デスクの共有はウイルスの共有でもある?

360  Issue 67

飛行機で、映画館で、咳をしている人やくしゃみをしている人の隣になって嫌だなと思うことは多くの人が経験していることです。私たちの身の回りには目に見えない感染症を引き起こす細菌やウイルスなどの微生物が数多く存在しています。しかし、病気の人と接触しないようにしようとしますが、それはある意味簡単なことでウイルスから逃れることが一番難しいのです。

細菌はどんな表面にも生育し、増殖します。これは仕事環 境でも同じです。アリゾナ州立大学の細菌の専門家である Charles Gerba 博士によると、デスクトップは細菌が最も 生育しやすいモノのひとつだと言います。彼の調査による と、1 日でワーカーの手は1000 万の細菌に接触すると言 います。デスクの上に散らかったパン屑は細菌にとっては 絶好の住処です。これにはロンドンのクイーンマリー大学 の微生物学者であるRom Cutler 博士も同様の意見を述 べています。

  • 37% 2015 年までにモバイル 化されるオフィスの比率
  • 1000万 1 日にワーカーの手に付着するバクテリアの数
  • 80% 接触感染する確率
  • 25,000 携帯電話の1 平方インチ 当たりの細菌の数

このことに関連して特に懸念されることはワーカーの72% が多少の病気なら仕事に行くというデータがでていること です。これはランカスター大学とエリーゼ保険が実施した 最近の研究結果で明らかになったことで、感染症の80% は接触によるものだとWebMD ホームページでは指摘して います。

「自席の個人スペースから共有のグループスペースへの移行はウェルビーングをサポートするために抗菌を戦略的に考える絶好の機会を与えてくれました。」

もちろん、すべての細菌が有害であるというわけではあり ません。実際はほとんどの細菌は有害ではないのです。人 の身体の中には100 兆個以上の細菌が生息していて、そ の多くが密接な相互関係によって人を生かし、人間の健康 を保つにはなくてはならないものなのです。ボルダーにあ るコロラド大学のバイオフロンティアインスティテュートな どの機関で研究している科学者たちは微生物と人間の関係 を徹底的に研究し、人間の健康における微生物の役割を 学んでいます

同時にいくつかの細菌は病気の原因となる病原体であることも広く知られています。知識ワークがさらに恊働的にモバイルになると、多くのオフィス環境は今までのように割り当てられた自席スペースではなく、共有スペースを中心とした環境へと進化していきます。今まで以上の多くのワーカーが共有スペースを使用する機会が増えるため、有害な細菌を軽減することが極めて重要になると調査は指摘しています。

インターナショナルデータコーポレーションによると、 2015 年までに37.2%のワーカーはモバイルになると予想 しています。「私たちがデスクを共有することはつまり細菌 も共有するということになるのです。職場での細菌を最小 限に抑える方法として手洗いと表面のクリーニングは有効 です。しかし、効果があるまで続かないことも多いのです。 その結果、人々が行き交う、カフェやミーティングスペース などの共有スペースは細菌やバクテリアの住処と化してい るのです。」と言うのはここ数年、共有環境での細菌の繁 殖に関して研究を重ねているSteelcase WorkSpace Futures の研究員であるMichael Taylor 氏です。

観察と調査データを分析するとこの不快な現実を認めざる をえません。例えば、2012 年にKRC リサーチが実施し たアメリカ人の手洗い習慣の調査でアメリカ人の39%はく しゃみや咳をしたり、鼻をかんだりした際に手を洗わない という結果がでています。

細菌や感染は手で触る、くしゃみや咳など人から人へと移 り、細菌が付着しているモノを触るという間接的接触によ って拡大していきます。「風邪やインフルエンザにかかって いる人が触ったドアノブに触れることでそのウイルスを拾っ てしまうことになります。もし、手を洗う前にあなたの目や 口、鼻を触ってしまうと、そのウイルスに感染してしまうと いう具合です。」とMayo クリニックのホームページでは警 告しています。

これらの現実から、職場においても人々が頻繁に触る表面に付着する細菌を軽減させる方法として、抗菌素材、つまり微生物を殺滅したり、その発育を遅くしたりできる技術が求められています。

仕事場での抗菌

いまや、家庭用洗剤や歯磨き粉から服やおもちゃという消費材においては耐久性のある様々な種類の抗菌技術が発達しています。抗菌は一般的に化学物質ではありますが、自然合成物のものも多くあります。それらはタンパク質の合成や細胞膜の機能など細胞の活動を阻止したり、変更したりすることで微生物の静菌作用を起こします。

この研究が加速されたことで、抗菌への知識やその効果が急激に向上しています。抗菌オプションの中のいくつかは職場での可能性を秘めたものもあります。

金属と金属イオン 銀と銅は抗菌力の強い素材とし て長い歴史があり、それはギリシャ、エジプト、ローマ 時代の紀元前2200 年前にさかのぼります。この2 つ の金属は飲み水を保存、処理したり、防腐剤としての 軟膏にも広く使用されていました。これらの金属がイオ ンになることで細菌類の活動を抑えています。特に銀 は自然で効果的な抗菌剤として広く知られ、化学添加 物を組み込んだ銀イオンを粘土などのベースとなる素 材に取り込むことで効果を発揮します。銅は金属両方 で使用され、その酸化物がベースとなる素材に付加さ れます。

植物ベースの抽出物 植物での多くのエッセンシャルオイルは抗菌性の効果があります。エッセンシャルオイルが細胞膜を透過することで微生物を攻撃することも研究で明らかになっています。例えば、ベイリーフ、シナモン、クローブ、タイムなどは最も強力な効果を発揮するものとして有名です。多くのクリーナーやふきんなどの消費材で抽出物が広く活用されています。

表面形状 ある表面形状は非化学的抗菌材として自然界から借りてきたものです。特に興味深いものとしてSharklet®というサーフェス(作業面)は鮫の肌を模した何百万もの微細なダイアモンド型の隆起をきちんとした質感に仕立て上げたものです。実験したところ、このサ

「抗菌は健康重視の仕事環境を積極的に創ろうとするもうひとつの方法を提示しています。」

重要な検討事項

抗菌材の使用はマテリアルケミストリーの観点からも実現したい課題です。これらの要素を考えると抗菌材をいつ、どうやって、どこで使用するかの選択肢があることが非常に重要になってくるというわけです。

応用方法抗菌を選択し、適用するにはベース素材、加工・形成の方法、そして抗菌の効果と耐久性や究極の製品性能をバランスよく保つことが重要になります。技術がベース素材の中に組み込まれたり、製造後のスプレーやコーティングで処理されることもあります。これらの応用方法には使用前、使用中や使用後のライフサイクルにおいて素材を管理する選択肢もあります。

微生物の量 抗菌を使用するということは表面のす べての細菌を除去すると考えることは簡単です。しかし ながら、無差別に大量に除去することは不要であり、 逆に有害になることもあります。サウスカロライナメデ ィカル大学で微生物学や免疫学部門の副会長である Michael Schmidt 博士はこう説明しています。抗菌素 材を建物の中に適用するということは汚染微生物数を 身体の治癒力でそれを撃退するレベルにまで減らすと いうことです。

接触の可能性 職場の家具によっては他の家具より頻繁に人が触れ、汚染微生物の数も高くなり、有害な細菌に触れる確率も増えます。頻繁に人が接触する製品エリアのみを抗菌にすることは全製品を抗菌コーティングするよりもバランスのとれた方法といえます。

事実に基づいた情報 抗菌は各国の政府によっても規制されています。国によってその標準も異なっていますが、ほとんどの国では抗菌は登録されなければならず、ニーズに応じて特定の技術や応用がつくられています。抗菌に関しては賛否両論あり、ユーザーの行動に関する誤解も多くあります。よって使用を決定する場合は推測ではなく、事実に基づいた情報収集が非常に重要になります。

ソリューションを模索する

Steelcase では仕事の性質が変化するにつれ、仕事場で の細菌を軽減するための対応策として、抗菌された家具製 品の開発にも乗り出しました。「抗菌によって作業面の細菌 を軽減することでさらに健康を重視した環境をつくりだす ことができます。」とSteelcase の家具グループの事業部 長であるSteve Sanders 氏は述べています。

Sanders 氏が言うには、目標は安全で効果的な抗菌技術 を開発することです。新しいデスクシステム、Ology(オロ ジー)は抗菌仕様を含んだ初めての製品で、2014 年にヨ ーロッパから導入される予定です。この製品はワークサー フェスエッジ、デスクパッド、高さ調節コントロール、電源・ 通信アクセスポイントなど、頻繁に人が接触する部分を抗 菌オプションとして提供しています。Steelcase は抗菌の イノベーターであるナノバイオマターズ(NanoBioMatters) と提携し、Ology 製品のための抗菌技術であるBactiBlock® の活用を検討しています。この抗菌有効成分は銀イオンで、 成形時に埋め込むタイプです。

さらにユーザーのニーズに応えるために植物ベースの消毒 剤で有名なCleanWell 社と、そしてバイオテクノロジーの 会社、Sharklet Technologies 社とコラボレーションが 進行中です。このSharklet Technologies 社とのコラボ は業界独占です。

積極的な予防

人が仕事場で過ごす時間も以前と比べ増加し、1 日中動き まわりながら仕事をする中で、細菌を減らすことは大きな 懸念事項になっています。抗菌はワーカーのウェルビーン グを改善するという目的で健康重視の仕事環境を積極的 に創るためのひとつの方法を提示しています。抗菌素材は 通常の日課としての掃除や衛生上の習慣にとって代わった り、その習慣を減らしたりすることではなく、仕事場での 細菌をさらに軽減するオプションを追加しただけです。

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