リーダーシップ

世界中の企業のCEOたちの悩みのタネ

ドラッカー協会のCEOであるRichard Straub氏が従業員エン ゲージメントの構築について語る。

Richard Straub

CEOたちを悩ませているものがあるとすれば、それは社員のことだ。何故なら労働力の3分の1以上が会社に対して自発的に貢献しようという勤労意欲であるエンゲージメントが低いからである。やる気がなく、必要最低限のことをすることで満足をしている人がこれだけいればその落胆は大きい。

Steelcaseの 「世界のエンゲージメントと職場環境実態」の調査によると、世界のワーカーのうち37%は自発的勤労 意欲がなく、29%はどちらでもない中間層である。ではど うすれば、企業はこのエンゲージメントレベルを高めるこ とができるのだろうか?その答えは「コミュニティを構築す ることだ」と主張するのはIBMで30年以上にも渡る経営 ポジションを持つRichard Straub氏である。彼は現在、ピー ター・ドラッカー協会のヨーロッパ支部の支部長で、経営 学における第一線の思想的リーダーシップ会議であるグ ローバル・ピーター・ドラッカーフォーラムdruckerforum.orgを率いる人物である。

360: 世界中の多くの企業の従業員エンゲージメントが低い理由は何だと思いますか?

RS: 最大の理由のひとつは「共同体」としての共通意識がなくなっているということだと考えます。機能する共同体組織としての土台にあるのは明確な共通目的です。同じ目的を持つ組織の一員であるという強い意識があって初めて社員は自発的に会社に貢献しようという意欲が生まれます。しかし、これは簡単なようで実は難しいのです。

360: 組織としての「共同体」をどうやって強固なものにできるのですか?

RS: まず、確認しなければならないのは、組織の中で信頼関係が根づいているかどうかということです。果たして上司や経営層は部下から信頼されているか、信頼や期待に応える実行力を持っているかどうかということです。次に、重要なのは企業価値とは何かということです。価値とは単に人を気持ちよくさせるものではなく、さまざまな決定事項の優先順位に対して責任を持っているかどうかということです。企業にとって、社員は最も重要な資産であり、社員のことを重んじているとはいっても、さまざまな決定を追求するがゆえに軽視されることもあるはずです。この意識はトップから始まり、全社に連鎖していくのです。

共同体とは、価値観を共有した社員が積極的に実践することからカタチづくられていきます。組織を縦割りではなく、横断型組織にし、組織全体のつながりをより容易にすることで、社員同士はより簡単にコミュニケーションを取ることができます。人々が連携せず、孤立化されればされるほど、共同体の構築は難しくなります。果たして、組織のあらゆる階層レベルが横断的にコミュニケーションをとることが出来るようになっているでしょうか?経営層は共通目的を持つことをどれだけ重視し、社内で奨励しているでしょうか?ヒエラルキー組織で官僚的な企業は共同体としての組織づくりは難しいといえるでしょう。横断的な組織がそれを可能にし、その実現は組織によっても様々です。

360 Magazine Issue 71 Office Renaissance - The New Leader
今回、360マガジンはフランスのパリでStraub氏へのインタビューに成功した。

360: 強固な共同体意識を持つ組織例をあげてもらえますか?

RS: その代表的な例がベンチャーやスタートアップ企業です。スタートアップ企業はエネルギーに溢れ、チームメンバーの全員が組織の目的を理解し、それに向かって仕事をしています。しかも目標達成は自分次第だとも自覚しています。これはまさに起業家精神で、従業員の一人一人が、責任を持って仕事をし、結果に対する説明責任を果たすという意識でいるのです。そして、困難を共に乗り越えたという共通体験や何かを変革したという喜びを共に分かち合うことになります。

360: しかし、必ずしも誰もがスタートアップ企業で仕事をするというわけにはいきませんが。

RS: 企業の存続年数や規模はそれほど重要ではありません。あくまでも経営方法が官僚的か起業家的かという違いだけです。大企業はより大きな目的に向かって、起業家的なイノベーション精神を築けばいいのです。社員に少しの柔軟性を持たせて、何かをやり遂げさせること。それが例え、経営層の短期的目標よりも多少時間がかかったとしてもです。イノベーションへの取り組みには社員の自由度は欠かせません。例としては3Mの成功事例に始まった「勤務時間の何%かをアイデアの創出に充てるという」プログラムです。繰り返しになりますが、企業によってやり方は異なっていいのです。そして、株主や投資家が要求する短期的利益より、やる気と情熱を持つイノベーション志向の組織の長期的思考との間のギャップをどう埋めるかは有能なリーダーの肩にかかっています。

企業とは独自のDNAや文化を持つ生命体ともいえます。経営陣の大きな課題のひとつは、チームや組織としての共同体が独自の方法で管理できるようにすることです。しかし、そこにあるのは秩序です。リーダーは決して「君たちは自分たちの方法でやりたいようにやればいいんだ」などとは言ってはいけないのです。重要なのは自律型組織が構築できる極めて合理的なある種の骨組みをつくることなのです。

「ヒエラルキー組織で官僚的な企業は、共同体としての組織づくりは難しいといえるでしょう。」

Dr. Richard Straub

360: あなたはブログで次のように書いています。「いわゆる人口統計上の時限爆弾は、21世紀の大きな脅威または機会にもなりうる。ピーター・ドラッカーはかつて、ナレッジワーカーの知的、社会的資本をあらかじめ設定された時期で無効にするという現在の年金制度の不合理さを説いている。これはまさに無駄な制度で、国が年金の運用基金の赤字に苦しんでいる一方で、今の時代はかつてないほど人間の手や頭脳が求められている。」と。すべての人が役割を持ち、頭脳を働かせるためには、企業のリーダーは何をすべきだと思われますか?

RS: これは欧米の政治的指導者と企業のリーダーたちが力をあわせて取り組まなければならない問題です。今後数年間には、4世代が肩を並べて職場で働くようになるでしょう。この動向に対して、現在の骨組みは決して適切ではありません。何故なら人生を学校教育、仕事、引退という3つの段階で分ける想定モデルをベースとしているからです。年金制度の原型となったドイツのビスマルク時代にはこれは正しい制度だったといえるでしょう。しかし、医学の進歩で平均寿命が飛躍的に伸びている現代においては、全く妥当性を欠いたものです。人間はその人生のあらゆるステージにあった能力やスキルを開発し、伸ばすことができるという信念を持って、生涯、社会の役に立ち続けるという意欲を持って生きる
ことが大事です。

360: 若い人々は対話による気づきや助言を与えるメンターとしての指導者を強く求めていると言われています。リーダーはどれだけの時間をその指導や人の育成に充てるべきでしょうか?また、その最良の指導方法とはどのようなものですか?

RS:基準となるレシピなどというものはありません。しかし、経験が増えると、その指導能力も向上します。ピーター・ドラッカーは、リーダーたちの口先だけの助言には常に懐疑的でした。メンタリングなどの優れた指導方法の場合には、それが日常の慣習やプロセスの中に系統的に組み込まれることがベストだと考えていました。メンタリングを系統的に実践した過去の例としては、ドイツとオーストリアで施行された教育と実践型メンタリングが合体した職業教育の2重システムがあります。これによって数十年間に渡って顕著な実績を上げました。

360: ロンドンビジネススクールのLynda Gratton氏は、経験 豊富なワーカーの知識の多くは「暗黙知」であると述べ ています。各世代が混在しながら職場で働き、知を伝達 させていくには、経営者としてどうしたらいいと思います か?

RS:この知識共有を促す知識管理システムについては多くの人が書いています。最近では、組織知や体験を伝達する柔軟な方法としてソーシャルメディアの活用も推奨されています。しかし、私は従来型のアナログ的アプローチである相互交流に対して、これらのデジタルツールがすべて効果的であるかというとそうでもないと思っています。相互交流への従来型のアナログ的アプローチの例としては、ウォータークーラー、喫煙者コーナー、暗黙知を伝達できるカジュアルなオープンスペースなどがあります。

360: 共同体を形成するにあたって、リーダーにとってのスペースはどんな役割を果たしますか?

RS:今日、経営層にとって、経費削減は至上命題です。その影響で多くの企業が物理的な職場環境の縮小などを実践しています。フラットな世界では、自分がどこにいるかはそれほど重要ではなく、ネットを介して好きなときに同僚とつながったり、コラボレーションしています。しかし、多くの経営層たちはこのコストカットモデルにも欠陥があることを実感し始めています。働くとは極めて社会的な活動です。今日、仕事をするにはネット環境は欠かせません。しかし、それを人同士の出会いや情報交換の「場」で確立される共同体としての感覚と置き換えることはできないのです。

私にとって、「場」とは基本的な要素です。近年、リアルな相互交流がテクノロジーと置き換えることができるという考えもあります。それはある程度は正しいともいえますが、人間同士の相互交流が不要になることはありません。バーチャルなチームのことを考えてみてください。テクノロジーがバーチャルなチームを効率的にサポートはできますが、それは予めそのチームに信頼関係があるというのが前提です。信頼関係を築き上げ、協調とチームワークを確立し、共同体としての基礎を構築するには、対人的な相互交流は不可欠です。

ワークスペースのデザインを通して共同体を形成するには、将来的には社員同士が相互交流するためのスペースだけでなく、ビジネスパートナー同士が交流するためのスペースも重要になってきます。ウェブ会議はリアルな相互交流には置き換わることはありませんが、その技術は格段と進歩してきています。私はテクノロジーを軽視するわけではありませんが、人同士のリアルな相互交流が一番であると信じている人間です。この状況の中で、リーダーたちは人々が必要とするリアルな相互交流の「場」やグローバルチームのコミュニケーションを向上させるテクノロジーの両方を提供することです。これらの要素は人々が緊張と情熱を持って、一緒に何かを成し遂げるという意識とも大いに関係しています。

360: あなたはヨーロッパ中の多くの企業リーダーたちを訪問する中で、どの職場環境が最も印象に残りましたか?「私はここで働きたい!」と思ったことはありますか?

RS:私は最近The Familyという若い会社を訪問しました。こ の会社はスタートアップ企業に投資する会社です。経営 層のうちの1人とオープンスペースで1対1のミーティング を持ちましたが、そのスペースはまさにカフェを連想させ るものでした。他のスペースでは大人数のグループミー ティングも行われていました。快適で、リラックスする雰 囲気でありながらも、非常に集中できる環境であったの です。それは、19世紀初頭のウィーンのカフェや社交サ ロンが、芸術や文学など様々な分野の知識人の知の共 有の「場」として、多くのイノベーションの発祥地であっ たことを私に思い出させるものでした。

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