ハイブリッドワーク

ハイブリッドオフィスにおける 認識のズレ5選

従業員の幸福度を上げるのは給与やテレワークだけでは不十分。

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ハイブリッドオフィスにおける 認識のズレ5選

従業員の幸福度を上げるのは給与やテレワークだけでは不十分。

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「オフィスへの回帰」、「ハイブリッドワーク」、「大量退職時代」という言葉が会議室や会食の席で頻繁に飛び交っています。コロナ禍を契機に企業を取り巻く環境が大きく変化する中、企業を直面する複雑な問題や課題をどう捉え、どう対応するかが今後の企業の盛衰を決めるといっても過言ではありません。

当社は、1世紀以上にわたって働く「人」と働く「場」をあらゆる側面から予測、研究し続けてきました。しかし、オフィスワーカーを対象とした最新の世界的意識実態調査の予想外な結果には驚きを隠せません。例えば、働くために設計されたオフィスよりも食事をするためのダイニングテーブルやソファで長時間にわたって仕事をしていてもテレワークや在宅勤務を望む人の数は2倍に増えているのです。

また、テレワークの長期化は孤立化・孤独感などメンタルな問題も顕在化させました。 米アトランティック誌 ではこれを「信頼の崩壊」と警鐘を鳴らしています。データは「人間は離れている時間が長いほど、互いを信頼しなくなる。」ことを示唆し、これは企業組織においても当てはまります。「信頼」こそがイノベーションや生産性の向上、そして、人材流出の防止につながります。結束力を高めることの重要性も多くの企業の経営層は認識しています。当社の最新調査では、87%の従業員はオフィスでの同僚との時間を大事にしていることが分かっています。

これに加えて、人材確保が年々困難を極める中で、企業は優秀な人材流出を防ぐための対策も講じなければなりません。 米フォーブス誌 の報告書では、企業はその将来性や存続のために優秀な人材を引きつけ、戦力として定着させ、流出を防ぐためのあらゆる対策を講じていると報告しています。福利厚生や給与・ボーナスなどの待遇改善はもちろんのこと、テレワークなどの多様で柔軟な働き方の導入もそのひとつです。しかし、Steelcaseの最新調査では、これらの対策だけでは不十分なことが浮き彫りになりました。

2021年秋、Steelcase ワークスペース・フューチャーズグループは、世界11か国、5,000人のオフィスワーカーを対象に意識実態調査を実施しました。そのデータ分析から、企業側が考える実際のオフィスと従業員が真に望んでいるオフィスの間には5つの認識のズレがあることが分かりました。

 

誤った認識#1:人材確保・定着を「取引」として扱う

米ハーバードビジネスレビュー誌は、「企業は、従業員と経営層、そして、従業員同士の信頼関係を再構築することが不可欠である。リスクを冒さないマインドが社内の軋轢(あつれき)や疲弊を生み、生産性を低下させ、イノベーションを停滞させるのだ。」と論評しています。多くが企業組織の一員として必要とされる一体感を感じながら、仕事と生活のバランスを図りたいと考えています。

最近のマッキンゼー調査では、驚くことにテレワークのような柔軟性や給与等は企業が考えているほど従業員は重要視していないことも報告されています。企業サイドが人材確保や定着のために給与やテレワークの導入に偏りすぎると、雇用主と従業員の間にはある種の取引関係が成立してしまいます。人材確保や定着は給与だけで解決できる問題ではありません。例えば、働く環境や組織文化といったことには無関心です。

調査では、給与、通勤、勤続年数、ハイブリッドワーク導入などの複数の項目を比較しています:

その結果として、従業員エンゲージメントや生産性、組織とのつながりを高める最も重要な要因は「オフィスに対する愛着」があるかどうかということでした。

また、組織への定着となると、「勤続年数」が唯一「オフィスに対する愛着がある」よりも上位にランクインしました。

 

「オフィスに対する愛着」がある人は:

33%

仕事により意欲的である

30%

組織文化とより深くつながる

9%

生産性がより高い

20%

離職率がより低い

結論:「オフィスに対する愛着」があるかどうかは極めて重要な要素であることを多くの企業は認識していません。「オフィスに対する愛着」がある人は、仕事により意欲的で成果を上げ、離職する可能性が低い傾向があります。

 

誤った認識#2:「場」ではなく「方針」を変更する

ハイブリッドワークを導入し、自席がなく自由に働く場所を選択できるフリーアドレスへと移行すると多くが遊牧民のように移動しながら働くようになります。不動産コストの削減にはなってもコロナ禍の在宅勤務で多くの人が感じた孤立感やメンタル不調は増していきます。会社に対する従業員の期待が大きく変化していくハイブリッドワーク時代には、もはや従来の画一的なオフィスではその欲求に応えることは不可能です。

在宅勤務の方が好きな理由

自宅

70%

自宅に専用の仕事スペースを持つ

オフィス

51%

オープンレイアウトで働いている

当然のことながら、オフィス勤務の場合にはオープンなスペースに着席するため、自宅の生活音や家族の声以上に周りの同僚の話し声等で気が散る機会が意外と多いのです。また、既存のオフィスレイアウトでは上司(37%)よりも仕事をバリバリこなさなければならない社員(57%)の方がオープンな環境で仕事をしています。集中度やプライバシーという観点からむしろ自宅のダイニングテーブルを好む人が多くても決して不思議ではありません

しかしながら、現在、多くの企業では、固定席である自席の割合を減らす方向にあります。

全企業

-10%

大企業*

-15%

*従業員数10,000人以上

結論:有能な人材定着率を高め、より活気溢れる風土を醸成するには、変化する従業員の価値観や働き方に対応して働く「場」を進化させることが求められています。例えば、「チームのネイバーフッド(近隣)」のような「目的地」を設置すること。そのことでチームメンバーは所属意識を感じながら、同僚とつながり、リラックスしながら仕事に集中できる自分の居場所を確保することができます。また、フリーアドレス席も簡単にオンライン予約できるようになると、空いている席を探す無駄な時間を無くしながら即座に仕事に向かうことができます。さらには、従業員をオフィスに引きつける要素を把握することで、企業はハイブリッドワーク方針を不動産戦略と連動させることもできます。これからのオフィスは従来の自席や階層に基づくスペース配分ではなく、利用する人の頻度に基づいて設計されるべきです。

 

誤った認識#3:従業員が望んでいるのはコントロール + 帰属意識

ハイブリッドワークという制度だけに意識が向き、従業員が本当に望む豊富な選択肢やコントロール、帰属意識、プライバシーの確保といった他の重要要素は軽視されがちです。驚くことにデータからは多くの人がオフィスでの自分の「居場所」を強く望んでいるのが分かります。

多くの人が在宅勤務よりもオフィスでの自席を望んでいます。

調査した11か国のうち、オーストラリア、カナダ、イギリスはオフィスでの自席よりも在宅勤務、つまり柔軟性をより望んでいます。在宅勤務を望む人とオフィスでの自席を望む人が対立し、そこには働き方を自分でコントロールしたいという強い意志が見られます。

結論:多くの企業は、仕事における自律性とコントロールを従業員に与えるという意図を持って、ハイブリッドワーク導入へと舵を切っています。しかし、その方針だけでは従業員が求めているコントロールや帰属意識の醸成を実現できることはできません。重要なのはオフィスでの「ホーム」と呼ばれる居場所です。

 

誤った認識#4:集中ワークを忘れがち

ハイブリッドワークが定着することは、一対一または複数の人とのビデオ通話やビデオ会議が日常化するということです。実際、「ハイブリッドコラボレーション」はコロナ禍前よりも重要なオフィス機能の上位2つと関連していることがデータから読み取れます。しかし、仕事の様子を観察すると仕事はコラボレーションだけではなく、ひとりでの集中ワークと一対となって遂行されていくのが分かります。つまり、コラボレーションスペース同様、プライベートスペースがないと仕事は成り立たないのです。

今、従業員が価値を置くオフィス機能

64% – ハイブリッドコラボレーションスペース

62% – 対面とオンライン両会議のためのひとりワークスペース

61% – プライバシー

58% – 個室または部分的に囲われたワークスペース

57% – 予約可能なワークスペース

52% – 柔軟性のある可動式家具

52% – 同僚とつながるためのカジュアルスペース

49% – 多くのコラボレーションスペース

47% – 持続可能を考慮したオフィス家具

結論:オフィスでの「占有する」という考え方を再定義する、つまり、個室を与えられているかどうかに関係なく、プライベートスペースという選択肢を従業員に与えることを検討する時期に来ています。従業員が望むオフィスでのプライベートスペースとは、個室、視覚的に仕切られたスペースや予約可能なスペースなどその種類も多彩です。

 

誤った認識#5:経営層の思い込み

調査で分かることは、経営層の大多数は自宅に仕事スペースを持っていることが多く、オフィスでも個室等のプライベートスペースを持っています。経営層はどちらかというとその仕事や役割から同じスペースというよりは異なるタイプのいくつかのスペースを必要とする場合が多々あります。従業員のリアルな実態をもっと把握し、理解しようという企業サイドの意識改革が求められています。

オフィスで働くのが好きなのはどっち?

経営層がより高いプライバシーが保てるオフィスを好むのは当然のことです。 経営層は従業員(51%)よりも集中ワークに費やす時間が少ない(31%)にも関わらず、個室を持つ割合は極めて高くなっています。

個室を持っている割合が高いのはどっち ?

結論:企業に期待する従業員の声がかつてないほど高まる中、企業は従業員のニーズを把握し、早急に対応する必要があります。コロナ禍で多くの人が仕事に対する価値観が変化したと答えています。長期間に及んだテレワークによって生じた企業側との認識のズレを認め、働く「場」そのものを変革するなど企業として見逃すことができない課題を検討しましょう。


日本を含む世界11か国、約5,000人のオフィスワーカーを対象にした最新の意識実態調査をデータ分析し、報告書としてまとめました。ご希望の方は下記フォームに必要項目をご入力の上、送信ください。追って担当者よりメールにて送付させていただきます。

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