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職場のノイズ問題

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高血圧、睡眠障害、心血管疾患、認知障害、イライラなどに共通するものは何だと思いますか?これらの健康障害のすべてに共通するものは私たちの周りにある「ノイズ=雑音、騒音」です。ノイズについては多くの人が不満を持っていますが、ほとんどの人が健康への有害性を理解していません。聴力損失や耳鳴りのような不快感だけが障害ではありません。ノイズの非聴覚的障害というものは増加傾向にあります。

環境ノイズをリードする専門研究者であり、ドイツ連邦環境機関のシニアリサーチオフィサーでもあるWolfgang Babisch博士によると、科学者はノイズを「不必要な音」として定義しており、耳障りなだけでなく、心理面と脳にも負担を与えるものしています。

ノイズ

イギリスを拠点とするコンサルティング会社、サウンドエージェンシーの会長であるJulian Treasure氏によると、オフィスでのイライラさせられるノイズには様々なものがあり、空調、気に障る着信音、交通音、近くの建築現場の音、精巧でないサウンドマスキングシステム、そして、人の声などがあげられるということです。ノイズがある環境は時間が経つにつれてますますその状況は悪化します。それはノイズが大きくなると、話者の音量もそれに応じて大きくなるというロンバード効果があるからです。

無視することがノイズに対する人々の最も共通の反応で、一見取るに足らないことのように思いますが実は深刻な問題を含んでいます。人間はどんなに些細なノイズでも察知するようにできています。私たちの祖先から自然界の中でその危険から自分の身を護るために何億年もの時間を掛けて遺伝子の中に書き込まれているのです。この音に対する敏感な反応が私たちの神経の中に組み込まれているため、私たちは環境に対して常に用心深くならざるをえなく、雑音によって簡単に気が散るようにできているのです。研究室で動物や人間に関する研究を進めると、動物は雑音にさらされると神経が刺激され、血圧が高くなり、ストレスホルモンが増幅することが分かっています。時間が経つと、これらの本能的な反応は新血管系に負担を与え、例えば、怒りや疲労感などネガティブな結果を引き起こすことにつながります。

これらの影響より更に悪いのは認知機能障害です。認知機能障害は聴覚以外の疾病で、長年研究者が注目し、研究している疾病です。複数の国で20以上もの研究が実施され、そのすべてで環境ノイズが学校の子供たちの学習に悪い影響を与えると示唆しています。

専門家によると、効果的な音響ソリューションがないと、多くのオフィス環境で日々のノイズが引き起こす悪影響はかなり大きなものと予想されます。

Babisch氏によると、ノイズそのものの性質もありますが、変動するノイズは一定で動くノイズレベルよりも人を苛立たせ、内容がない人の会話はさらに広帯域のノイズよりも気が散り易いと言います。

「認知的に、その中でも最も気が散る音は人の会話だと多くの研究調査が示しています。人間は人の会話に対して約1.6の周波数帯域を持っていて、もし、誰かの会話が聞こえてきたら、聞こうという意志が働かなくても、1.6の周波数の内の1.0を使ってしまうことになります。これには耳にフタをするわけにはいかないのです。つまり、残りの0.6だけで自分の内なる声を聞くことになるのです。」

今日、オフィスで遂行されている仕事から起こるノイズレベルも問題です。あるオープンレイアウトのオフィスでは、そのノイズ音は60から65デシベルといわれています。そのレベルは混雑している高速近くの85デシベルと比べると低く、冷蔵庫の音の40デシベルと比べると高くなります。しかし、知覚レベルでは仕事に集中できないことは確かです。ドイツではドイツエンジニア協会が仕事タイプによるノイズ基準を設けています。オフィスでの単純なプロセスワークには70デシベル、知的作業には55デシベルという基準を設定しています。ナレッジワークというのは複雑で創造的思考、意思決定、問題解決、綿密なコミュニケーションなどを伴う作業と定義しています。特にこのナレッジワークで、社員の成果が向上すれば、企業が前進することは間違いありません。

ナレッジワークのために推奨されるノイズレベルは1人での作業に加え、討論やミーティングにも関係してきます。実際、上記の協会は医者が手術を行うノイズはオフィスワーカーが1人でまたは他者と一緒にナレッジワークをするのと同じレベルの基準を設定しています。

“「最も気が散る音は人の会話だと多くの研究調査が示唆しています。」”

Julian Treasure

オープンレイアウトのオフィスでの通常のノイズレベルは60から65デシベルで、集中するには騒がしく、話す声が邪魔するため、効果的なコラボレーションをも妨げる可能性があります。もし、約1メーター離れて1対1の会話をする際に人が普通に話す音声のノイズレベルは約60デシベルです。つまり、同範囲でのノイズレベル、例えば、まわりで人が話していると、音声が邪魔され、すべての言葉を聞き取ることが不可能になります。「それにも関わらず、話していることが理解できるのは人間に備わった大脳皮質の機能によるものです。しかし、それは活発なプロセスでもあるため、長時間にわたり慢性的にノイズにさらされることでこの効果は期待できないばかりか、その機能にまで悪影響を及ぼすことになります。」と彼は言います。

言い換えれば、つまり、音響対策が悪い環境ではワーカーは他者の話を聞かないように努力するのと同じぐらい、他者の話を聞こうとすることで容易にストレスにさらされてしまうということです。つまり、すべての面でマイナスに働くということになります。

Treasure氏はこの状況を解決する方法は様々な「場」を与えることだと言います。作業内容やスペースを使用するユーザーにあわせて音響を考慮することです。ワーク環境はただ単に外観だけではなく、人間のあらゆる感覚、特に聴覚に配慮することが重要です。「音に注目することはスペースを設計する上での新たなツールになります。意図的に計画された音響はスペース全体をより生産的な場へと変化させます。」とTreasure氏は述べています。

ワークプレイスのノイズ問題は簡単ではありません。音は水のように最も狭い隙間にも入り込むため4つの壁とドアがあればそれでよいという具合にはいかないのです。どんな環境でも音は遮断するか、吸収するか、覆うかという方法で対処することになります。それぞれの方法は長所も短所もあるので綿密に検討されるべきです。妥協できる音響範囲で調節できるようにすることも全体のスペースを効果的にするには重要な必須項目になります。

a busy highway:
85db

 

open-plan office:
60–65db

 

refrigerator hum:
40db

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