「注意力散漫」対策としてのデザイン

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By James Ludwig
グローバルデザイン担当副社長、Steelcase

デザインとは問題解決である。私たちは今日、ワーカーが直面している問題のひとつを「注意力散漫」と判断し、それを解決するために思案を重ねてきた。

「今」というこの瞬間にしている作業に没頭し、それが楽しいと思える「フロー」体験は誰もが望んでいる状態だ。しかしながら、人間の脳は簡単に気が散るように出来ているのだから仕方がない。

私たちが直面している「注意力散漫」の要因は本能的ともいえる。人間は「フロー」の状態を望むのと同じぐらい何か斬新で新しいものを求めるのも本能なのだ。雑踏の中の雑音、周辺の動きに簡単に気を取られてしまう。感情が動機となって人間として成長できる一方、環境をコントロールできないと感じると不安でストレスが溜まってしまう。そして、なにより気を散らすものは私たち自身の中の心の声なのである。

働く/学ぶ環境を見た時に、私たちはあまりにも多くの情報や人、雑音、不快なものに囲まれているのに気づく。刺激とはある場面では生活を高揚させ、エネルギーを生み出す一方、他の場面ではどうしていいのかわからなくなるのだ。

James Ludwig Vice President Global Design, Steelcase
James Ludwig
グローバルデザイン担当副社長、Steelcase

これらの「注意力散漫」な状態を軽減し、人々が最高の能力を引き出せる環境をつくりだすのがデザイナーである私たちの仕事である。私たちが製品を生み出す際に重視するのはただ単に見た目のデザインではなく、その根本に隠れ、製品を支えている目に見えない「インサイト」である。その明確な潜在的ニーズを徹底的に観察し、適切な手段を通して問題解決を追求し、一貫性のある造形美をつくりあげていくのである。

気が散るようにできているのが人間である。それでも活力を仕事や学習する目的や意義につなげたいと願っている。

人間であることの矛盾はまさにここにある。 T次ページでは私たちのデザインプロセスとデザイナーとして基本的な問題解決に向けてのその発見から表現にいたるまでの流れを説明しよう。


BRODY WORKLOUNGE

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ヒトの祖先は獲物を捉えるために、動物の動きに敏感に反応するように視力が非常に発達したと考えられている。今日、オフィスで少しでもヒトの気配を感じたら、ついそちらに目がいってしまうのは無理のないことなのだ。高いパフォーマンスを誇るBrody™(ブロディ)ワークラウンジが目指したものはまさにこの人間の原始からの本能に対応する微小環境づくりで、集中とか「フロー」状態を保持出来るような空間を実現している。

「デザインには高度な反復プロセスが要求される。まず、スケッチを描き、考えを明確にし、アイデアを素早く具現化する。そして、図画を通して構築したいものを確認するという一連のプロセスである。」

Markus McKennaDesign Director, Steelcase Education

「Brodyは背後から守られているような心理的な安心感を与えるラウンジである。周囲の環境とどの程度距離を置くかを自ら調整でき、リラックスしながら脳に集中するという信号を送ることができる。それが脳内のより強い水平方向の接続や創造的思考を促すことにつながっている。」Markus McKenna Design
Director, Steelcase Education
“「学生を観察すると、学習方法がいかに変化し、それが未来の働き方にどう影響を与えるかがよく分かります。学生の行動は極端ではあるともいえるが、彼らが与えられた環境の中でさまざまな問題に直面しながら学んでいる状況を垣間見るとなにが問題かが明らかになります。そこには一貫した行動パターンがあり、何が問題で、その問題がどう学習を阻んでいるかを見ることができます。」” ジェネラルマネジャー、 Steelcase Education
“「学生を観察すると、学習方法がいかに変化し、それが未来の働き方にどう影響を与えるかがよく分かります。学生の行動は極端ではあるともいえるが、彼らが与えられた環境の中でさまざまな問題に直面しながら学んでいる状況を垣間見るとなにが問題かが明らかになります。そこには一貫した行動パターンがあり、何が問題で、その問題がどう学習を阻んでいるかを見ることができます。」”Sean Corcorran
ジェネラルマネジャー、 Steelcase Education

一般的なラウンジ家具はノートパソコンや携帯デバイスで作業することを念頭にデザインされていないために、座った瞬間は快適でもそれが持続しないことが多い。よって時間が経つに連れ、画面のほうに向かって前屈みになり、首や肩の痛みを引き起こす姿勢をとらざるをえなくなる。デザインチームはこの問題を解決するために「アラート・リクライニング・シート・アングル」という機能を生み出した。可動式サーフェスによって、デバイスを目の高さに保ち、リクライニングしながらも快適に作業ができる。

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3Dモデルはアイデアを検証するためのツールのひとつであり、いかに多くのプロセスを踏んで、迅速にプロジェクトを進めるかが最も重要だ。プロトタイプのステージでは、実際に自分たちで試し、上手くいくかどうかを判断している。その後の課題はいかに顧客に安くモノを提供できるかということだ。」

Markus McKenna デザインディレクター, Steelcase Education

「3Dモデルはアイデアを検証するためのツールのひとつであり、いかに多くのプロセスを踏んで、迅速にプロジェクトを進めるかが最も重要だ。プロトタイプのステージでは、実際に自分たちで試し、上手くいくかどうかを判断している。その後の課題はいかに顧客に安くモノを提供できるかということだ。」 Markus McKenna デザインディレクター, Steelcase Education
「私たちは学生が複数のラウンジ家具を移動しながら、環境を変えているのを目にした。彼らは集中できるように家具を動かして、外界からの邪魔を排除しようとしただけでなく、デバイスや資料が見やすいようにラウンジの位置も変えていた。チェアを座るだけのものではなく、作業面としても利用していた。」
Mark Walters
プロダクトマネジャー, Steelcase Education

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デザインディテールは見た目の美しさだけでなく、邪魔を最小限に保ち、目立たないが実用的な機能として取り入れられている。鞄も手の届くところにきちんと収納できること、手元を照らす照明も調節可能であること、電源も簡単にアクセスでき充電に困ることがないことなど、集中できる様々な工夫がされている。


Thread(スレッド)配電装置

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Thread(スレッド)配電装置。電源がないことも仕事に集中できない主要要因のひとつである。そこで、そのソリューションに特化するデザインチームが挑戦したのが使い易く、移動可能で、最終的にはカーペットの下に隠れ、費用対効果も高い配電装置の開発だ。その結果生まれたのが、超薄型Thread配電装置で、電源コンセントが設置されていない場所でも電源の供給が可能になる。

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Thread配電装置を設計するにあたって、課題は約4.7ミリという超薄型であることだった。その薄さだとカーペットに隠しても見た目に影響がない。そして、組み立てもシンプルであることが課題となった。結果、カーペットを持ち上げ、コードを固定し、コンセントを出し、カーペットを戻すだけの簡単なものになった。

Steelcaseの研究員たちは学生やワーカーがデバイスを自分の思う通りに快適に使用できない状態を我慢しているのを目の当たりにしていた。教室では周辺の電源に延長コードを使用してコードがむき出しになっているのも普通だ。

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「Thread配電装置は電源コンセントがない場所で威力を発揮し、タブレットの駆動時間を気にせずに継続的に作業に集中できます。」

Sean CorcorranGeneral Manager, Steelcase Education

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