アクティブラーニング

思考をカタチにする教育

Making Way for Making in Education – 360 Magazine Issue 69: Making Distance Disappear

メイカーズムーブメントの教育への参入

メイカーズムーブメントとはネットやウェブ技術をモノ作りに活かし、製造業の世界に「第三の産業革命」を起そうとするムーブメントです。モノ作りに情熱を持つ人々が集まり、機械、スペース、アイディアを共有するコミュニティ団体で、世界中で大きな反響を呼んでいます。Maker Faires(メイカーフェア)や様々なメイカースペース、そして、Make Magazine(メイクマガジン)などは所謂新しい「do-ocracy」を具現化したもので、個人の力だけでなく、人の力を借りて思考をカタチにしていこうとする一種のルネサンス的動きと言えます。

世界中に広がりを見せているメイカーズムーブメントは何故、今起こっているのか。果たしてこの動きは一過性のブームかなど、様々な憶測が飛び交っています。多くの人は3Dプリンターなどの最先端技術は高価すぎて個人で使うことができないと思っていますが、この動きがそれを可能にしました。また、これは今日の仮想現実の世界にどっぷりと浸かっている世の中に対しての、メイカーマニアたちの提言でもあります。「人間は再び手で触れられる世界を思い出すべきです。頭のてっぺんから足のつま先まで、脳から指先まで、iCloudからこの地球という現実世界に、今、戻るべきなのです。」とボストン大学の哲学教授Richard Kearney氏は最近ニューヨークタイムズ紙で語っています。

その要因はどうであれ、広い範囲に影響を及ぼすメイカーズムーブメントは高校や大学にも取り入れられ、旧態依然とした教育現場に新たな思考方法を提案し、注目され始めているアクティブラーニングを後押ししています。

「メイカーズムーブメントは人とコラボレーションしながら、実際のモノ作りに焦点を合わせています。」とSteelcaseの教育研究員のAndrew Kim氏は説明しています。「私たちの研究ではテクノロジーが教育現場を再構築している一方で、対面式学習の重要性も増しているということが分かりました。講義タイプの授業が減り、対面式学習が増え、より実践的学習に重きを置くようになっています。」

教育現場におけるメイカースペースはあくまでもイノベーションラボ内で、あるいはそれに沿う形で出現してきました。そこでは、人々はさまざまな学習法を使って共同で実験を行い、「デザイン思考」を取り入れながら、問題解決に取り組みます。それは課題へ向けての能動的な共同型思考方法なのです。「デザイン思考」とは元々はデザインとエンジニアリングの分野で始まった方法論ですが、徐々に他分野にも広がり、今は生み出すものが必ずしも「モノ」に制限されているわけではありません。生み出すものはオブジェやシステム、アイディアなどさまざまですが、教育現場でのメイカーズムーブメントは、教員が従来のように事実を伝えるだけの初歩的な指導モードから、より能動的で創造的なモードへと移行させるものであることには間違いありません。そこにあるのは「つくることを学び、学ぶためにつくる。」というプロセスです。

では高校生が実践的学習のためにデザインされた「メイカー・スペース」のラボ で創造的な手法を使って問題解決法を勉強しています。

米ミシガン州グランドラピッズにあるWest Michigan Center for Arts and Technology では、「つくる」ことを通して学生の能力を高めるというビジョンを掲げ、放課後に学生が何かをつくることを学ぶプログラムを設けています。このアート&テクノロジーセンターのラボでは市内の公立高から選抜された10代の若者も学習しています。彼らは、創造力を磨くために専門的ツールやテクノロジーを駆使し、グループでプロのアーティストからスキルを学ぶことができます。施設内には写真、ビデオゲーム、陶芸、ファッション、彫刻、コミック/雑誌、ストリートアート、音響/映像制作などの専門ラボがあり、その中には「メイカースペース」のラボもあります。すべてのスペースがアクティブラーニング環境としてデザインされ、授業内容に応じてレイアウトも容易に変更が可能です。毎年、参加学生は1つの社会問題を選び、「デザイン思考」を用いて何かを「つくる」ことに取り組みます。例えば、今年、彼らはいじめの問題を課題として選択しました。これを始めるにあたって、写真チームの学生たちはそれぞれの人の内面的美しさを映し出すポートレートを撮るためのテクニックをまず追求しました。

「つまり、それはモノのみならずプロセスにも適用するのです。」とエグゼクティブディレクターのKim Dabbs氏は語ります。「創造的プロセスと学習スキルを習得することによって、学生たちは自分たちも社会のためにプラスの変化をつくりだすことができるのだと自信を持ち、意を決して口を開くのです。」

Kim DabbsExecutive Director.

新鮮なものの見方

南ミシシッピ大学は、「デザイン思考」を組み込んだもう1つの教育機関です。同大学は革新的な教育と学習の中枢として「Think Center」を創設し、この時以来「デザイン思考」論を採用しています。このセンターでは将来的な学部の発展と学生の意欲を向上させることを目的とし、それに適応したスペースとサービスを提供しています。センター内には、教授が予約できるアクティブラーニング用教室や誰もが気軽に立ち寄れるさまざまな設備があります。それらには個人やグループで学習を行うために、ホワイトボード、マーカー、メモパッドなどの学習用ツールも備わっています。

「学生や教授が批判的かつ創造的思考を活用しながら、多角的で新鮮なものの見方を身につけ、学習体験そのものを向上させていくことを目指しています。」とBonnie Cooper氏は語っています。彼は「Think Center」のコーディーターで、2000年に高等教育の現場にくる前の15年間はビジネスの世界でトレーナーを務めていました。「このスペースで、学生たちが興奮して学習に向かっている姿を見るのが私の喜びなのです。時に、新しい環境が新鮮なものの見方を教室にもたらすことがあるのです。ここはそうしたエネルギーに溢れ、「学ぶことは楽しいこと」だということが見てとれます。そして、学生がそう感じれば感じるほど、人間としてより豊かになれるのですから。」

教育現場の内外の多くの人が、これは教育があるべき正しい方向だと感じています。

「今日の人材市場を見渡してみると、21世紀型スキルを持った人が企業の求める人材像だということが分かります。それはイノベーションを起こすためのコラボレーションワークも難なくこなし、創造的な方法で変化に柔軟に対応できる能力です。」とSteelcaseのAndrew Kim氏は語っています。「それにはある種のハイレベルの思考能力も要求され、理論ではなく実践が求められます。企業が求める協調性と創造性が身につくように指導すること。これが今の大学で求められる指導方法です。」

思考と実践

新しい学習方法を実践するには新たなタイプのスペースを必要とします。も進歩的な大学の中には、企業のイノベーションスペースをモデルとして自身の最新の学習環境を創り出している大学もあります。Steelcaseでは10年以上もの間、教育用スペースを研究しつづけ、アクティブラーニングをサポートする製品やスペースコンセプトを開発することに力を注いできました。一つの例として、Steelcaseの研究員とデザイナーからなるチームはスタンフォード大学のd.schoolと共同で様々なスペースの創造を試みています。その中の創造型学習を促進するプロジェクトスペースは現在、成功モデルとして幅広く模倣されています。

「能動的な実験スペースを創造するにはある種の明確な意図がそこになければなりません。」とFrank Graziano氏は語っています。彼はSteelcaseの研究員でスタンフォード大学 d.schoolとの共同プロジェクトにも参加したことがあり、最近では同大学院のエンジニアリング学部とも共同でスペース開発を行っています。彼はこう自問します。「スペースは人の思考や行動とどう関係しているのか? 学生が抽象的思考を具現化する方法を見つけ出し、アイディアを積極的に生み出せるような、広範囲に渡る活動をどう支えることができるのか?」

思考をカタチにする教育 - 360 Magazine Issue 69: Making Distance Disappear
WMCAT (West Michigan Center for Arts and Technology) では、グランドラピッツ市内の公立高から選抜された10代の若者が創造力を磨くために専門的ツールやテクノロジーを駆使し、グループでプロのアーティストからスキルを学んでいます。

Making a Maker Space

Steelcaseでは創造型学習スペースの研究と最近開設したイノベーションセンターでの経験に基づいて、「メイカースペース」のガイドラインを下記のように設定しました。

インスピレーションが湧く: 明るめの色、快適な家具、自然光、屋外へのアクセスが学習意欲を高めます。周囲のさまざまな刺激が創造的思考を育み、無味乾燥な堅苦しい環境は退屈さだけを助長します。

柔軟性があり、カスタマイズできる:教員と学習者のニーズを満たすように、授業毎、プロジェクト毎に自らの手でレイアウトを編成、変更ができること。モバイル家具はさまざまなセッティングを構成するために不可欠な要素です。

ゾーニングをつくる:モノづくりやコラボレーションワークは騒がしくなる傾向がありますが、熟考には静けさが必要です。コラボレーションセッションの合間にひとりでも作業ができるようにレイアウトや家具に流動性を持たせることも重要です。特に試作品をつくるための機械が置いてあるスペースには、思考のためとモノ作りのためのエリアを適切に確保してください。

乱雑さをなくす: 整理整頓はアイディアや可能性を口に出して言う習慣をつくります。作業台もチームがそのまわりに集まれるように十分な広さを確保してください。そして、材料や未完成品は適切な場所に保管できるよう考慮してください。

垂直表示を活用する:デスクやテーブルは時に縦横すべての空間が使用者のプライベート空間として使用できます。可動式や固定式ホワイトボードはモノづくりをするにあたってのアイディア表示や情報共有を可能にします。ホワイトボードとマーカーの設置は多過ぎて困るということはありません。

多様な姿勢をサポートする: 姿勢や身体を頻繁に動かすことは創造のプロセスにもプラスの影響を及ぼします。立ちながらのグループ作業は人間同士の相互交流を活性化し、やる気を高めることがあります。個人作業の場合、時にリラックス姿勢やウォーキングが新たな思考を生み出すことがあります。

デジタルなコンテンツ共有を容易にする: 日々、より多くの関連コンテンツがデジタル形式で登場しています。参加者が自分のデバイスのみならず、自分の心の中にあるものを容易に他者と共有できるようなテクノロジーを導入してください。

「メイカーズムーブメントは、単にモノづくりをすることではありません。」とAndrew Kim氏は強調しています。「革新を生み出すという行為を常に実践しようという試みです。このことを常に心に留めておくことが教育においても重要になります。」

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