成長のジレンマ
急激な変化の中で人間主体のスペースを創造する
大手テクノロジーコンサルティングのAccenture社が20年以上前に最初にインドに会社を設立した際、管理職の誰もが重要視したのが「コスト」である。その背景にはInfosys社のような地元の新興企業が大手のグローバル企業に挑戦し始めることで、価格競争が激しくなったという経緯がある。
それと同時に熟練社員の獲得競争も激しさを増していった。Accenture社は優秀な人材を引きつけ確保しつづけるためには、これまで通りのことをしていたのでは進歩がなく、これからは進化しつづける先端のオフィス環境が人材獲得に重要な役割を担ってくることをその当時から認識していたのである。
「初期の頃は、報酬の面だけで競争していればよかったのです。その後、人材獲得にはもっと幅広い考え方が必要であることに気づいたのです。そのため、弊社では従業員の「体験創造」について真剣に考えるようになりました。例えば、コミュニティをどう構築するか、皆がつながっている感覚を生み出すにはどうすればよいかというようなことです。」とAccenture社のワークプレイスソリューション担当グローバルディレクター、Patrick Coyne氏は述べている。
インドや中国などの急成長市場など劇的に変動するビジネス環境においては、この経験は決して珍しいものではなくなっている。これらの国々は好景気に沸いており、高い教育を受けた労働者や富裕層の増加が顕著で、世界経済の秩序を塗り替えて、あらゆる業種の企業がその戦略を見直すことを迫られている。
何が起きているのか
84パーセント |
世界総人口の84%が新興経済国で暮らしている。 |
6億人 |
中国の都市人口は4億人増加し、インドでは今後10年間で2億人以上もの増加が見込まれている。 |
70 パーセント |
B2030年までに、インドの推計人口の最大70パーセントが中産階級になる可能性がある。 |
400 キロメートル |
インドはその需要拡大から、都市部の鉄道や地下鉄網を毎年350~400キロメートルづつ延長する必要性に迫られている。 |

中国上海市南京路
成長市場とは何か?
成長市場の定義は、経済が世界平均よりも急速に拡大していて、それが少なくとも世界の国民総生産の1パーセントを占めるほどの大きさになっている国や地域とされる。一般的にそうした成長市場には魅力的な市場環境があり、外国の投資家を引きつけるだけの物理的、財政的なインフラが整備されている。アジアでは、インドと中国という2つの大国とともに韓国やインドネシアなども含まれ、メキシコ、ブラジル、トルコ、その他東欧の国々もこの定義に当てはまっている。
これらのダイナミックな経済圏が出現することで、多国籍企業を受け入れる土壌がつくられ、成長機会を生み出す一方で、問題も複雑化している。開発途上国をかつては安い労働力の源泉と考えていた企業が、現在では、インドや中国をより高いスキルが必要とされる場所と見なし、コールセンターのような単純業務をフィリピンなど、さらに労働力の安い地域にシフトしているのだ。一方、価値創造の構築に力を入れ、特にソフトウェア開発や広告などの分野では下請企業から這い上がり、世界でも競争できる注目企業へと成長している現地企業もある。
この記事は、今日、中国とインドに影響を及ぼす「成長市場」の威力について探っている。
課題
Steelcaseの研究チームは、最近、成長市場でビジネスを展開する上での独特な問題や課題を探るためにインドと中国で綿密な調査を実施し、ビジネスと仕事の背後にある3つの影響力を特定した。
インフラ整備の欠如
まず、交通、電気・ガス・水道などの分野でのインフラ整備の欠如、そして、不安定な法制度や行政の問題がある。道路や橋などのハードのインフラは、商品を安価に輸送する上では不可欠であり、人々が職場に効率的に通勤する上の前提条件になるものだ。McKinsey & Company社の調査では、インドはその需要拡大に伴い、都市部の鉄道や地下鉄網を毎年350~400キロメートルづつ延長する必要があると結論づけている。Accenture社は従業員の通勤のために自社バスを編成したほどだ。
信頼性のない電力、独断的で不十分な開発計画プロセスと建築基準法、脆弱な法制度、不安定なインターネット接続や通信サービスといったものは、インフラ問題のほんの一部に過ぎない。しかし、そうしたものが、企業の戦略実行力を損なわせているのも事実だ。そして、この不確実性をさらに悪化させるのが信頼できる良質なデータや市場情報の欠如である。
成長率
次に、人類史上空前の経済成長を遂げるインドと中国の都市化がもたらす社会変動の問題がある。中国では今後10年間で都市人口が4億人、インドでは2億人以上が増加すると予測されている。

マネジャー、WorkSpace Futures Steelcase, Asia Pacific
新市場におけるSteelcaseにとってのインサイトとビジネスチャンスを探すという業務に日々情熱を傾け、具体的にはアジアパシフィック市場における研究リサーチを担当し、現在はデザイン研究リサーチチームのリーダーとしてチームを率いる。このチームはSteelcaseが掲げる「イノベーション」企業を目指し、ユーザーや進化する行動パターン、そして、成長市場に新たに出現しているテクノロジーが引き起こす影響への研究に力を注いでいる。
この高成長は中産階級の増加をもたらす。2030年までにインドの推計人口の最大70パーセントは中産階級になるという。「この増加する中産階級の中には自分達の両親とはまったく異なる嗜好を持つ何億人もの新世紀世代 (2000年代に成人を迎える人々) が含まれる。」と述べるのはSteelcaseのElise Valoe氏だ。中国の新世紀世代の若者たちは、よりグローバルに継続的につながっているため、特に様々な面での変革を切望している世代である。より楽観的で、政治的緊張ではなく、消費材により強い関心を持っている。
有限な人的資源
そして、最後は質の高い人的資本の不足問題がある。競争力が激化する社会においては、景気がよくてもマージンは薄くなり、コスト削減という意識がまるでDNAの中に浸透しているかのように見える。既存の家具を使用するのは当たり前で、例え、オフィスが手狭になってきたとしても、その理由だけで移転することはなく、管理職は常に多くの課題を抱え、絶対的に不可欠なもの以外にはほとんど時間を費やさないという。多国籍企業の場合は、低コストを維持しながら、グローバル企業としての不可価値と基準を維持することに取り組むことを迫られるのが現状だ。
「他国で事業を展開する場合、必ず現地とグローバルな考え方の間にはギャップがあります。」と語るのは元General Electricのグローバル資産運用担当マネージングディレクターであるScott Dorn氏だ。
これらの急成長市場においては企業間の優秀な人的資本の争奪戦が激化している。インドでは労働力が急激に増加し、今後25~30年の間には米国の総人口と同じくらい労働人口を保有する国になるという。専門スキルと流暢な英語力を持つ新卒に対する需要はかなり高い。中国はといえば、人口動態の変動が顕著である。McKinsey社によると、政府による広範囲にわたる職業訓練と教育プログラムにも関わらず、加速する高齢化によって、2020年には2300万人の高度熟練労働者の不足に直面すると推測している。Steelcaseの調査でも両国では熟練労働者を引きつけて保持することが雇用主である企業にとって大きな懸念事項であることが指摘されている。
また、中国とインドでは不動産規制も厳しい。世界で最も地価が高い不動産の10のうち7つがアジアにある。その結果、成長市場でビジネスを展開するにあたって、従業員の多い大企業ではそのスペースをいかに確保するかが大きな問題となっている。これは効果的で効率的な仕事環境づくりを妨害するもので、その中で企業はどう空間を最大限に活用するかの厳しい決断を迫られることになる。

混在する業務と変貌を遂げる仕事形態
欧米人がインドや中国での業務内容を考えたときに、まず頭に浮かぶのがコールセンターなどの単純業務である。確かに、依然としてコールセンター業務は比率としては多いが、市場の中で熟練労働者が増えるに従って、多くの企業がより質の高い業務をシフトするようになっている。例えば、Accentureインドでの業務はコールセンターから始まったが、今や市場分析やソフトウェア開発などより高度で複雑な業務へと変貌してきている。
「現地での製品開発は増加傾向にあり、これがよりクリエイティブで、熟練した知識労働者の需要を生み出し、仕事の形態を変化させています。企業は高品質と効率性を求めるだけではなく、より創造的な専門知識を増やすことにも努力しています。これらの市場では仕事形態やその組み合わせが大きく変化しており、これが職場に大きな影響を与えています。」とValoe氏は説明する。
Steelcaseの調査では組織のタイプを下記の4つに分類している。
- タスク型
- プロセス型
- ファンクショナル型
- マトリクス型
成長市場において、タスクとプロセス業務で優勢になることは、未だ多くの企業における目標になっているが、その仕事の性質は驚異的に変化している。実際、あらゆる業種で組織と個人の両方のレベルで絶え間ない変化が起き、直面する共通の課題がさらにワークプレイスに多くの難題をつきつけている。この状況の中で、企業は仕事の本質を深く理解することで始めて、競争力を強化する仕事環境をつくりあげることができる。
組織のタイプ
ファンクショナル型組織
市場をリードする現地企業になるために創造性と規律を重視する企業組織、あるいはグローバルに対抗できる事業ユニット、あるいは特定の業務機能において卓越したグローバルセンターを構築できる組織体
課題 専門分野の人材不足は専門的知識や事業成長の限界を招く
要因 増える専門知識、人材保持、複数のワークモードをサポート
ワークプレイスの目標高い業務遂行能力の実現
マトリックス型組織
グローバル市場でのビジネスチャンスを掴み、高度に恊働する多文化分散型チームを率いて、真の意味で統合された事業体になることを目指している組織体
課題 グローバルに分散化し、仕事が複雑になることで仕事のスピードと俊敏さが損なわれる。
要因: 分散型コラボレーション、ヒエラルキーな指揮統制、脆弱で制限された情報フロー
ワークプレイスの目標B信頼性の構築
タスク型組織
コールセンターに代表されるような比較的単純な業務プロセスとサービスの実現のために、コストの最適化に重きをおく組織体
課題単純な連続作業では従業員の労働意欲を高めるのは困難である。
要因 1人当たりのコストに対する強い意識、密度の高いワークスペース、従業員の士気の低さ、従業員の離職率の高さ
職場の目標従業員の労働意欲の強化
プロセス型組織
エンジニアリング、調達、分析といった分野で、効率的かつ信頼性の高い専門性を誇る組織体
課題予測不可能なビジネス環境が一貫性のある品質を生みだし続けることを困難にしている。
要因 迅速なトレーニングを要する大量の労働力、進化するワークプロセスとチーム、予見できない混乱
ワークプレイスの目標組織の復興力を確立
ステレオタイプ からの脱却
コールセンターのスペースはどこも型にはまったデザインで、創造性の余地もないのが現状だ。同一のワークステーションがぎゅうぎゅう詰めに並び、そこで人々はコミュニケーションを図っている。そのどこも一見画一的に見えるコールセンターでさえ、社会学的に見るとそこには歴然とした「差」が生じてくる。例えば、生産的、効率的に運営されているコールセンターと低い士気と離職率の高さが蔓延しているコールセンターの違いである。高い労働意欲と情熱を持ったオペレーターはやる気のないコールセンターよりもはるかに良いサービスが提供できている。
中国に大規模なコールセンターを運営するUnited Health Groupの不動産担当ディレクターであるBruce Bungaard氏はこう語る。「私たちは従業員をどう引きつけ、保持するかを日々考えています。オフィスのトータルデザインの質やアメニティーはワーカーの感じ方に大きく左右します。当社の目標は日々の業務をサポートし、柔軟性と融通性のあるオフィス環境をつくることです。」
それでも、企業は競争力が減退している場合にはより慎重になるものだ。つまり、コストをかけずにコールセンターをいかに楽しく、より生産的な「場」にすることが鍵となる。

密度の高いコールセンターの主な課題の1つは、Steelcaseの調査でも特定されたように、成長市場の多くの企業にとって重要なワークモードである、1対1のペアでのコラボレーションワークを適切にサポートすることである。例えば、コールセンターのオペレーターがお客様との間でトラブルを抱えている場合、通常上司に相談するか、あるいは経験豊富な同僚がイスを動かしてヘルプに来ることになる。この環境が身体的にも快適であればあるほど、お客様に対してよりよいサービスが可能になると考えられる。
ペアでのコラボレーションワークは、画期的な業務プロセスを特異とする、より洗練された業務においても、中心的な働き方として位置づけられている。例としてはインドのプネにあるCummins社のエンジニアリングセンターがある。そこはエンジンの分析結果を世界中に広がる同社のエンジニアリンググループに配信していて、効率的かつ正確に予測できるワークフローが欠かせない。
コールセンターでの仕事とは違って、エンジニアとアナリストは少人数のチーム編成で、リーダーも同ワークベンチで仕事をし、形式張らないマンツーマンのコラボレーションが一般的だ。正確で複雑なプロセスを緻密に管理することと、効率的に問題解決ができる柔軟性が見事にスペースに反映されている好例だ。
Cummins社のチームにとって、世界中の同僚と日々コミュニケーションをするため、このグローバルな接続性は不可欠である。さらにプロジェクトに応じて、レイアウトを頻繁に縮小、拡大、変更する必要性に迫られるため、オフィススペースでの柔軟性も絶対的条件になる。
国際的な保険エージェント, Willis GroupのインドユニットのWillis Processing ServiceのCIOのMahendra Bangalore氏は「今の新卒者は活気のある、明るく、カラフルなワークスペースを望んでいます。当社は感動するような、毎日オフィスに出社するのが楽しくなるオフィスづくりを目指しています。」と述べている。
密度の高いコールセンターの主な課題の1つは1対1のペアでのコラボレーションワークを適切にサポートすることである。
ここでWillis社の例もあげよう。同社は現在、世界中のオフィスモデルとなる13万平方フィートの新社屋を計画している。新オフィスでは、ある一部がフォーマルとインフォーマルのコラボレーションが隣り合わせに配置されている。
このデザインのもう1つの特長は、すべてのスペースが多機能で、家具の再編成が容易だということだ。ほとんどのオフィスが1日3交代制で、仕事の融合も絶えず進化しているため、柔軟性が極めて重要となる。そこでは折り畳み可能なウォールから、特注電源コンセントまですべてが、先端のテクノロジーとデザイン思考を取り入れた「未来のオフィステンプレート」としてテストされている。また、昇降式天井や自然光を取り入れながら、同本社を再現し、企業の透明性、オープンな企業文化、そして、ひとりで仕事をする従来型の働き方を排除できる秀逸なオフィス環境づくりを目指し、企業価値を高めようとしている。

社員を刺激し、士気を高める
業務機能の優秀性を目指す企業にとって、その主たる資本は高度に熟練した知的労働者の存在だ。「従業員の個々のスキル、専門的知識や見識は業務機能の優秀性を確立する上で極めて重要です。社員を継続的に刺激することは労働意欲を高めつづけることと同じぐらいに重要視される要素です。」とValoe研究員は主張する。
テレビ局のTata Sky社は、インド最大のコングロマリット(複合企業体)のTata社とFox社のSky Televisionの合弁会社で、190人の本社社員のためにゲームとワーカー同士のソーシャル交流を促すエリアを特別に設置している。その珍しい円形のフロアプランは、オープン感をだし、同社のブランドイメージを強く表現することで、生き生きとした空間を創り上げた。そして、創造性と自発的な相互交流を積極的に促し、組織の一員であるという強固な帰属意識を感じさせるように意図的にデザインされているのも特長だ。
変化のスピードにあわせて、企業はさまざまなタイプのスペースを統合して従業員を適切にサポートする必要がある。「これらの成長市場が成熟するにつれ、オフィススペースも同様に進化しなければなりません。」と語るのはSteelcase アジアパシフィックのマーケティング担当副社長であるJason Heredia氏である。
しかし、さまざまなワークスペースを提供するにあたっての主なハードルはその高密度な環境にある。これはオフィス内の労働環境だけではなく、日々の生活にも大きく影響している。「アジアでは多くの人が長い通勤で不快な思いをしたり、日々困難な生活環境を強いられています。そのような環境の中で、オフィスは彼らにとって聖域のようなものになりうるものです。だからこそ、高密度なオフィススペースをより人間性を反映したものへとつくりあげることが重要になってくるのです。」とHeradia氏は語る。
「オフィスは彼らにとって聖域のようなものになりうるのです。」
Jason Herediaマーケティング担当副社長、 Marketing Steelcase Asia Pacific
例えば、インドの大部分では、公共輸送は悪夢のようなもので、個の安全が叫ばれている。このことからも、従業員の高い労働意欲を目指す企業は、オフィスだけではなく、従業員が自宅を出た瞬間からどういう体験をするかに気を遣うことが必要になる。
成長市場では、先進国の従業員とは異なり、仕事においてもそれほどの贅沢さは選択できない。仕事中にカフェで仕事をしたり、人と会ったりする場もないし、6車線道路が普通の国では辿りつくのも困難で、外で容易に休憩をとるというわけにはいかないケースも多い。Willis Group社の新しい社員食堂は仕事のミーティングやインフォーマルなミーティングができるように設計されていて、社内のスターバックスとして広く利用されている。
変革の触媒としての「オフィスデザイン」
現在、新興国は世界人口の84%を占めている。世界経済における新興国の影響力は高まっているものの、課題も大きい。成長市場の不安定な環境の中では企業の繁栄を妨げる調整不可能なさまざまな問題に直面する中、とりわけ、組織を成長させる変革の触媒としての役割を果たすのがオフィス環境のデザインである。オフィスが現在、未来においてしなければならない仕事を適切にサポートしたとすれば、効率性と創造性の両方を高め、従業員を刺激し、その潜在的能力を引き出すことで、企業は最終的に成果を上げることができる。
現実
下記の3つの方法により、ワークプレイスはこれらの課題に対処できると考える。
- 高密度な職場での従業員のウェルビーングを向上させる
- 限られた空間に「場のパレット」という考え方を取り入れる
- 急激に変化する需要と限りある人的資源の中で、企業の復興力を高める
1. 高密度なワークプレイスで従業員のウェルビーングを高める
従業員の労働意欲を維持するためには、従業員の身体的、認知的、情緒的なニーズを適切にサポートするようにワークプレイスが設計されることが望ましい。これはどこにでも当てはまることだが、特に急激な変化に翻弄されながら、ワーカーの期待も高まる成長市場においては、オフィス環境は不可欠な要素となりつつある。

Design Director, Steelcase Asia Pacific
ドイツ生まれ。工業デザインの学位を持ち、欧米5カ国、アジア全域で10年以上もの就労経験を持つ。現在、グローバルデザインチームのアジアパシフィック担当リーダーとして、同市場での製品開発を率い、特に成長市場に力を注いでいる。
「今日の仕事は身体的にも認知的にも要求がハードで、従業員のプレッシャーやストレスは増加傾向にあります。オフィス環境はこうした状況を念頭に、ストレスを軽減されるように設計、デザインされるべきです。スペース密度を下げることはできないかもしれませんが、そこで働く従業員のワーク体験をより良いものにすることは可能なはずです。」と述べるのはSteelcase Asia Pacificのデザイン担当ディレクター、Michael Held氏だ。例えば、コールセンターのワークベンチの端に配置されたシンプルな「タッチダウン」スペースは私物を置いたり、シフト交代の前に快適に待機する「場」にもなる。
ワーカーに快適さとスペースを調整できる権限を与えることで、より質の高いワーク体験を創りだすことはできるのだ。コールセンターにあるデスク上のマーカーボードやチェアのネームタグなど、例えそれが小さなモノであっても、ワーカーにスペースを所有している感覚を与え、それがワーカーの労働意欲を大きく左右することになる。私物や靴を保管できる場所を設けることで、例え密度が高いスペースであっても、長い勤務時間や通勤時間のあるワーカーにとって、「オフィス」はもう一つの快適な我が家にもなるのだ。
また、高密度な空間にプライバシースペースを設置するだけでも人間的要素を付加できる。「ワークベンチで働く社員の間に低いスクリーンを設けるといったシンプルなことが、社員にパーソナルな空間という意識を与えます。例えば、友人や家族の写真をピンボードに貼ったり、自分の個人スペースをどう使うかを決められる自由度を与えることも有効です。
」とHeld氏は述べる。また、社員が1日のうちでラウンジに腰掛けたり、座ったり、立ったりして身体を動かすことで身体的および認知的ウェルビーングは高まり、集中力を持って仕事に打ち込むことができ、たっぷりの自然光は明るく、開放的な雰囲気を演出する。
戦略的に立位姿勢のエリアを設けることで、人との交流を活発化し、瞬時にミーティングできるスペースを創出できる。
分散型チームがシームレスにコラボレーションし、つながることで、すべてのメンバーが平等意識を持ちながら、信頼関係を築くことができる。また、姿勢の変化を促す仕掛けをつくることでワーカーは仕事に集中しやすくなる。
企業のリーダーが自らオープンなレイアウトの中で社員と共に働くことで、社内での迅速な問題解決や知の共有を加速化する。
2. 限られた空間に「場のパレット」という考え方を取り入れる
社員のさまざまなワークモードに応じた多彩なスペースを設置することは、個々の社員のウェルビーングを高め、人材の定着率をアップさせ、その他のビジネス目標も達成し易い環境をつくることにつながる。
しかし、成長市場の「場」のパレットは、オフィス内の密度が高く、利用可能なスペースも少ないことから、先進国とは異なる様相を呈する。「単一機能の空間は高密度な文化では贅沢過ぎるのです。空間が非常に制限されている場合、「場」のパレットも限られ、スペースは多機能、多目的で使用されるようにデザインされなければなりません。」とHeld氏は述べる。
例えば、ベンチに腰掛けてのワーク環境は、個人ワークとコラボレーションの両方をサポートできるように設計されるべきだ。
「スペースの数が増えても、それでスペースが良くなるわけではありません。スペースやその隣接関係を最適化することが極めて重要になります。」とHeld氏は主張する。例えば、管理職が自席で1対1のメンタリング (指導) ができることも不可欠な要素となってくる。また、インドや中国など、ヒエラルキーが未だ重視されている国では、管理職が同じワークベンチにいる場合には、多少広めのデスクや追加としてのワークサーフェス、収納、コラボレーション用のゲストチェアなど、肩書きに見合った環境を創出すること、そして、より迅速な学習を促すことも考慮事項となってくる。
ワークベンチの端に位置するオープンスペースはカジュアルな会話や1対1のコラボレーションのためのエリアとして使用される。
クリエイティブな仕事にとって、インフォーマルでカジュアルなスペースは必須要素である。インドのムンバイにある広告代理店、 Ogilvy & Mather社のオフィスでは、パントリースペースは定期的な誕生祝いやソーシャルな交流、コラボレーションの「場」として広く活用され、オフィスには自由と活気がみなぎっている。
貴重な不動産を無駄なく活用するために、スペースを囲んで、個人の集中作業や静かな雰囲気の中での1対1の対話を促す空間づくりも参考になる。そして、オフィス中にこうした空間を設置することで、必要に応じて、瞬時にチームでのコラボレーションができるようになる。
Design spaces to be multifunctional: Use reception areas, lobbies and cafes as spaces for informal collaboration and socialization.
ベンチデスクを使用して、集中ワークをサポートするゾーンを創出し、統合アクセサリーレールでモニターなどを机上面から離すことでデスクスペースも有効活用できる。 これは自席でのペア作業も可能で、同僚間での迅速なトラブルシューティングを促すことになる。
3. 急激に変化する需要と限りある人的資源の中で、企業の復興力を高める
成長市場でのスペースを設計するにあたっての最後の不可欠要素は「復興力、回復力」です。スペースという観点から、急速に変化する業務プロセスや、進化する仕事のニーズ、人員増加に対してどう対処していけばよいのか。その都度、最初からやり直しをするわけにはいかない状況の中で、仕事パターンの増加と変化によって、オフィスも迅速にかつ容易に変化に対応するようにデザインされなければならない。
Held氏によると、鍵となるのは柔軟性もしくはモジュール化だという。モジュール式家具は簡単に再構成できるパーツからつくられているため、レイアウト変更にも柔軟に対応し、進化するビジネスニーズに的確に応えることができる。例えば、ベンチ式デスクは、ベースとなるベンチユニットを動かすことなく、構成要素を追加したり、取り除くこともでき、迅速な変更が可能になる。エクステンションデスクやプライバシースクリーンも、組織変更や個人ワークからコラボレーションワークにシフトする際に容易に設置できるアイテムである。
また、複数の活動をサポートする多目的空間もコアなエリアとしてデザインし、人や情報、ツールが一体となってつながるように設計されることが望ましい。これはクラスター化と呼ばれるもので、人、アイデア、体験といった異なる要素が異花受粉のように混じることを理想としている。
多機能で人行き交うソーシャルなスペースをデザインする:1日を通して、ソーシャルネットワーキング、心身共の休息と活性化を促すセッティングを融合させながら全体をデザインすること。そして、「コミュニティ」感を創出することで、安心して人がつながり、信頼関係を築ける機会をつくる「場」づくりをする。
モジュール式プランニング定義を活用する:ベンチ式デスクは、ベースとなるベンチユニットを動かすことなく、構成要素を追加したり、取り除くことができ、迅速な変更が可能になる。エクステンションデスクやプライバシースクリーンも、組織変更や個人ワークからコラボレーションワークにシフトする際に容易に設置できる。
よりダイナミックなワーク環境を創造する:インフォーマルなチームスペースを全体のデザインに統合し、より複雑な仕事や自発的なコラボレーションのニーズを的確にサポートする。