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ウェルビーングの先進国、オーストラリア

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360 円卓会議

ウェルビーングでは一歩先を行くオーストラリア。建築やデザイン、不動産をリードする専門家がどのようにワークプレイスを通してウェルビーングをサポートできるかの革新的な方法を提示しています。
2300 万人の国、オーストラリアはオフィス環境におけるウ ェルビーングに関しての注目度が高く、国民がかなりの関 心を持っており、今や、国を超えてアジア、ヨーロッパ、 北米、南米の地域へとそのプロジェクトは拡大しています。

オーストラリアはその国の大きさに匹敵するようにウェルビ ーングに関しては世界でもかなりの上位を常に保持してい ます。オーストラリアは2013 年度の社会的進歩指標では 世界で16 位、コロンビア大学の世界幸福度レポートでは 生活の満足度で9 位、幸福度では11 位でした。ハッピー プラネットインデックス(地球幸福度指標)では151 カ国 の中でウェルビーングでは8 位、平均寿命では4 位に位 置しています。

オーストラリアのオフィス環境にウェルビーングがどのよう に統合されているかを探るために、360 誌はオーストラリ アに拠点を置きながら、世界中のさまざまな業界と仕事を している業界をリードする5 人のワークプレイスの専門家 にインタビューを実施しました。彼らはワークプレイスプラ ニング、デザイン、建築分野のエキスパートで、業界を代 表するカタチでインタビューはバーチャルな円卓会議で行 われました。

今日、オーストラリアのオフィス環境でウェルビーングの重要性はどのくらいですか?

Minnett 非常に重要です。どこでもそうだと思いますが管理職はコストや効率性、生産性にフォーカスしがちです。しかし、ウェルビーングと生産性の関係が明らかになってからは急速に注目を浴びつつあります

McCourt オフィス環境はそこで働く人々の可能性を引き出し、「個」が会社という組織の一部であるという帰属意識を養います。どうやってそれらをウェルビーングと関連させながら実現するのか、人々が恊働し、何か特別なものを共に体験できるコミュニティのようなものをどうやって創れるのかとよく顧客に聞かれます。

Coster 顧客はようやく認識しはじめているのです。オフィス環境とはスペースの広さや家具のことではなく、「人」だということが。健康とウェルビーングは明らかに人々の能力を最大限に発揮するための要素であることは間違いないのです。よって企業の経営者たちがオフィス環境は「人」をダイレクトにサポートするものだということを認識するようになれば、ウェルビーングはもっと普及するはずです。

ウェルビーングとはあなたの顧客にとってどんな意味がありますか?

Coster この話題はよく病欠と関連して議論されます。 病気である症状は健康の症状より容易に測定できるからで すが。多くの場合、病気の特定の症状を解消し、人々が 健康でいられる環境に目が向けられています。できればそ の枠を超えて、精神的にも前向きで健康でいられることも 考えたほうがいいと思います。つまり、心身ともに健康と いう面から真に生産性の高いスペースということになりま す。何が要因で人々は本当に健康だと感じ、その反対に病 気ではないかもしれないと感じるのでしょうか? そして、 何が人々の健康に前向きに貢献するのかを模索しているの です。

Aznavoorian企業の成果に影響を及ぼすものであるということです。ここの企業は心身ともに感じることと仕事の成果との関係を十分に理解しているのです。それは国のサイズと人材市場が比較的小さいために、ここの人々は有能な社員を惹き付けることや健康でハッピーに仕事ができることへの意識が高いのです。また、人口が少ないために身が軽いということも関係しています。ヒエラルキーもあまりなく、古い規範や遺産もなく、変更も容易なのです。オーストラリアの健康への興味の高さの要因として考えられるのが、オーストラリアは昨今、米国やヨーロッパを襲った経済不況の影響をそれほど受けなかったことです。このことがウェルビーングのようにパフォーマンスに影響する要素が考慮されたスペースが注目されたということにも関係しています。

職場でのウェルビーングにおいてオーストラリアは何故リーダー的立場になれたのですか?

Dowzer オーストラリアでは会社の部署や人事部がプロジェクトをリードすることが多いのです。彼らがリードすると、必然的に働く人がチョイスと権限を持つオフィス環境を提供するということが優先されてしまうのです。また、オーストラリアは大企業になればなるほど緩い組織構造になっていることも関係しています。他の要因としてはオーストラリアが世界から離れていることでしょうか。これが幸いしているのです。プロジェクトの初期の頃はグローバルな組織ややり方にも巻き込まれず、距離が離れていても簡単に俊敏に物事を進めることができるのです。

McCourt オーストラリアではウェルビーングは良いことだという以上の意味があるのです。労働安全法という法律があり、職場での安全性とウェルビーングが保証されているのです。

Coster オーストラリアは比較的新しい国で古い社会から伝承されたものがないのです。例えばテクノロジーなど、新しい商品やサービス、スタイルなども早期に受け入れる傾向があります。比較的社交的な国民で、他の国に比べて平等な社会が確立しています。一般的には企業の肩書きにも関わらず、すべての人が平等に交流しあい、ヒエラルキーも部署もないことが多いのです。

構造的なことを言えば、他の経済大国に比べてテナントとなる企業が少ないということも上げられます。オフィスのデザイナーはイギリスやアメリカよりも建物のデザインに参画する場合が多いのです。テナントが建物のデザインプロセスに関わることも一般的で、具体的には階段やアトリウムのデザインをうまく仕掛けて人々の接触を増やすというようなことを考えることもあります。

In Australia, it’s more than a belief that wellbeing is a good thing.

オーストラリアではウェルビーングは良いことだという以上の意味があります。

Dowzer 企業によっても大きく異なります。ある企業はコラボレーション重視のコミュニティスペースとして広さを必要としているところもあれば、社員が長時間働いても24時間リズムの中でエネルギーが低下しないように多くの採光が取られた共有スペースに重きを置く企業もあります。ランチ時間を利用した運動のためのシャワーの設置や健康食メニューを提供するキッチンまで要求する企業もあるのです。

Coster そこには考慮しなければならない4 つの事柄が あります。まずは環境と健康の関係、2番目は1 日を通し ての活動や動きを組み込んでスペースをデザインすること、 3 番目は精神面の健康。人々は1日の内に作業にあった様々 な異なったスペースを使いながら仕事をこなすことを望ん でいます。選択肢を与えることは精神的にもよく、座る/ 働く場所を選択することで、自分の環境を自由にコントロー ルしている感覚になります。それがないとストレスや不安、 時に鬱病的な症状がでる場合もあります。この無力感を除 けば、彼らが自分の権限から成果を導きだし、鬱を予防す ることにもなります。最後はワークプレイスで社員がそこで 働きたい、会社の一部でありたいと思える方法で企業のア イデンティティを表現することです。社員を前向きな意識に し、毎日自分の能力を発揮できるような「場」を創造する ことで人々は健康的に仕事ができるようになります。

McCourt もう一つの面白い現象はバイオフィリア(生命 愛)、つまり人間と他の生物系との密接な関係にも注目する ことです。例えば、人の気持ちを癒す植物です。私たちの ロンドンの本社では社員一人あたり8 鉢、トータルで 4000 鉢をスペースに配置しました。植物は毒素を減らし、 湿度を調節し、ウェルビーングを増幅させます。多くのデ ザイナーはこのバイオフィリアをワークプレイスのウェルビ ーング要素として多く取り入れるようにしています。

Minnett ウェルビーングを考慮したワークプレイスでは 最低でもオーストラリア・グリーン建築審議会が開発したグ リーンスター(LEED のオーストラリア版)に則った健康的 な環境を提供することが要求されます。例えば、自然光、 新鮮な空気、植物を取り入れることです。また、活発で生 き生きとしたワークプレイスがウェルビーングを助長すると も考えられています。人間にとって1 つのスポットに1日中 座っていることは健康的にもよくないからです。座る/ 立つ、 ラウンジでゆったり座る、デスクに座るなど様々な姿勢と 場所で仕事をすることがウェルビーングを活性化します。 そのソリューションは決して一つではなく、様々な方法があ り、人間の身体に適した自然な方法でウェルビーングを促 進することが重要です。

Aznavoorian 動くこともウェルビーングにとっては避け ることができません。身体を動かすように仕掛けるさまざま な種類の「場」を与えることです。立ちながら/ 座りながら のデスク作業、階段とプリンターの場所を相互に繋げるこ とも戦術のひとつです。私たちは今まで主に身体的な側面 に取り組んできましたが、今、私たちに必要なのは精神的、 情緒的な側面のウェルビーングに焦点をあて、現代のワー クプレイスを活性化することなのです。

Dowzer 可動性に加え、もっと重要になるのが、座る、立つなどの機会を増やすことや多様なセッティングを提供するという人間工学です。もう一つは階段などを活用して社内の組織やスペースを相互に繋ぐことです。環境をもっとオープンに可視化していけばいくほど、人はメールに集中するだけでなく、歩いて誰かのところに行って会話をしたいと思うようになるのです。階段やスペースを統合していくことで人はつながり、フロアを上下する場合にも自動的にエレベータを使用しないような工夫がされています。これが人が「立ち上がって動く」という基本的な戦略になります。

企業はウェルビーングをサポートしたワークプレイスからどんな恩恵を享受できるのでしょうか?

Aznavoorian 今日のワークプレイスは非常に複雑です。スペースだけで成り立っているわけでなく、ワークプレイスやウェルビーングを他の多くの要素と離して考えることはできないのです。ワークスペース、テクノロジー、人(身体、心、精神)との間には相互に深い依存関係があるのです。これらが統合されて初めて社員の士気を高め、ひらめきが生まれるワーク体験を創造することができます。そして、このことが企業の成果につながるのです。そしてまた、今はバーチャルな環境がどのようにリアルな環境とつながってワーク体験をさらに高めるのかも模索されています。

McCourtただ単にウェルビーングを改善するための個々の戦略に注目しているだけではその効果を実証することは難しいのです。自然光をもっと取り入れたら生産性が数%上がりましたというようなことはないのです。ウェルビーング戦略は全体としてまとめてやることで効果が出てきます。しかし、企業によってその効果もアプローチ方法も異なっています。ウェルビーングを改善する方法はいろいろあり、それらをまとめて実践することで成果が上がります。すべてに効く魔法の薬などはないのです。

Coster アイデンティティとしての経済的側面を考えてみましょう。この考え方は金銭的動機やその個性で人々は経済的な選択をするということです。例えば、ある特定の車が他の車より高いにも関わらず、何故購入しようとするのかということです。金額の違いはブランド価値の違いということが多くあります。これと同じことをワークプレイスにも当てはめてみてください。人々がある企業のミッションに共感して働くことと共感しないで働くことを比較してみるとこの価値の違いがわかるはずです。人々が共感し、一体となって、価値を見いだすワークプレイスはそれだけで人々を仕事に向かわせます。さもなければ企業は社員に仕事にコミットさせるための金銭的な動機を与えなければならなくなります。つまり、ウェルビーングは企業にとっては大きな節約にもなるということです。

Dowzer ハッピーで生産的に働くワーカーという仮説はかなり複雑です。ウェルビーングを構築する方法はいろいろあります。例えば、モラル、ストレス、ワークライフバランス、仕事の満足度、病欠がもたらす会社への影響、顧客満足度、退職の原因、嫌がらせなどです。環境のデザインをウェルビーングの要素と結びつけるとなると更にその様相は複雑です。企業がウェルビーングに焦点を当てるとあることが明らかになります。ハッピーな社員は効率よく仕事をこなさないとあまり価値をおかれないという事実です。効率重視の企業はウェルビーングのコストにも価値を見いだしていません。

Minnett 私たちがオフィス環境に取り入れている要素はこうです。より多くの自然光、静寂なスペース、ヨガやマッサージのための部屋、ジム、可動性が高く、動くことを加速し、様々なタイプのスペースを提供するオフィス。これらの全ての要素がワークライフバランスやウェルビーングの改善につながるのです。そして最終的にはこれらの要素は病欠や転職の削減や生産性の向上という観点から企業の成果に現れてくるのです。

オーストラリアの多くの企業は社員の感じ方と行動が密接に関係していることを理解しています。

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