェーンである価値連鎖を刷新し、製品デザインを見直し、設計プロセスを一新している。テクノロジーの進展によって後押しされたそれらへの投資によって自社事業はもちろん、社会との関係性を大きく変えることになる。それが今、起こりつつあるのだ。

サーキュラー・エコノミーは、御社のビジネスをどう再考し、成長と社会的利益に向けてどのように世界を動かす力となるだろうか?


Angela NahikianAngela Nahikian氏は、Steelcaseのグローバル・サステナビリティ部門のディレクター。持続可能なビジネス戦略と成果を生む行動特性である企業のコンピテンシー開発業務を統括する。

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