文化

人材を獲得する。

優れた人材を獲得できるかは結局のところ、「従業員体験」をいかに高めるかが鍵になる。

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今の時代、モノやサービスを購入するように働く企業を決める人も多い。ただ単に職務内容や年収、企業の知名度で働く企業を決めてはいないのだ。「この仕事を心から好きか? それとも普通か? 会社は自分と同じ価値観を持っているか? 他の人はどういうところで働いているのだろうか? 友人は気にいっているらしい。オフィスはどんな感じだろう?」などと自問している。彼らが求めているのは、むしろ仕事のやりがいだ。どこで働きたいかを選択しようとする際、そこには多くの要因が絡む。

同時に有能な人材を求めての獲得競争は熾烈を極めている。国際労働機関(ILO)によると、世界の失業率は10年以上にも渡って低い状態で世界で裕福と言われる国々では更なる低水準を維持している。その中、あらゆる業界の企業はトップクラスの人材を引きつけ、定着させる方法を模索しているのだ。この問題はSTEM—科学、技術、工学、数学の分野ではさらに深刻だ。例えば、求職サイトのIndeedによると、インドでは熟練したSTEM分野の人手不足は2014年から2018年までに倍増し、米国労働統計局はSTEM職の成長率は他の職種の4倍にもなると推定した。この数字だと2020年までには100万〜250万件もの職が埋まらず、そのほとんどがエンジニアやコンピュータサイエンスの人材ということになる。

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Steelcaseのグローバル人材マネージメント担当副社長のLaurent Bernard氏はこう説明する。「決まり文句だが、企業にとって人材が最も重要な資産です。適切な人材がいなければ、これからの社会を変革するようなアイデアや製品は生まれません。つまり、企業の存続が危ぶまれるということです。しかし、従業員がどこで働きどのくらい意欲があるかに影響を及ぼす従業員体験を戦略的に考えている企業はまだ少ないのです。昔から企業はオフィスを従業員が座る場所と考えていました。しかし、これからは違います。イノベーションに向けての従業員の行動をカタチづくるツールとしてオフィスを戦略的に活用しなければならない時代に入ったのです。人々の行動が時間の経過とともに企業カルチャーや風土をつくり、従業員が真に求めるワーク体験を創造することに繋がっていくのです。」

従業員が真に望むものを追求する

しかし、優れた従業員体験をつくることは決して容易ではない。従業員エンゲージメント指数が低い企業では、従業員に必要なものを尋ねる前に対策を策定してしまうことがよくある。最近発表されたSteelcaseの世界のオフィスワーカーに関する意識調査によると、対象ワーカーの半分以上(51%)が、1人で作業しようと他者と一緒であろうと、ずっと同じ場所で作業を続けたくないと思っているのだ。しかし、実際には53%のワーカーがオフィス内にはそれを可能にする適切なスペースがないと答えている。この他に彼らが求めているのは同僚とのより蜜な関係を構築することで、それはインフォーマルな空間からつくられると思うと答えた人は43%にも及んだ。

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このデータから分かることは、人々は現状に満足していないということだ。給与の高さという今までのアプローチだけでは優秀な人材を確保し、定着させるには十分ではないし、限界もある。例えば、Z世代(1994〜2008年生まれ)の場合、Lovell Corporationが実施した2017年度の世代別意識調査報告書によると、報酬額は優先事項のトップ3には入っていない。報告書によると、世代間の最大のシフトのひとつは、Z世代が仕事への愛着やキャリアでの成功に重点を置いているということだ。仕事への愛着が仕事観のトップ3にランクされたのは初めてだ。そうなるといかに職場で彼らの興味を引き、発想豊かに仕事ができ、価値観に合わせて成長できる環境をつくるかが鍵になってくる。

包括的アプローチ

Jacob Morgan氏は「The Employee Experience Advantage: How to Win the War for Talent by Giving Employees the Workspaces they Want, the Tools they Need, and a Culture They Can Celebrate(従業員体験の優位性:従業員にとって最適なワークスペース、ツール、企業風土を与えることで人材獲得競争に勝つ)」の著者でまさにこのトピックに詳しい人物といえる。大規模な調査と150人以上のグローバルな企業リーダーへのインタビューを実施した結果、従業員体験を最大にするために物理的スペース、企業カルチャー、テクノロジーの3つの分野に投資することは企業にとっては不可欠であると彼は明確に言い切った。

現実にはこれらの3要素を包括的に捉えて取り組んでいる企業はほとんどない。これらはどれも通常は人事、IT、ファシリティ部門によって別々の予算で管理されている。そのチームリーダー同士が対面で座って、従業員が欲している「場」を創造するにはそれぞれがどう役割を果たせば良いのかを話すことは滅多にない。「従業員と組織のそれぞれの期待やニーズ、要望が重なった時に魔法が起きるのです。つまり、人材、スペース、テクノロジーと言った要素を包括的な視点で見ることが極めて重要だということです。」とMorgan氏は主張する。

何故、それが重要か

従業員体験のこの3つの要素を全て優先事項として取り組んでいる企業をMorgan氏は「体験重視型組織」と名付けた。それは 「従業員のことを真に理解するために組織を(再)構築し、ワーカーのニーズというよりは、ワーカーが欲している空間、出社したいと思える空間を創ることを理論と実践で取り組んでいる企業」と定義されている。

体験重視型組織がどういった取り組みを行なっているかを探るために、Morgan氏は企業が物理的スペース、企業カルチャー、テクノロジーにどう投資しているかを測定する調査である「従業員体験指数」を開発し、250以上ものグローバル企業を対象に実施した。体験重視型組織は、企業の平均収益の4倍以上、平均売上高の2倍以上を超えていた。

優れた従業員体験を生み出す

優れた従業員体験を生み出すための第一歩は、ワーカーが真に望むものを深く探り理解することだ。ワーカーの意見に耳を傾け、実際にどう働いているかを観察することによって、会社は包括的アプローチに焦点を絞り、例えば、ウェルビーイングの継続的改善、スマート&コネクトテクノロジーの導入、多種多様なスペース展開といったことへのワーカーのニーズを満たすことができる。そして、忘れてならないことは、このアプローチを採用することで企業は真にワーカーが働きたい「場」を創出でき、最も優秀で賢い人材を獲得する上で優位に立つことができるということだ。

以下はSteelcaseの設計デザイナーが提案する「優れた従業員体験を生み出すためのヒント」である。

01 「チョイス + コントロール」を提供する
1日を通して変化するニーズを満たす多様なツールや多彩な雰囲気のスペースを提供することで、ワーカーが働きたいと思える「場」を選べる自由を与える。

02 信頼できる本物のスペースを創る
ワーカーが気兼ねなくありのままの自分でいられる「場」をつくる。照明、素材、インフォーマルスペース、自然界の要素がワーカーの行動に強い影響を与えると同時に企業のブランドや企業カルチャーを表現できる。

03 従業員が心身共に健康であり続けるようにする
身体面、情緒面での両ニーズも考えよう。極上の一杯のコーヒーとヘルシーな食事メニューは、従業員のウェルビーイングが会社の優先事項のひとつであることを証明している。 ワークカフェ(WorkCafé)とコーヒーバーは、コーヒーを飲みながら、お互いをよく知るための「場」を提供し、人間同士の関係が深まることで斬新なアイデアが生まれ、チームとしての相乗効果と創造性を高めるのだ。

04 高度なテクノロジーを提供する
いまや、簡単に利用できるテクノロジーなしで仕事はできない。上手く作動しない時には不満が募り、仕事の邪魔にもなる。アイデアや情報をどこででも簡単に共有できるように携帯デバイスと大型テクノロジーをスペースに適切に統合することが重要になる。

05 ひとりになる「場」を創出する
個人が活力を取り戻したり、プライベートな電話をかけたり、デスクワークに集中できる静かなスペースで外部からの邪魔を防ぐようにする。

06 同僚や地域社会とつなぐ
多様性や包容性、地域社会への奉仕活動といった活動に投資する。これによって従業員の会社への帰属意識が生まれ、何を誰のためにしているかを感じることがより大きな目的を果たすことにつながる。

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