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今こそ、「より豊かに働く」オフィスづくり

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コロナ禍は、私たちに価値観や仕事観も含めた生き方を見直す機会を与えたことは間違いない。慣れないテレワークや在宅勤務を経験したことで、働き方やオフィスに対する意識や期待は様変わりしている。コロナ禍以前のオフィスへの不満や苛立ちの原因となっていた障壁がコロナ危機によって図らずも顕在化し、解決の糸口が見えてきたともいえる。

テレワークや在宅勤務は、人によって様々な捉え方や感じ方がある。テレワークは万人のための唯一の解決策ではなく、あくまでも最適な働き方の選択肢のひとつに過ぎない。世界を見ても、国の状況や国民性などによってもその捉え方はさまざまである。

しかし、共通して言えるのは、従業員が真に望んでいるのは、在宅勤務やオフィス勤務という多様な選択肢を自由にチョイスできる「柔軟性」である。コロナ禍の在宅勤務の実体験から得たメリットやデメリットなどその多くの体験談を教訓に理想とする将来の働く姿がようやくカタチづくられようとしている。

従業員が必要とし、期待するコト

当社は、コロナ禍によって、従業員がオフィスで何を必要とし、何を期待するのかの世界的実態・意識調査を実施した。対象国は世界10か国、32,000人を超える。これらの調査から分かったこと、それは建物やオフィスの設計にはよりマクロ的視点が要求されることと従業員の意識や欲求の変化である。

安全・安心を感じる

コロナ禍を機にオフィスでのウイルス感染対策は必要不可欠になった。火災や事故、怪我といった従来の安全基準に加え、これからのオフィスは、ウイルス蔓延防止などの新たな安全対策が従業員がどこで働くかを決定する鍵になってくる。

新たな健康 + 安全の優先事項

73% 空気質
73% 安全プロトコルの順守
72% 施設の清掃・衛生
71% 物理的距離と仕切り
69% 建物内の密集度

より強固な帰属意識

浸透しつつある在宅勤務の中で感じる孤立感や士気の低下は、世界でも最大懸念事項として捉えられている。オフィス勤務復帰を望む最大の理由は、同僚とつながり、仲間意識を感じ、自発的に組織やチームに貢献したいと思える環境がそこにあるからだ。このことは従業員に満足度や幸福感をもたらし、最終的には企業の業績にも好影響を及ぼす。強固なコミュニティ意識の形成は、従業員の生産性やモチベーションを高め、イノベーションを起こし、会社への愛着心や忠誠心などの精神的繋がりを築くことにつながる。

生産的になる

コロナ禍において、価値観が変化し、何かに役に立つ意義のあることをしたい、仕事でのやり甲斐や喜び、目的を感じたいと考える人が増えている。従業員がオフィスに望むこととは効果重視の極めて実利的なことである:

包括的な快適さ

コロナ禍前、オフィスに勤務する40%の人は、身体的な痛みや不快さから一日中同じ姿勢を続けるのではなく、頻繁に姿勢を変える環境を求めていた。しかし、コロナ禍の長期に及ぶ在宅勤務で気がついたら長時間同じ姿勢で座りっぱなしであることが多い。しかも、柔らかなソファやダイニングテーブル、ベッドといった仕事には不向きな場所ばかりだ。そのために体調不良やストレスに悩まされている。今、人々は、一日中動きながらさまざまな場所や姿勢で働けること、そして、邪魔されない静かな場所で仕事に没頭できる環境を切望している。

自らコントロール

仕事を成し遂げ、与えられたタスクを達成するために、どこでどう働くかを自分の裁量でコントロールすることを望む声も多い。在宅勤務で気が散ることがなくなったと感じる人もいる一方、10か国中9か国がオフィス勤務復帰理由の上位に「静かでホンモノの仕事環境」が挙げられている。仕事をこなす場所として自宅は必ずしも理想的ではない。また、マルチな活動に忙しいチームは作業内容に合わせてプライバシー度を自ら調節でき、ツールや家具を動かしながら仕事ができる柔軟性を渇望している。


オフィス設計の際の
マクロ的視点

コロナ禍は、私たちの暮らし方や働き方、その習慣や価値観を大きく変容させた。生き方を変えるような経験をしたことで自分の人生にとって何が大切かという本質的な問いを多くの人に投げかけたはずだ。どう働きたいのか。その声に企業は真摯に耳を傾けなければならない。多くがこの機会を好機と捉え、顕在化した問題点を見直し、今後のオフィスの在り方、そして、そこで働く「人」がより豊かに働ける環境をいかに創出するかが今後の大きな課題になるはずだ。その際に是非考慮したいのが、「働く」環境を設計する上での4つのマクロ的視点である。

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「安全・安心」を考慮する

当社が32,000人の従業員を対象に実施した世界的実態・意識調査によると、コロナ禍においてその過半数の関心事は、室内空気質や空間の清掃・衛生、安全プロトコルの順守である。マスク着用や対人距離の確保はもちろんのこと、ウイルスの空中浮遊の動きを正しく理解するなど安全・安心へのより体系的な対策を講じるべきだろう。

例えば、空調換気システムの見直し、密集度や規則性のある家具の向きの変更、仕切りを使ってのスペース分割などウイルス拡散防止に向けたスペースの再構成は必須である。これによって従業員は安全だと感じ、安心して仕事に専念できるようになる。

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「生産性」を考慮する

また、コロナ禍で仕事を通して何か意義のあることを成し遂げたいという人間の価値実現への意識が高まったことも事実である。プライバシーが欠如したコロナ禍前のオフィスでは集中して仕事がこなせないと不満を持つ人も多くいたが、在宅勤務にシフトしたことでそれが解決したわけではない。コロナ禍のテレワークや在宅勤務を経験したことで、在宅ワークのデメリットから起こる従業員の生産性の低下(12%)や士気の低下(14%)なども報告されている。

従業員がオフィスに望むコトのトップ3の全ては生産性に関わることである。つまり、同僚などといかに効果的にコラボレーションできるか、ツールや資料に簡単にアクセスできるか、仕事に集中できるかなどである。複雑な問題解決やイノベーションに向けての取り組みには、リアルとネット両方の環境の中で、チームと個人の両ワークを織り交ぜながら、その間を頻繁かつ俊敏に切り替えられる環境構築が必要不可欠になる。

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「一体感」を考慮する

コロナ禍を乗り越えた先に人が望むもの、それは創造性や知的好奇心、人が触れ合うことでの刺激から生まれる「一体感」である。従業員のやりがいやモチベーション向上には、企業経営層とのコミュニケーションから生まれる一体感が組織力をより強固なものにしていく。従業員がオフィス勤務復帰を求める上位2つの理由は、同僚とのつながり、組織との目的共有意識であることからも明らかである。これらはいずれも、信頼や組織としての連帯意識や対等な参画(インクルージョン)、困難や逆境にも負けない適応力であるレジリエンスの強化と関係している。さらに、組織としてのコミュニティ形成は、従業員のやる気や生産性、イノベーション力や有能な人材の定着とも相関関係にある。これからのオフィスは、人とのつながりをより強固なものにするインフラとしてのオフィス創造である。それによって人同士が相互につながり、意味ある価値や成果をもたらし、変化に戸惑うことなく、むしろ強い適応力で変化を奨励する組織文化を育成することができるのである。

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「柔軟性」を考慮する

元々、オフィスはその進化や変更を前提に設計されていないため、その建物やオフィスの内装や電気設備、家具は固定されたままである。しかし、これからは激変するビジネス環境に合わせて容易に適応できる「場」、多目的に利用できる「場」へと変換されなければならない。家具は可動式で簡単に移動でき、利用目的に合わせてスペースを仕切るなどスペースの有効活用も考慮したい。リアルとネット(デジタル)のシームレスな体験は、従業員がさまざまな場所に分散しながら働く環境整備には必須要素である。

どんな危機でもそれを乗り切るには大きな困難を伴う。しかし、その危機を教訓として学び、発見することも多い。コロナ危機は、あらゆる企業やその従業員にとって、働き方の見直しやともに達成する目標を共有する好機にもなっている。そして、オフィスを単なる働く空間ではなく、一体感やレジリエンス、目的を共有できるコミュニティ形成の「場」として再認識し、真剣に再考する時期がようやく来ているのかもしれない。

出典: Steelaseグローバルレポート、2021年1月

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