スタートアップ

「起業文化」に火をつける

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本物志向、個性、俊敏性、情熱

スタートアップ企業はイノベーションに力を入れ、限界を打破し、市場での影響力を確実に強めつつある。そして、その情熱と透明性のある特殊な「起業文化」を築き上げている。彼らと同じような成長エネルギーに満ちた雰囲気を求める成熟しきった古い体質の企業にとってはそれは憧れの対象ですらある。スタートアップ企業は規模が小さく、俊敏性があり、目指した経営を実行しやすい。それはユニークで浸透しやすい「起業文化」がその土壌にあるからだ。

しかし、大企業が自身の環境を元気と情熱に満ちた組織にしたい場合はどうすればいいのだろうか? 大企業の「企業内起業家」やイノベーションチームのリーダー、空間クリエーターはその大きな組織の中でどうすればスタートアップ企業にあるような「起業文化」を育てることができるのだろうか?

企業のサイズにかかわらず、「起業文化」を起こし、企業として再生することは果たして可能なのだろうか?

過去1年にも渡り、Steelcaseのブランド企業のひとつであるturnstoneはスタートアップ企業や大企業の企業内起業家たちにヒアリングを実施した。そして、企業文化やそれが実際のワークプレイスとどう有機的にリンクしているかに関する調査と探求から、人々の行動に明らかな変化があることが判明した。

企業文化と物理的空間を統合することでビジネス成果を高めようとしているスタートアップ企業と、大組織の企業文化を生まれ変わらせようとする企業内起業家に関する研究結果をここにまとめてみた。


「非・大企業体質」文化を育成する

当社が称する「起業文化」を生むスペース、つまり、大企業体質にはないカジュアルな環境が多くの起業家ベンチャーから高く評価されている。それは個性を表現でき、社員が楽しみながら恊働し、個々に適したスペースで働ける空間を指し、その文化は「ボタンをかけない非大企業体質」と言い換えることもできる。柔軟性の高い本物志向のこの環境は、社員の労働意欲を掻き立て、働くことの意義や帰属意識を植えつけるものである。

ボルチモアのThe Verve Partnership社の創設者兼マネジングプリンシパルのKelly Ennis氏は「当社は、スペースを戦略ツールとして活用することが、企業文化を築き、社員の労働意欲を高め、最終的にはブランドの向上につながると信じています。」と語っている。同社はお客様であるユーザー主体のデザイン設計を旨とする建築設計事務所で、デザインとビジネス戦略を結びつける対話を主軸とした顧客サービスを特長としている。デザイナーでもあるEnnis氏は「起業文化」を達成するには意識的な改革が必要だと主張する。

「企業ブランドとはロゴや商標、グラフィックといった見た目だけで単純に表現されるものではありません。それは企業が持つ個性や存在価値を映し出すものであり、さらに重要な点は消費者一人ひとりが抱く感想やイメージによって築かれていくものなのです。」とEnnis氏は述べている。「企業文化と独自性で統一された企業イメージは互いに密接に絡み合い、そこに建築家やデザイナーが恊働することで、企業文化と企業イメージの両方がバランスよく表現された、本物志向の「場」を実現できるのです。」

シカゴのRxBar社の共同所有者Sam McBride氏は、クライアントとの関係や会社の成長におけるスペースと企業文化、ブランドが共に果たす役割を痛感している。

「当社のプロテイン・バーには、6~8つの成分要素しかありませんが、すべて不純物のない最も上質な成分だけを含んでいます。私たちがオフィスの設計をする際に目指したものは、自社が市場に届けているものを反映したオフィス、つまり、清潔でモダン、そしてシンプルさでした。」とMcBride氏は説明する。「当社を訪れるお客様は包装紙の中にある品質とシンプルさが日々の仕事空間にまで一貫していることを目の当たりにし、本物を追求する企業としてのイメージが植えつけられるのです。」

turnstoneが500社以上の小規模企業の経営者を対象に実施した最近の調査では、回答者の80パーセントが活気に満ちた企業文化を育成する際の物理的空間の重要性を認識していると答えている。また90パーセントが魅力的な企業文化は就職先企業を選ぶ際に重要視されるポイントになるだけでなく、企業の繁栄にも深く貢献すると答えた。

「現状を打破しようとする人々に何かを訴えようとする際に考えなければならないのは、人は何か最先端な考え方を求めながらも組織としての一体感や秩序を望んでいるということです。それは必ずしも整然としたものである必要はないが、かといって混沌としたものであってもいけないのです。」

Tom Polucci 氏 HOK社のインテリアデザイン担当ディレクター

スタートアップ企業は創立当初はかっこいいオフィスの雰囲気からスタートしますが、それを長期にわたって維持することは極めて困難なことでもある。その境は規模として10名の社員を抱えた頃だろう。創立者が業務をスムーズに維持し続けるために、規律や方針、プロセスを確立し始めるようになると、一部の社員はかつては自由な雰囲気があったのに、事業の成長に伴ってそうしたものがいつのまにかなくなってきていることに気づき始める。

また、同様に、同じ状況に直面する世界をリードする大企業内の起業家の俊敏に対応することへのプレッシャーはさらに大きいといえる。通常、そうした大企業は環境が整備されていること、豊富な人材や資本力があること、長きにわたる経験を持っていることなど、スタートアップ企業と比べて大きな違いはあるが、現状に挑戦する意欲という面では企業内起業家もスタートアップ企業もさほど変わらない。

草の根運動や起業家精神を奨励することでコミュニティを強化しようとしている非営利団体のUPGlobal社の開発担当上級副理事長Enrique Godreau III氏は、起業家や大企業の革新的な考えの持ち主たちと長年に渡って交流してきた人物である。彼が言うには、成功している企業は市場でトップに躍りでた頃の経営を今でも追い続けており、自社の製品やサービスを最適化することを常に考えていると指摘する。これに対して、企業内起業家はその限界を打破しようと難しい質問を投げかけてばかりだと言う。


turnstoneは最近515社(社員数100人以下の企業)を対象に調査を実施した。

90 %

90パーセントが企業文化は自社の成功の土台であると認識している。

80 %

80パーセントは物理的環境が活気に満ちた企業文化を伸ばすための役割を果たしていると答えた。

32 %

Y世代の32パーセントがラウンジチェアに座りながらリラックスして仕事をすることを望んでいる。


「もののある姿を見て、それがあるべき正しい姿だと信じるのは容易いことです。企業内起業家は、成功するには過去にしてきたことを最適化するだけでなく、現状にも常に疑問を持たなければならないと考えます。これは決して反抗的な行為ではなく、それはディスラプティブ、つまり、従来の古い価値を破壊し、新しい価値を創造する行為であって、こうした起業文化の追求が本物の価値を創造し、常に革新的でありつづけることを可能にするのです。」とGodreau氏は主張する。

企業内起業家もまた、優秀な人材を引きつけて保持し、仕事に向かわせるという目標においてはスタートアップ企業と同じである。企業内起業家が、製品開発、人事、IT、マーケティング、営業、またはCスイート(CEO、CIO、CFOなどの業務執行責任を担う役職の総称) のどの人間であろうと、自分たちの物理的空間が理想とする企業文化を反映していないものであるなら、その企業に繁栄はない。


「起業文化」環境は姿勢に注目している

特にラウンジチェアなど、従来にない姿勢で仕事をできる環境は、他とは違うよりリラックスした企業文化を創り、社員は即座にそれを感じとるものだ。turnstoneの調査では、社員にどこでどう働くかの選択肢を与え、1日を自分で管理、調整できるようにすることが、「起業文化」の重要な要素であると結論づけている。さまざまな姿勢を奨励することは労働意欲の向上を目指すワークプレイスづくりには不可欠で、多様な姿勢をチョイスできる自由な雰囲気は「起業文化」の育成にも大きく貢献している。

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Fusionary社のチームのメンバーはいつでもCampfire Paper Table (キャンプファイヤー・ペーパー・テーブル) の周りに集い、瞬時にコラボレーションができる環境で仕事をしている。

turnstoneの調査では、18~34歳のプロフェッショナルのうちなんと32パーセントもがオットマン付きラウンジチェアやスツールなど、快適で仕事もはかどるカジュアルな家具を好むことが明らかになった。

「社員の働き方に自由度を与えることは優れた企業文化をつくる確実な方法です。それは年齢に関係なく、人を魅了するからです。期待した成果を達成させるには、仕事の質はきちんと維持しながら、社員に自由度を与えることが一番です。」

Ryan Walshパートナーシップマネジャー、 MassChallenge

シリコンバレーの中心に位置する非営利団体のStartx社のビジネス開発部長のBrian Hoffman氏は、この傾向が自身の会社にもあると指摘する。 「本当は上階のスペースを社員の働く場所として設計したのです。しかし、結局、社員が選んだのは自然にリラックスできるラウンジのスペースだったのです。」

今日のオフィスでは、仕事のペースが速くなっているため、立ったままの姿勢で働くことも多く、立位高のテーブルやデスクの使用頻度が増している。その方がちょっとした時間でもチームが瞬時に簡単に集まって考えを出し合うことができるからだ。デスクにきちんと座ってメールするよりも、動きを制限しない高さ調節可能なテーブルや立位式テーブルに本能的に惹かれるのは極めて自然である。.

ニューヨークに拠点を置く投資家で、講演家、ネットワーク戦略家でもあるJ.Kelly Hoey氏はこう主張する。「もし、社員から最高の成果を引き出したければ、ワークスタイルの変化に伴って仕事空間も進化させるのは当然です。企業は社員が1日の間にあらゆる場所、さまざまな時間帯で仕事をし、個人によって最も効果的に仕事ができるニーズも違うことをもっと認識すべきです。」


DIY精神を育成する

アメリカで注目されているキュレーション(無数の情報の中から情報やコンテンツを収集、整理し、新たな価値を付与して共有する)と多くの起業家や企業内起業家の「DIY (何でも自分でやる)」精神との間には密接な関係がある。起業家は自分が好きなものやインスピレーションを与えてくれるものの画像をソーシャルメディアで共有したり、創立者の情熱を反映させた最もエキサイティングなワークプレイスづくりを目指して、その可能性を徹底的に追求することが多い。

Campfireスリムテーブル、Skateテーブル、フットレストがコラボレーション容易なラウンジ環境を創出している。
Campfireスリムテーブル、Skateテーブル、フットレストがコラボレーション容易なラウンジ環境を創出している。

グローバルな設計デザインコンサルト会社であるGensler社のインテリアデザイナー、Dana Verbosh氏はあるクライアントの話を例に挙げた。ボルチモア在住のIT関連のある若い起業家は創立当初は地階で仕事をしていたが、その後ボルチモア近郊にある建物に移転した。そこは23フィートもの吹き抜け天井がある、建築的ディテールが美しい1900年代の劇場の建物の3階だった。

「このクライアントはスペースのデザインは企業文化をも動かすことをよく熟知していました。私たちは古いボルチモア住宅の廃材の回収を手伝い、それを活用して他にはない唯一無二の壁やディテールを創りました。デザイナーとしての私たちの仕事は、耐久性のある商業施設でありながら、視覚的に訴えるストーリーをつくることでした。」


どうやって始めるかの
ヒントとは

起業家、不動産関係者、企業の空間クリエーター、ファシリティマネジャー、起業家の支援を行うインキュベーター 、そして、従来の古い価値を破壊し、新しい価値を創造するディスラプティブ思想家と呼ばれる 人々にとって、これらのトレンドが意味するものとは何だろうか? どの企業の職場でも、この「起業文化」に火を点けたり、かつてはそこにあった文化を再び取り戻すことは果たして可能なのだろうか?

それに対する私たちの答えは「YES」です。ここではどうやって始めるかのヒントを紹介しよう。

ヒント #1: 企業文化を反映した「場」づくり

限界に挑み、最先端な仕上げでエネルギッシュで活気的、かつ温かみのある住まいのような雰囲気を醸し出すビジネス空間をつくろう。DIY精神を活かして、スペースに企業の個性を付加し、内部に隠れたアーティスティックな才能と情熱を生かした空間づくりをしよう。

「人間は生まれながらに自己表現意欲を持っています。それは企業のイメージやブランドを確立しようとする企業も同じです。個性を空間の中で表現し、数ある中から自分の価値観にあうものを陳列するのです。」

Tom Pollucci氏
HOK社のインテリアデザイン担当ディレクター

ヒント#2: ディスラプティブなものを擁護する

製品開発やシステム開発などに携わる社内起業家たちが、創造的でイノベーションを生み出せるような自由で制約のないスペースづくりをしよう。できれば、「起業文化」を始動できるようにどこでも仕事ができるようにしよう。従来のものを破壊し、新たな価値を創造できるようディスラプティブな面を擁護することが、より存在価値のある企業へと変わる原動力になる。

「社内起業家はよくフリップチャートや付箋、図面等を使って自分のアイデアを表現します。この種の相互交流をサポートするスペースやアイデアを具現化し、プレゼンできるスペースを設けましょう。イノベーターは自分のアイデアがどう具現化されるのかを説明しなければならないのだから。」

Enrique Godreau III
開発担当上級副理事長、UPGlobal社
草の根運動や起業家精神を奨励することでコミュニティの強化を目指す非営利団体

ヒント#3: 「本物であること」と「機敏さ」を容認する

エルゴノミクスチェアに加えて、ラウンジチェアや立位タイプの家具を組み入れよう。仕事に集中できる場所や姿勢を自由に選ぶ選択肢をチームに与え、会社として社員を信頼し、最大限にサポートしているという明確なメッセージをスペースを通して表現してみよう。社員が働くことが楽しくなるように、個人ワークをサポートしながら、コラボレーションも促すスペースを意図的にデザイン、設計することが重要です。

「カフェは最も人気のあるエリアです。ラウンジエリアがあり、まるでカジュアルなビストロのようです。アイデアを生み出したり、チームでの恊働作業にはこのようなカジュアルに集まれる場が威力を発揮します。」

Benjamin Dyett
共同創設者、Grind
Grindはシカゴとニューヨークを拠点とする「摩擦のない」ワーク体験を体現できるコ・ワーキング施設

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