ラーニング

新たな大学のハブ

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学習のための「図書館

「私たちは従来の図書館の枠を破り、何か違うものにしたかったのです。居心地も見た目も違う場所、何か学生の行動を変えることが出来る場所を望んでいました。」

これが本当に他の図書館とは違うものでした。GVSV (Grand Valley State University、グランドバレー州立 大学、ミシガン州)の学長であるLee Van Orsdel 氏は 古いタイプの図書館を21 世紀のラーニングセンター (Mary Idema Pew ライブラリー&インフォメーションセ ンター)として生まれ変わることを提案しました。図書館 が今までのような書庫ではなく、スペース、家具、そして 必要なツールを統合して、これからの「アクティブラーニ ング=能動的学習」や個人やグループでの学習スタイルを サポートし、学生が新しいスキルを身につけるように指導 し、束縛されずにどんな形式のコンテンツにもアクセスで きる、刺激的なスペースに変わるということです。

「学習の90%までが教室の外で起こっていると言います。 卒業後、社会人になってからの成功スキル、例えば明確に 考える力、自分の考えを表現し、伝え、説得する力、グル ープで作業し、コラボレーションする力を学び、養うという スキル取得などは特にそうです。この図書館は授業で学ん だことを復習し、知識を強化したり、不可欠なスキルを磨 くための大学の「ハブ=中核」として位置づけられていま す。」とVan Orsdel 氏は語っています。

従来の姿からの変換はまずは15 万冊の書籍をクラウド基 盤で実現するオープンスタックを採用して誰でもブラウザー で見られるようにすることから始まりました。60 万冊は図 書館の下に配置された自動格納システムを採用し、オンラ イン上で検索し、指定すると1 分以内に手に入れることが できるという優れものです。そして、約100 万書籍がデジ タル上で利用可能になっています。

この戦略によって書籍に占有される60,000 平方フィート の床面積を3,500 平方フィートまで削減するのに成功しま した。この削減によって利用可能となったスペースは学生 やスタッフに今までとまったく違う利用方法を提案したので す。

ここでの学習スペースは静かに熟考する「場」、いわゆる学 生の避難所のようなセルのような静寂空間から、積極的な コンテンツ創造やその共有のためのエネルギッシュなグル ープスペースまでその豊富さが特長です。「私たちはノイズ コントロールという概念をうまくスペースに生かしました。 つまり、建物の特長を利用し、東側には静寂なエリアを、 西側には会話を弾ませる多様なコラボレーションエリアを 設けるという具合です。」とVan Orsdel 氏は述べています。

音響サウンドシステムの配管を西側のコラボレーションゾー ンに配置することで学生は周りに気を使わずに通常の声で 話ができ、東側ではホワイトノイズを使って音をマスクし、 騒音や雑音を軽減するようにしています。室外なども有効 に活用し、円形競技場、屋内カフェ、中庭、3 階の読書室 なども設けています。

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「私たちはノイズコントロールという概 念をうまくスペースに生かしました。 つまり、建物の特長を利用し、東側に は静寂なエリアを、西側には会話を弾 ませる多様なコラボレーションエリア を設けるという具合です。」とVan Orsdel 氏は述べています。

図書館をどのように 21 世紀に適したスタイルに 変革できるか
Steelcase の研究員とデザイナーは 高等教育において重要な役目を担う 図書館のためのデザイン定義を設定 しました。そしてその定義はデザイン に統合されることになりました:

  • 学生同士が行き交い、対話をしながら学ぶソーシャル学習をサポートする多種多様なスペースをデザインする。
  • 図書館員は資料内容、IT サービ スのエキスパート、そして学生を 導く指導者として改革的な役割を 新たに担う。
  • 高い柔軟性とユーザーによる調整ができることで、インフォーマルなスペースのパフォーマンスを最大限に上げる。
  • 図書館で行われている様々な活動をサポートできるように近接関係を適切に計画する。
  • 個人が安全に、快適に作業に集中できるスペースを検討する。
  • 学生が資料やアクセス方法などを簡単に認知できるようなスペースを計画する。

「学習の90%までが教室の外で起こっていると言います。

学習プロセスの核に戻る

印刷ベースの資料を念頭に計画された従来の大学の図書 館の利用度は急速に下がっています。もちろん、それはデ ジタルコンテンツへのニーズが急増したためです。GVSU が5 年前に図書館の改革に着手した際に、学習する際の 図書館の役割を再度自問し、学習プロセスがどのように変 化しているのかを正確に把握しようと試みました。その結 果、Steelcase のWorkSpace Futures リサーチグルー プと設計事務所であるSHW グループとパートナーを組み、 現場調査を実施することになりました。

「大学の図書館は教室を除いて、アクティブラーニングが 行われる重要な場所になりえるのです。教室では学生は教 授の監督のもと、実践的な学習方法に参加し、図書館では、 学生は自ら積極的に情報を入手し、分析し、共有し、一人 でまたグループで作業をするそのプロセスにも徐々に慣れ てきています。これはまさに従来の書籍を保管する図書館 ではなく、アクティブラーニングを中心として機能している ことの証拠です。」と語るのはSteelcase のシニアデザイ ン研究員であるElise Valoe 氏で、彼女は米国内の公私 立大学の図書館を調べあげたチームの一員でもありまし た。

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図書館は書庫という概念はもう昔の話です。Mary Idema Pew ライブラリーはアクティブラーニングを実践するため にスペースや家具、そして、ツールを刺激的な方法で統合 することに成功しました。個人学習やコラボレーション学習 をサポートするこのスペースでは、学生が新しいスキルを身 につけられるような指導やどんな形式のコンテンツにもアク セスできるようなサービスが提供されています。

研究員たちは学生の学習パターンを観察し、包括的な見解 を見いだしました。「そこには私たちが知らない学生ライフ のリズムがあったのです。」とVan Orsdel 氏は言います。 通常、学生の活動が活発になる中期試験や論文の締め切 り期日というような予測可能な学期パターンではなく、「私 たちが発見したことは一日ごとにある特定のリズムがある ということでした。学生は日中、一人で作業することが多く、 夜に近づくにつれ、グループになり、離れてまた集まると いうパターンを繰り返しています。学生はテーブルや部屋に ただ行くのではなく、夜までこのような状態が続くのです。

学生の作業姿勢も1 日を通して変化します。作業や授業の 間はイスに直立に座り、友人と待ち合わせをしたりする場 合は携帯やタブレットを片手にリラックスしながら、ラウン ジチェアに座ったり、夕方になるとチームでのプロジェクト のために可動式の家具を探して学習しています。また、学 生は10 時から3 時ぐらいの間にグループ学習をする傾向 があることも明らかになっています。

学生のむらのある学習習慣はデザインをする上での課題で した。それは1 日中一人で学習するためのスペース、夕方 にはグループで集まれるスペースを設置するということでし た。そして、私たちはそれを可能にする理想的なソリューシ ョンを見いだしました。それは図書館に多種多様の変更可 能なスペース、例えば、学生のさまざまな姿勢をサポート する29 種類のチェアを含む豊富なサイズと形状の可動式 家具、壁マウント/キャスター付きホワイトボード、media: scape を装備したコラボレーションスペースなどを提 供するというものでした。

「デジタルコンテンツを使用したコラボレーションは通常、 6 名ぐらいで部屋に集まり、ノートパソコンを使用しながら 行うことが多く、その場合には画面を動かして見せ合った り、プラグを抜いたり外したりする煩雑さが多く起きます。 この煩雑さを解消できるのがmedia:scape で、中央にあ る一つのデバイスを通して誰もが平等に簡単に情報や内容 を表示、共有できるのです。」とVan Orsdel 氏は言います

さらに良いことは「もし、その配置が学生の行動に合わない場合でもすぐにそのスペースを修正、変更出来るという柔軟性です。」

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学生の評価 GVSU の学生は新しい図書館に対して高い 評価を下しました。

もう一つの図書館の象徴的なコンセプトは入り口付近に設けられた「ナレッジマーケット」を呼ばれる「場」で訓練を受けた学生が同僚のスキルアップのために指導するというものです。「通常、大学はこのようなサービスをシームレスに展開していません。教授が学生を教えるという基本をもとに、英語、ライティング、リサーチ、テクノロジー、スピーチなどという分野に区分してスペースが構成されています。ナレッジマーケットはライティング、スピーキング、プレゼンテーション、リサーチ、などの分野のスキルを磨くすべてのモノを一つの場所に集めています。学生は必要な時に自分で学びたい分野を選んでスキルアップが可能になるのです。」

午後6 時から深夜までオープンしているナレッジマーケッ トは正面玄関の近くに目立つように配置されています。そ の開放的なスペースにはキオスク、ビデオモニターなどが 装備され、歩くことや質問すること、素早いコラボレーシ ョンを促進するように工夫されています。

Mary Idema Pew ライブラリー &インフォメーションセンター

153,000 平方フィート面積
1,500 座席数
19 グループ用学習ルーム
10 media:scape 付き コラボレーションセッティング
29 座席のタイプ
150万 オープンスタックでの書籍数
600万 自動格納システムに保管された書籍数
100万 デジタル書籍数
250 コンピュータ数
50% 省エネ比率(同サイズの建物と比較して)
6,500万$ 総コスト

学生を学習に向かわせるための教室スペース

Steelcase Education Solutions の最新研究によると、 学生を学習に向かわせるためには、アクティブラーニング のために意図的にデザインされた教室が必要であるという ことです。

米国の4 つの大学で調査されたこの研究は異なる教室の デザインが学生の学習意欲にどのくらい影響を与えるかを 調べ上げ、大学の成功に向けての信頼できる予測要因にな ることも広く認識されました。

「教育成果を向上させることは普遍的な目標で、どうやって 達成させるかが常に研究と議論の課題になっています。この 注目すべき研究は最近終了しましたが、未だしばしば見過ご されているのが教室のデザインの役割です。私たちはこの 重要なギャップを明らかにし、信頼できる評価方法をつくり、 学習環境と学生の成功の関係における知識向上に大きく貢 献できる研究を進めています。」とSteelcase の教育ソリュ ーションの部長でもあるLennie Scott-Webber 博士は 述べています。

Steelcase Educations Solutions チームによって開発 された評価調査方法を活用することで、参加者は従来の机 とイスが列になって配置された教室での学習体験をアクテ ィブラーニングのために意図的にデザインされた教室での 体験と比較することができます。アクティブラーニング型教 室にはSteelcaseのアクティブラーニング用の家具である、 Node®チェア、Verb®教室コレクション、LearnLab®や media:scape®コラボレーションセッティングなどが配置 されました。参加者は教室で起こる学習活動についての質 問に答え、教室環境がいかに彼らの活動に影響しているか が評価されることになります。

学生の大半は特定した12 の各要因で、従来の教室より、 アクティブラーニング型教室を高く評価しており、どの大 学でもその最終評価には差がありませんでした。

学生と教授にとって、アクティブラーニング型教室はアクティブラーニングの実践をするにあたり、明らかな向上が見られ、学生を学習に向かわせていることが分かっています。この研究では教室のデザインが学生の創造する能力、授業に出席する動機、高いスコアを達成する力に寄与していることも報告しています。

「この研究は教室環境が学生を学習に向かわせる意欲 に影響を与えるという重要な発見を導きだしました。 Steelcase Education Solusions の教室は教授などが トレーニングなしでアクティブラーニング手法を実践出来 る環境を提供しています。その結果、教育機関の意思決 定者や設計デザイナーたちはアクティブラーニングをサポ ートするスペースに投資をすることで効果的な教室運営が 可能になり、学生を学習に向かわせ、集中させる環境を提 供することができるのです。」

3 つの大学での評価テストを含む第一段階目の結果は大学 計画協会が発刊している雑誌の2013 年度11 月号で高等 教育の教育環境特集ということで発表されました。 Steelcase チームは米国中の多くの大学の協力を仰ぎな がらこの調査を継続的に実施しており、重要な研究の一つ としてデータを集約し、知識として高めています。

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