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「プライバシー」を 見直し、再定義する

物理的セッティングにおける「プライバシー」

Steelcaseの調査によると、人はスペースが果たして自分が望むものかどうかを判断する基準として、下記の4つの項目でスペースを直感的に評価しています:

  • 音響プライバシー ノイズによって邪魔されない。また他の人の邪魔にならない程度に会話ができる
  • 視覚プライバシー 他の人に見られたり、視覚的刺激から逃れられる
  • 所有プライバシー スペースを自分のものとして所有し、管理する(嗅覚もその一部)
  • 情報プライバシー アナログ/デジタルコンテンツを保持できる。また、極秘会話も可能である

Steelcaseの研究員によると、ほとんどの人が「プライバシー」というと他者によって煩わされるものであると考えていますが、実はそれは自分でコントロールできるものなのです。「私たちがプライバシーについて研究し始めたのは80年代初頭で、その当時は主には空間を定義するものでした。90年代には、物理的セッティングを4つのエリア、視覚、音響、所有、情報を統合してトータルで考えるようになりました。つまり、任意のセッティングのプライバシーは見るもの、聞くもの、空間の区切り方、情報の種類によって決定されるというものでした。

「しかし、現在、私たちはリアル、バーチャルの両方で生活しています。テクノロジーは人々をより近づけたと同時に、個人のプライバシーを脅かし、人間の心配事や感性を悪化させたりもします。私たちはプライバシーに関する人間の欲求や今日の働き方にとって欠かせないプライバシーとは一体どういうものかをもっと理解したいと考えたのです。それにはより深い観察と今までとは異なる視点でものを見ることが要求されました。」と語るのはSteelcase WorkSpace Futuresチームの研究メンバーである、Melanie Redman氏です。最近、米国、ヨーロッパ、アジアで様々な調査を実施し、多くの人をインタビュー、観察した人間です。

その結果、Steelcaseの研究員たちはまず、その基本となる心理的背景を定義し、個人のプライバシーを2つの領域に分類しました。まずは他人が自分について知っている「情報のコントロール」、そして気が散ることから自分を管理する「刺激のコントロール」というものでした。そして、彼らはこれらの領域がグローバルに共通するパターンであることも発見しました。今日のワーカーは頻繁に自分を表現したり、隠したりしながら、また、刺激を求めたり、排除したりしながら仕事をしています。

「私たちが最も驚いたことはプライバシーは世界共通の欲求であるということでした。例えば、中国のような集団主義的文化の国は個人主義の強い米国と比べてプライバシーへの欲求度が少ないと思っていました。しかし、実際は世界中のどの国の人々もプライバシーを同様に求めていることが明らかになりました。文化によってその必要度やその理由も異なり、そこの文化が許す範囲内で求められています。しかし、プライバシーへの欲求は仕事場であろうとどこであろうと、人と一緒にいたいという欲求と同じぐらいに、人間にとっては重要な要素であることが分かっています。」とSteelcaseの中国市場を担当した研究員、Wenli Wang氏は述べています。

私は米国南部で育ち、現在、上海に住んでいるものとして、国によって人はいかに異なり、また似ているのかを目の当たりにしています。調査を開始する以前は中国は集団主義国家であることから、プライバシーを重んじない文化と想定していました。しかし、調査結果はまるで反対のことを示唆していました。プライバシーへの欲求は万国共通なのです。但し、プライバシーに対する考え方が米国とは違うということでした。

Wenli Wan

欧米では主に気が散ることから自分を保護するためにプライバシーを求めるのに対して、中国では情報や自分自身を周囲から守るためということが主な動機になります。「中国でのプライバシーという定義は欧米のそれとは同じではないのです。欧米では刺激に対するコントロール以上のものであることが多いですが、中国ではむしろ、それは情報に対するコントロールであることが多く、周りから自分が持つ情報を守り、人の目を避けることを意味します。こういう背景がある中で、ワークプレイスを創造するとなるとそれなりに課題も多いのです。スペースの人口密度も高く、私的な電話や個人的な会話ができる場所も決して多くはありません。」とWang氏は言います。

1960年代初頭以降、人々が文化の延長としてスペースをどうやって使用していたかの徹底した研究がなされました。米国の文化人類学者のEdward T. Hall氏は人間のプロクセミクスという「知覚文化距離」という意味の造語を発表しました。それは人間の空間的距離とコミュニケーションや行動、相互作用に及ぼす影響に関する研究で非言語コミュニケーションという補助的なカテゴリーを確立しました。Hall氏は「自己」と「他者」の間の距離に基づく空間ゾーンを分類しました:密接距離、個体距離、社会距離、公衆距離の4つで各ゾーンが異なる状況を持ち、個体距離は人間が他人と仕事をする際に快適と感じる距離です。具体的距離は様々であり、各国の文化的特質の違いがこのプロクセミクスで説明が出来るのではないかと説明しています。例えば、米国では密接な距離は身体から約46cmで、個体距離は約1.2mで、社会距離は約3.7m、そして公衆距離はそれ以上になります。

今日のワーク環境でのストレスの一部はこれらの個体距離であるパーソナルなスペースが侵害されていることからくるにちがいないのです。多くの人が日常の中で同僚とかなり密接な距離で働く環境の中に身を置いています。この現象はリアルな空間の中だけでなく、ほぼ腕の長さと等しい距離で会話をする携帯デバイスでの動画チャットにも見られます。これと対照的に、遠隔に分散した同僚と共有テーブルをはさんでのビデオ会議のレイアウトはそれよりもより自然で快適と言えます。

「プライバシーの問題とその達成方法には文化的違いがありますが、Steelcaseが多くのグローバルカンパニーと仕事をする中で明らかになったことは国ベースの規範は企業の規約に勝るということです。もし、ある企業がコラボレーションに重きをおき、各地域の文化を全く考慮しないでオープンなコラボレーション環境を創出した場合、地域の社員がその新しいスペースを好きになれないということは起こりうるのです。」とRedman氏は述べています。

どんな文化でも究極的にはプライバシーは「個」に通じています。つまり、個々人が求めるプライバシーというものはその人の人格、その時の気分、作業中の仕事によるということです。「ある日のクリエイティブ作業に適したある特定の環境が次の日には気が散る環境でしかない場合もあります。」とRedman氏は加えています。また、Steelcaseの他の調査でもこう強調しています。「よく関連づけられる精神的プライバシーと身体的プライバシーは必ずしも類義語ではないのです。人はよく自分のスペースということを言いますが、それは他者の邪魔なしに自由で安心していられるスペースということです。」

すべての人に常に適したたった1つのソリューションがあるわけではありません。プライバシーの問題は多くの異なるニーズや行動と複雑にからんでいます。

Melanie Redman

プライバシー:時を超越した問題

仕事場でのプライバシーに関する問題は決して最近浮上したものではありません。実際、オフィスのデザインコンセプトはここ何十年もの間揺れ動いていました。オープンなシステム家具が開発されたのは60年代後半で、急成長する労働力を想定し、ぎっしりデスクが詰まった大部屋で働いていた時よりもよりプライバシーを提供する方法として考えられたものです。もちろん、そのことは不動産も有効活用し、コスト削減にも貢献しました。そして、このアプローチ方法はその後も進化しつづけました。その当時、米国の多くの企業が採用したのがキュービクルと呼ばれるアプローチで、ヒエラルキー型組織をフラットにし、機能重視の個人を重視し、コラボレーションを向上し、チーム主導型組織をつくることを目的としていました。

1978年にワークプレイスでの進化するニーズと期待をより深く理解するために、SteelcaseはLouis Harris and Associatesという調査会社に委託して、オフィスワーカー、設計デザイナーなどを対象に研究調査を実施しました。結果としてはプライバシーはオフィスワーカーにとっても一般的にも非常に重要な要素でそれがオフィス環境の満足度に関係していることが分かりました。プライバシーの問題はその後も引き続き課題として常に上げられ、1991年の別の研究ではその状態に少し変化が見え始めたのです。オフィスワーカーは時間の半分以上を1人で作業をしているという状況の中で、企業はよりスピーディにより多くの成果を導きだすことが求められ、その方法としてコラボレーションの重要性が浮上し、普及していくことになります。1991年には多くのワーカーが集い、インフォーマルに対話をする場所がある(1989年には51% vs 46%)一方、使用できる特定のプロジェクトエリアは57%でした。

90年代にはコラボレーションがますます定着し、プライバシー空間がどんどん削減されるようになりました。2000年にSteelcaseが実施したもう一つの調査ではほぼ半分(48.9%)のワーカーが同僚ともっとつながりたいと感じており、プライバシーが少なすぎると感じたワーカーはたったの27%でした。更に、10人に1人(9.6%)はオフィス環境にプライバシー空間が多すぎるとも回答していました。

90年代以降、ITやクリエイティブ業界を中心にコラボレーションが生み出す価値が広く受け入れられていくようになります。特にオランダのような平等主義が根強い国では、企業の経営陣は個室を自ら捨て、より容易な情報共有とスピーディな意思決定を推進するようになりました。

国際ファシリティマネジメント協会によると、米国では現在、オフィススペースの約70%はオープンレイアウトを採用しています。デスクはよりオープンに、その面積はより小さくなってきました。CoreNetグローバルによると、米国では1人あたりの専有面積は1970年代に平均500平方フィートだったものが、2010年には225平方フィート、2012年には176平方フィートに減少してきています。そして、2017年には100を割ると予想しています。また、パネル高も今まで標準とされていた1.52-1.83mから1.22m以下にまで低くなっています。そして、今日の多くのオフィスではパネルをなくして、自席ではなく、オープンな「ブルペン」や「ホットデスキング」と呼ばれる共有用のベンチシステムが広く使用されています。

テクノロジーは仕事のモバイル化を加速させる一方、まだ世界中の大多数のワーカーはオフィスで働いていますが、その個人用スペースは狭くなるばかりで、プライバシーのあるエリアはほとんどないといっても過言ではありません。そして、仕事は今日の経済を支配する創造性とイノベーションを育成するために、ますますその複雑さを増し、スピードが要求されるようになっています。


ワークプレイスを変化させたテクノロジー

1975 IBMのパーソナルコンピュータ、IBM5100
1980年代 世界初のノートブック
1983 アナログベースの携帯電話、モトローラDynaTAC 8000X
1990年代 インターネット
1996 フリップ式携帯電話、モトローラStarTAC
2003 スマートフォン、ブラックベリー、パーム
2007 アップルのIphone
2010 アップルのiPad

 

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